第32話チビのりゅー
「……チェンジ! アロー! サークルチェンジ! エナジーボルト!」
立て続けの呪力行使に、イグニスは舌を巻いた。
「なるほど。剣の攻撃技が使えない代わりに魔法力に特化していたのですね」
カケルは、ようやく手ごたえのようなものを感じていた。
「なるほど、これが魔法か!」
うなづきながら、これでは将来が末恐ろしいとイグニスはにんまり。
「私も案外、教えるのは得意なようで」
「ああん? なに言ってんだ。俺が努力したからだろーが」
正面切っての抗議に、薄ら笑いで応えるイグニス。
「さあ、この時代に竜王が来る前に、仕上げてしまいましょう」
「――はあーい! だプリンッ」
……。
「今のは……」
「俺じゃないぞ」
「わかっていますよ。赤ん坊の声でした」
二人がきょろきょろしていると、空に星がチカッと、強い光を放って落ちてきた。
彼らの頭上に迫ったとき、カケルが聖剣の守護魔法を発動した。
「ダイヤモンドチェンジ!」
あたりは、シーンとしていた。
野原に風が吹き、草は波打ち、小川は流れる。
草花の咲き誇る姿も見事で――なのに、そのど真ん中にソレは落っこちてきた。
いや、自分の意思ではなかったのかもしれない。
「あれっ?」
落下地点とは、全然違うところにいたカケルたちは、虚を突かれてあっけにとられた。
カケルとイグニスが、おそるおそる見に行くと、黒い角のある銀髪の赤ん坊が、ダークスーツと派手な靴下にくるまって笑っていた。
「生きてる……」
「んー、あれだけの高さから落ちてきて、ねえ……」
「元気そうだな。なんだ、おまえ?」
二人は、ほとんど信じられない様子で見守っていた。
するとそれは、朗らかに挨拶を返した。
「ボクはチビのリュー。竜王だプリンッ」
(りゅ、竜王――!)
今まさに、カケルは竜王を倒すための特訓をしていたのだが。
魔法など、伝説級の技を伝授したりされたりして、聖剣まで持ち出して、打倒! 竜王! って頑張ってたんだけど――!
当の竜王様、子供だし。
「ふざけんなああ――!?」
カケルは思いっきり聖剣を地面にたたきつけると、イグニスの胸ぐらをひっつかみ、前後にゆすった。
「どういうことなんだ? え?」
「わかりません」
「なにい?」
「これは、予想外の出来事なんです」
「ああ? あの赤ん坊が精霊のほこらをくぐって来たってのかよ? そうなのかよ?」
「いえ、アレが竜王なら時空を超えるくらいのことは簡単にできますよ。ただ……」
「ただ? なんだ」
「……苦しいんですけれどね、そうがっくんがっくん、ゆすられると」
カケルはすっと手をほどいた。
がくんと地に落ちるイグニス。
首を抑えている。
かまわずカケル、竜王に近づいていく。
ざん、と草を再びかきわけて、しっかと見た。
「おい、おまえ」
カケルが怒鳴りつけると、竜王は火がついたように泣き始めた。
「えーん、こあいこあいようー。ツバサー、助けてー」
顔中が口だ。
カケルは、ぽりぽりとこめかみをかいた。
竜王は、ツバサ、ツバサと連呼している。
「竜王がなんだ。ガキじゃあねえか! これじゃあ、特訓も意味ねーな!」
むくっとイグニスが起きて、上半身を折って竜王を抱き上げた。
「ツバサくんが何かしたんでしょうかね。たとえば、過去の精霊界で、とか」
カケルは、目をむいた。
「そうだ! ツバサはどこへ行ったんだ? あんた、知ってるのか?」
「知るわけないでしょう。憶測を述べたまでです。しかし、精霊のほこらは気紛れですからね、そういうこともあるかと……ねー、べろべろべー」
赤ん坊はイグニスの腕の中できゃははと笑っている。
「ツバサ、か……どうしてるのかなあ……」
城の馬場近くでぺたんと座りこんで、すこしセンチメンタルになるカケルだった。
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