第10話 俺の家に来てください

「よし、全員集まってるな。番号!」




「いち!」




「いちです!」




「なっ、じゃあ私もいち!」




「えーと……いち?」




「いちしかいないじゃないか! 誰だ悪いのは」




俺は今生徒会メンバーの点呼を校門でとったのだが、まさかの展開であった。




「幸助。何で俺が言った後に、いちって言ったんだ?」




「ご、ごめんなさい。僕この点呼をよく知らなくて……」




幸助が原因だった。だが悪意がないので攻めづらい。




「……」




「真理亜もどうしていちなんだ?」




「わ、私は堀田君と違って、この点呼を知らなかったわけじゃないわ。だけど、前の2人がいちって言って、にって言うのも嫌だし、さんなんてなおさら負けたみたいじゃない!」




勝ち負けとかよく分からん。ようはタダの負けず嫌いだ。




なんとまぁ自己主張の強いメンバーだ。






「それはさておき、皆今日はちゃんと必要なものを持ってきたか?」




「もちろんだ」




「はい、完璧です」




「一応必要なものを持ってきたわ」




「うん、大丈夫だよ」




「ではしゅっぱーつ!」






「はい到着!」




生徒会メンバーで集まったのは俺の家である。




「ここが翔君のおうちなんだね」




「良いわね、近くて。これはいわゆるアパートっていうものかしら?」




優希先輩と真理亜は俺の家に来たことがないので、かなり興味深げに見ている。




「まぁそうなる。風呂とトイレはついてるけど、築年数が長いから家賃は控えめだぞ」




「でも、入居者が今翔を含めて……、3家族だっけ?」




「ああ、それくらいだな。俺が卒業するまでつぶれないといいんだけどな」




「僕も両親が許してくれるなら、ここに住むんですけどね」




「幸助は1人暮らしする意味が無いだろう。仕方ない。まぁそれよりも、こんなところで立ち話もなんだし、入ってくれ」




「あ、桂川君、これうちの両親から」




家に入ろうとすると、真理亜が何かを渡してきた。




「何だこれ?」




「お菓子よ。初めて人の家にいくときは、ご家族に挨拶と、手土産を持っていくものでしょ」




「ああ、ありがとな。でも俺は1人でここに住んでるから、俺が食べることになっちまうな」




「え? 桂川君って、ここに1人で住んでるの?」




「ああ、そういえば真理亜……、あと優希先輩には話してませんでしたね」




「うん、私も知らなかったよ。だって、普通1人暮らしをする生徒は、寮暮らしをするもの」




「ええ、それは父親の単身赴任が急に決まりすぎて、寮の空きがなかったんです」




「そっか。でも2年生になったら、申告できたんじゃない?」




「できますけど、俺ここでの1人暮らしを気に入っているんで。住み慣れた場所にいるのが気楽です」




「お父様の単身赴任なら、お母様は桂川君とここに残るのが普通なんじゃないの?」




真理亜がそれでも気になるのか、質問してくる。




「父さんが生活力ゼロで、俺よりも1人にすると危ない人だから。しかもだまされやすいんだ。俺の家が貧乏なのも、その父さんの性格が悪いくらいだから、1人にしておいたら、何が起こるか分かったもんじゃない」




「そうなの……、桂川君、結構苦労してたのね……。貧乏って言うのは知ってたけど……」




真理亜の目線が急激に優しくなる。




「あんま気を使わなくていいぞ。今いろいろ経験しとくのは悪くないと思ってるし、不幸だとも思ってない」




まぁ慣れるまでは実際苦労をしていたが、習慣化すればそんなに対したことは無い。








「さて、ここが俺の部屋です」




4人を案内して、自分の部屋に通す。




1人だとこの狭い部屋もそう感じないが、5人ともなればやはり狭い。




「よっこらしょっと」




「失礼しまーす」




俺の家に普段から良く来る孝之と幸助は、慣れたように部屋に上がる。




「ふーん、結構綺麗にしてるじゃない」




真理亜も俺の部屋を見渡しながら、家に上がってくる。




「何にもない部屋ですよね?」




「堀田君……、私が一応言葉を選んで言ったことを台無しにしないで頂戴。




「ん? 別に気を使わなくていいぞ。余計なものが無いだけだ」




「気なんか使ってないんだから!」




「お、お邪魔しまーす」






「? 優希先輩、どうしたんですか?」




ところが、優希先輩が玄関で靴を脱がずに立っている。




「えーとね……、ちょっと緊張しちゃって……」




「どうしてですかお姉さま! 体調でも悪いんですか!?」




真理亜が心配そうに優希先輩のところへ行く。




「う、ううん。別に体調は悪くもないんだけど……、えーとね……」




優希先輩がキョロキョロしながら、妙に落ち着かない。どうしたんだろう?




「とりあえずパイセン、荷物だけ預かっときますよ。副会長も」




玄関前で荷物を持ったままでいる女子2人の荷物を孝之が受け取って持っていく。男らしい。




「まさか、九十九先輩、男の子の部屋に入るからって、緊張なさってるんじゃないですか?」




「!!」




幸助がそう言うと、顔を蒸気させて、目線を俺から逸らす。




「まさか……、そうなんですか?」




「う、うん。男の子の部屋に入ることなんて、無かったから……」




何だこの人。可愛い。




「べ、別に俺の部屋なんて、シンプルな部屋ですから、そんなに緊張しないでください。2人きりというわけでもないですし、真理亜もいるんですから」




「そ、そうですお姉さま。私がついてます!」




「う、うん、ありがとね。じゃあお邪魔します……」




そしてようやく、優希先輩は俺の家にあがってくれる。




「でも意外ですね。むしろ副会長先輩のほうが、男の子の部屋にあがるなんて嫌がりそうなのに。実は男慣れしてるんですか? 遊んでるんですか?」




「遊んでないわよ! 私はお兄様が2人いるし、パーティーとかで、殿方と交流することも多いから、気にしないだけよ!」




俺もこの部屋に生徒会メンバーを呼ぶという話になったときは、優希先輩よりも、真理亜のほうが問題だと思っていた。不潔だとかなんだとかで、ヒスを起こすと可能性が高いからだ。まぁ結局ヒスは起こしてしまっているが、まぁ真理亜が嫌じゃないなら、それはそれでいい。




ただ優希先輩が、緊張しているのは、俺も緊張して困る。真理亜のヒスよりある意味困る。




いつも結構俺への距離感近い割りに、そういったところは乙女なんだな。いろいろ基準が違うのだろう。




そしてそろそろ幸助を止めないといけないな。




「あたふたしてる九十九パイセンの胸が揺れるのを遠くから堪能だ」




「お前はさっさと準備を手伝え!」




遠くからまた胸を見ている孝之を注意した。








「じゃあちょっと準備しますので、待っててください」




俺は4人を適当に案内して座らせた。




「あ、僕も手伝います!」




幸助が俺の手伝いをしてくれるようだ。




さて、なぜこの5人が俺の家に集まっているのかというと、生徒会メンバーの交流を深めるための親睦会のためだ。




優希先輩が会長として、その会をやったらしいのだが、最初に団結を深めることで生徒会活動が円滑に進んだらしい。




ただ、優希先輩の家は、まぁまぁ大きい家である。




てっきり初対面のときの話で1人暮らしをするのかと思ったら、従姉妹の家にお世話になるだけだったらしい。




まだ行ったことはないが、聞くところによると、お付の人がいる程度には大きいらしい。




ちなみにいうと、真理亜はもっとすごい。更に上のランクのお金持ちである。




というわけで、生徒会メンバーの裕福度は、




真理亜>>優希先輩>>>>>幸助≧孝之>>>俺である。




幸助の家も、そこそこ裕福で、孝之の家も何不自由ない。割と平均値は高い。俺が縛下げしている。




優希先輩のまねをして、会長の家に案内するという企画を立てたのだが、俺が貧乏であることを知ってか、全員材料を持ち込んでくれるという優しさを見せてくれた。皆嫌な顔ひとつしなかった。会長冥利につきるぜ。




「じゃあ鍋の準備をしなくっちゃな」




それで、企画されたのが、闇鍋である。何を食べたいかが特に決まらなかったので、だったら遊んで見ようと俺が冗談を言ったらまさかの全員賛成というね。




「桂川君、桂川君」




「ん? 何だ? 手伝いならいいぞ」




幸助がいるだけで、キッチンはやや渋滞している。




「ううん、そういうことじゃなくて、あの部屋に隅にあるあれは何かしら?」




「あれ? ああ、あの馬鹿でかいぬいぐるみのことか?」




テレビと必要最低限の収納くらいしかない、六畳一間の部屋の隅っこで、無駄にスペースを取っているものがある。




それは、無駄に大きいひよこのぬいぐるみである。




「あれは、どうしたのかしら?」




「ああ、あれは昔父さんが、射的であてて、そのままずっと母さんが手入れをして大事にしてたんだよ。モフモフだから、父さんも母さんもいつも抱いたり、もたれたりしてたんだ。だけど、大きいから、単身赴任には持ってけなくて、ここに置いてあるんだ」




「こ、コケッピーにぬいぐるみは、今はなかなか手に入らないのに……、しかもこんなに大きいのなんて」




「ん? こいつ名前があるのか?」




「ええ、ちょうど7年位前にはやったキャラよ」




「というか、真理亜、ぬいぐるみが好きなのか?」




「え……、べ、別に好きじゃないわよ。ただ、私も女の子だから、ぬいぐるみが部屋に1つや2つはあるし、昔、昔よ。小さい頃に、このコケッピーが好きだったから、ちょっと思い出しちゃっただけよ」




必死になって否定しているが、内容が微妙に否定しきれてないし、チラチラぬいぐるみを見ていては説得力がない。




まぁしっかりもので大人なキャラを本人はやってるつもりだろうから、ぬいぐるみは子供っぽい趣味だと思っているのだろう。普段から幸助をちょくちょく可愛いって言ってる時点で、可愛いもの好きは隠せてないのだが。




「ちょっとそのコケッピーだっけ? 触ってやってくれるか?」




「え? 何でよ……」




「父さんと母さんは毎日のように、触れてたんだけど、俺はそこまで触らん。だから、メルヘンかもしれないけど、寂しいかもしれないから、真理亜が触ってやってくれれば、喜ぶかもしれん」




「ふ、ふ~ん。何か乙女チックなことを言うわね。でも、確かにぬいぐるみって、触られて意味があるものね。うん、じゃあ私が触っておいてあげるわ。仕方なくね。仕方なくよ」




そう言って、真理亜はキッチンを離れた。




こっそり俺と幸助が真理亜を覗くと、コケッピーをモフモフした後、嬉しそうな笑顔で、持たれかかっていた。




それを孝之に何か言われたのか、言い返していた。




「ツンデレって本当に面倒ですね。どう考えても副会長さんはぬいぐるみ好きなのに」




「あいつはもうああいうもんだと思って付き合っていったほうがいいだろ。幸助もあんまり真理亜をあおるようなことすんなよ」




ツンデレ&ヒスのツンデリック対応法。基本的に、こちらが下手に出て、プライドを傷つけない。




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