第29話目覚めし竜王

 ゆらっ。

 揺れたのだ。

 地下神殿への道のりで。

 もう三人とも、またか……という思いで通り過ぎた道のり。

 そしていま、三人は温泉に浸かっている。

 竜王の卵はほとりにおいておいたが、それが……。

 ことことことんっ……ことと、ことこと。

「ん?」

 先に気づいたのは、エイルナリアだった。

 ちゃぷんっ……ぷくぷくぷく。

 温泉の表面に金色の泡がわき出している。

「おい、ツバサ。竜王の卵はどうした?」

「え? あそこに――」

 ない。

「落ちちゃったみたいです」

「ええー! 竜王の温泉卵のできあがりかよッ?」

「おちつけ、そんなにゆだるほどの熱じゃない。拾い上げれば問題ない」

 どこだ、探せ、と温泉をさらう三人。

「どうしよう、どうしよう」

「ツバサ、確かにあそこの位置に置いたんだな?」

「え、ええ」

 エイルナリアが面倒になったのか、神力を使うことにした。

「時間がない」

 そうは言っていたけれど、本当に竜王の温泉卵になってしまうのは阻止せねばならなかった。

 ずおお!

 巻き起こる水流。

 派手な音をたてていくつもの水柱が上がる。

 温泉は底まで見えるほどになった。

「大丈夫でしょうか?」

「それより、探せ」

「あ! あれじゃねーか?」

 岩のそばに、もたれるように黄金の卵が転がっていた。

「よし! 拾え、ツバサ」

「ハイッ」

 ピシイ!

「え?」

 その鋭い音にツバサの動きは止まった。

 ロージリールも、まじまじと見守っている。

 邪気を祓う温泉に浸かって、竜王の卵は割れて――中から、銀髪の赤ん坊が生まれ出てきた。

 黒い角が二本、頭の上に乗っており、額には黒いマスクがひっかかっており、ダークスーツに銀と赤のダイヤ柄の入った長靴下(オーバーニーソックス)。

 もはや只者でないことは明白だった。

「あなたが、竜王なのですか?」

 ツバサがおそるおそる問うと、サファイア色の瞳をきゅるん! と瞬いて、彼女は言った。

「プッリーン!」

 飛びかかるや、ツバサにくっついて離れない。

「あ、ああの、本当に?」

「プリン!」

 ツバサは竜王の願いを思い出した。

「プリン……口癖みたいだから、それがいいです。あなたの名前は、プリン(仮)。どうですか?」

「プリ? プリン! プリーン!」

 竜王は喜んでいる。

 ロージリールが、あたふたしながら言いさす。

「けどよ、神殿に安置するんじゃなかったのか? こんなところでふ化しちまって、いいのかよ?」

「ロージリール、これは危険な兆候だ」

 エイルナリアが言った。

「え?」

「竜王がさっきからプリン、としか言わない……」

 ロージリールは、首をかしげた。

「そうなのか?」

「ちゃんと聞いてなかったのか……?」

「いっやあ、気が動転しちまってさ、はは……」

「それにしては、騒がないな」

「俺様をなんだと思ってるんだ……」

「うん、やはり並みの風精ではないな」

 エイルナリアは、まじまじと相手を見て言った。

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