第14話 おかし話
「にゃ~」
「よしよし、お菓子あげるね~」
生徒会室になぜか猫が入り込んで、くつろいでいる。
「あの猫は、優希先輩のだったのか?」
「いや、あいつは野良だ。何か知らんが、ここの学校に良く来ているようだぞ」
「ああ、だから良く見るのか」
優希先輩が撫でながらお菓子を上げている猫は、去年もちらほら歩いているのを見た。
俺の机の上で寝てたこともある。ずいぶんと人なつっこい猫で、結構可愛がられている。
「猫って菓子をやっても大丈夫なのか?」
「あれは猫用のお菓子ですよ。どうして元会長先輩が猫用のお菓子を持っているのかは別問題ですが、あれ自体は問題ないはずですよ」
「はぁ……、羨ましい……」
俺達3人が猫を見ながら雑談していると、真理亜がぽそりとつぶやいた。
「そんなにお菓子が食べたいんですか? でしたら、こちらと抹茶をどうぞ」
「ち、違うわよ!」
「ん? じゃあ何なんだ副会長?」
「えーえーとそれはね」
「もしかして、あの猫みたいに、餌付けされて甘えてごろごろしたいのか?」
「あー、私はお菓子が羨ましかったのよ。堀田君、お菓子とお茶を頂戴。う~ん、美味しい、ずず……、にがぁい……」
結構お茶を毎回飲んでいるのだが、なかなか慣れない様だ。
と、言うわけで、幸助の持ってきたお菓子で休憩タイムに入る。
「う~ん、美味しい」
「幸助はいつも家で食ってるだろ。よく毎回新鮮に喜べるな」
「甘いものは大好きなんですよ。本当に大好き」
大好きって言うときに、お菓子じゃなくて、俺を見ながら首をかしげるのは止めていただきたい。
本当に可愛いから、マジ照れしてしまう。回りに見られたら誤解を生む。誤解でもないけど、誤解されたくない。
「堀田君は、和菓子以外も甘いものは好きなの?」
「はい、家が和菓子ってだけですから。洋菓子も大好きですよ。ただ、お菓子って高いので、なかなか手が出せないですけどね」
幸助は甘いもの全般が好きだが、老舗のお菓子を食べているため、まぁまぁ舌が肥えている。そのため、洋菓子も、そこそこのレベルのものを好んで食べる。
別に安いお菓子を食べないわけではないのだが、幸せそうに食べるのは、やはりいいお菓子だと思う。
「そっか。ねぇ堀田君。ちょっとお仕事してみない?」
「今日は家の手伝いがありますから、ちょっと残業はできないですね」
幸助は意外とイエスマンではない。生徒会活動は確かに大事だが、それは生徒会役員が自分の都合を全て捨てて何かを成すということではないということをよく分かっている。幸助は家の手伝いが無い日は、ちゃんと残業を断ったりもしないので、それで文句を言う人もいない。
だとしても、カリスマの優希先輩の誘いを断れるのは、今のメンバーでは幸助くらいだろうが。
「そっか、じゃあ後誰を誘おうかな。今日はお菓子同好会の新作発表で、その試食会に参加できるんだけど……」
「元会長先輩。たった今大丈夫になりました。家には連絡をしておきます」
「大丈夫なの? 怒られない?」
「大丈夫です。本気で謝れば許してもらえます」
ちなみにこれは誇張ではない。幸助はその可愛らしさで両親に溺愛されているので、涙目で謝るとダブルで陥落する。
「そっか。じゃあ後は……」
「お姉さま……、無念ですがダイエット中の私には、生クリームは直視できません。堀田君の和菓子で我慢します」
「俺はクリームは余り好きじゃないんでいいです。それに、甘くて綺麗なお菓子は可愛い女の子のものですから、俺が食うわけにはいきません」
「じゃあ翔君来る?」
「いいんですか?」
「うん、3人まで大丈夫だから。生徒会長がいてくれれば、しっかりと視察もできるしね」
「分かりました。カロリーをいただきに行きます」
「おい、幸助はいいが、お前も行くのか?」
「そりゃ行くよ」
「お前は可愛くも女の子でもないだろう?」
「だから何だ」
「……まぁ仕方ないか。可愛いか、女の子か、貧乏は食べてもいいに考え直そう」
孝之が何かを妥協して口をかみ締めているが、無視した。
「うう……、お姉さま、目標体重になったら、次こそはきっと……」
孝之と真理亜は先に帰宅し、優希先輩と幸助とともに、お菓子同好会の発表がある家庭科室に向かった。
「はい、皆さんお集まりいただきありがとうございます」
お菓子同好会の部長が家庭科室に集まった全員に声をかける。
ちなみに、お菓子同好会とは、まだ設立から2年しか経っていない比較的新しい同好会である。
元々料理部という正式な部活があり、そこから、お菓子を作ったり食べたりするのが好きなメンバーが独立をして成立したものである。
「昨年の活動が認められて、私達の活動にも部費がある程度いただけることになり、正式に料理部から独立することができました。なので、今年の文化祭には是非お菓子同好会も、料理部と同様出し物をしたいと思っています。そのため、何度か定期的に試食会を行う予定なので、皆様にお声かけをいたしました」
皆様と言っても、メンバーは俺達を含めても10人しかいない。
料理部のメンバーや、その他も、茶道部、手芸部など、文化部のメンバーが呼ばれているようだ。
「会長さん、いらっしゃい」
お菓子同好会のメンバーに俺は声をかけてもらう。
「ああ、ご招待いただいてありがとうございます」
「貧乏でご苦労されてるみたいですから、今日は楽しんでいってくださいね」
めちゃくちゃ優しい笑顔で言われた。何か恥ずかしい。
それに、やはりお菓子同好会と、おしゃれな部活のメンバーしかいないせいか、男は俺と幸助しかいないから、目線のやり場に困る。
「会長、お菓子同好会の予算アップありがとうございます」
「去年も九十九先輩には気にかけてもらって、生徒会の人には感謝しています。ですから、是非私達の活動を見ていてくださいね」
「実験作も多いですから、あまりお口に合わないかもしれませんが、よろしくお願いします」
その後もメンバーに次々と話しかけられた。う~む、会長という知名度エリート。俺が去年よく知らない相手に話し掛けられるなんて無かったもんな。
「それでは、準備しますね~」
「あ、九十九先輩、ちょっといいですか~」
「何かな~?」
準備をしている間、女子同士のかしましい会話がはじまり、優希先輩も会話に混ざっている。
ここにいるメンバー全員に慕われているのか、次々と話しかけられていた。
自然と男2人である幸助と2人になるはずである。
「う~ん。やはり女子の会話には参加ができんな」
「そうかな?」
「幸助も参加したかったら、してきていいぞ」
「それだと翔先輩が1人になっちゃうじゃないですか。優希先輩が戻るまではいますよ」
「ありがとな。ここは意外と居心地がよくない」
はじめ、女子に話しかけられたのは、会長としての社交辞令。その後は特に話しかけられることも無い。
もともと俺の女子との会話は、優希先輩と真理亜くらいしかないので、そこまで女子トークもできん。
「それにしても、元会長先輩はやっぱりこの中でも飛びぬけてますよね」
「ああ、そうだな」
幸助が小さい声で、俺に言ってくる。この学校の女子のレベルは決して低くないが、やはり優希先輩はその中でも群を抜く。
幸助はあまりこういう会話をすることはないが、やはり幸助も普段そういうことを思うことはあるのか。
「おっぱいがダントツで」
「おい、孝之に何か入れ知恵されたのか! あいつに何をされた!」
俺はつい大声で怒鳴りながら、幸助の両肩を掴んで揺らす。
「な、何もされてませんよ? 僕はされるなら、翔先輩の方が……」
「頬を赤らめるな! 後意味深な言い方をするな」
俺が大声を出したせいで、女子達がこっちを見ているので、元を正せば俺が悪いが、その注目された状況で、事態を悪化させる発言をされたものだから、女子達が、喜怒哀楽様々な表情で騒ぎ始めた。
「あ、すみません。何も、何もないです!」
俺が急いで弁明したことで、何とか騒ぎは収まった。
「そ、それで、どうして急に胸の話なんかした?」
「普通にそう思っただけですけど? いつも森先輩と楽しそうに話してますから、好きだと思いましたし、あれくらいあると、いいことも悪いこともたくさんあるんだろうなって」
「な、なんだ、そういうことか」
そりゃ俺は好きだよ。そうじゃなきゃ孝之と親友やってられない。
「と、とにかく。話はしてもいいが、周りが女子が多いときは控えてくれ」
「分かりました~」
「はいお待たせしました~。新作第一弾。苺の杏仁豆腐風です!」
出てきたのは、四角形のガラスのお皿に、色の少し赤い杏仁豆腐が入っているものだった。
「お、うめぇ」
とりあえず一口。杏仁豆腐は意外と店では手に入るものではないので、久々の触感だ。ただし、店に売っていたからと言って買えると言うわけでもない。金がないからな。
「あ、もう食べちゃったんですね。大量に作れるか実験したので、たくさんありますからどうぞ」
俺が周りのペースとも合わずに、一気に食べてしまったのでお菓子部の部長がもう1つ持ってきてくれる。
「ぱく、うん、またうまい……。すいません。俺試食会に呼ばれてるのに、何の参考にもならないですね」
「いいんですよ。美味しいかそうでないかがわかるのも大事です。やっぱり作ったものが美味しいって言ってもらえるのが1番ですから。それに、他の人がちゃんと指摘してくれてますから」
周りを見ると、他の生徒は救い上げた杏仁豆腐を指して何か言ったり、それに対して部員がメモを取ったりしている。
「どうですか? 堀田君?」
幸助も声をかけられていた。幸助は結構グルメだし、いい感想が出るのではないか。
「うん、甘さも控えめでいいと思います。触感はムースに近いかな? ムース自体は悪くないけど、固めるのに使ったゼラチンをもう少し減らして、生クリームをもっと増やしたほうが、滑らかさは増すかな。その分、固めるのが難しくなるから、生クリームを丁寧に立てる必要はありますけど、その労力をかければ、かなり良くなります。上に、ソースをかけるのもお勧めかな? マンゴーかオレンジ辺りをグラニュー糖と混ぜて、ソースにすればお手軽にできるよ」
感想を通り越して、的確な指示が飛んでいた。
「さ、さすが堀田君、『かんみ(甘味、神)の舌』と呼ばれるだけのことはありますね……」
お菓子部部長が驚愕していた。
「へー、幸助はそんな風に呼ばれてるのか。さすが甘味屋の息子だな」
生徒会に入っているとは言え、まだ入学してそこまで間がないのに有名になったもんだ。
「え? 今私が考えましたけど」
「適当か!」
「何かこういうのがあったほうがかっこいいじゃないですか。グルメ漫画みたいですよ」
「まぁ流行るように頑張れ」
別に悪口を言っているわけではないし、幸助にとっては不名誉でもないだろう。
「それにしてもやっぱり悪いな。対した感想も言えないのに、5つも食べちまって」
「いえいえ。それだけ食べていただければ嬉しいです。普段なかなか食べてられないんですよね。太っちゃいますから」
「まぁな。だから感謝しかない」
「『キャベツストマック』なんて不名誉な名前が早く返上できるといいですね」
「全く、また適当に考えたな」
「いえ、これは本当に呼ばれてます」
「何だと?」
初耳だ。いつの間に本当に不名誉なあだ名が。
「えー。私は『キャベツ太郎』って聞きましたけど?」
「太郎はどっから出てきた!」
「私は『キャべ人』って言われてるのを聞いたことがあります」
「ちょっと美味い!」
「私は、『キャー! ……別の人か……』って聞きました」
「それはただの人違いだろ」
「私は、『あ、あの人、キャベツの中にから揚げとコロッケを隠してる!』って聞いてます」
ばれていたのか。いや、俺はやってないよ。きっとそんな悪いことをした人がいたんだ。
いつの間にか、俺と幸助の周りに女子がたくさん集まっていたが、俺と幸助では集まる理由が大きく異なる。
今後、キャベツはもう少し考えて食べよう。周りに意外と見られてるんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます