第27話地下神殿

 迷宮は、火山の噴火で砕け散って、あたりは溶岩まみれになっている。

御山みやまがなくなったなんて、複雑だなあ。俺様が精霊界に生まれたときからあったもんな」

 ロージリールが後頭部をかきながら言った。

「なくなったんじゃない、崩れたんだ。今はそんなことを言っている場合ではない。確かに地下神殿があったと記憶しているが、その――卵がしゃべったのか?」

 エイルナリアは、怪訝そうだ。

「はい、竜王の卵をそこに安置して欲しいそうです」

 卵を持って、ツバサは言いつのった。

「でもそうしたら、竜王が誕生しちまうわけだろ? 俺様たちは竜王を抑えに来たんだ。下手にパワーアップさせても」

「なにか、訳があるんだと思うのです。説明はしてくれなかったけれど」

「そりゃあ、アブねえぜ。精霊界に生まれついたものは嘘はつかないが、逆に言えば、都合の悪い事実は黙ってるってことだ。ツバサ、気をつけた方がいいぜ」

「……」

(とても、そうは思えなかった――)

 ツバサは、葛藤した。

 ロージリールは、もしもツバサが利用されようとしたなら止めに入ろうとするだろう。

 彼の忠告はありがたいし、不慣れな旅で経験者の言葉を無視するわけにはいかない。

 だが、竜王クラウンはこうも言っていたのだ。

『ボクが生まれたら……』

「名前をつけて欲しい、と言ってました。それで竜王のさだめからのがれることができると」

 エイルナリアは、じっと聞いていたが、やがて大きく嘆息した。

「名前か。確かにそう言ったんだな? ……いや、疑うわけじゃない――。竜王は何者かに支配されているのかもしれないな」

「「え?」」

 聞き返すツバサと、ロージリール。

「先にも言ったが、精霊界では力のあるものは聖性と邪悪の両方の力を持つ。そしてそれを決定づけるのは、名前なんだよ――生まれたときに名づけ親になった者に、一生をゆだねることになる」

 ロージリールは、興奮してまくし立てる。

「どうして――あんたら神々は、そういうことを黙ってるんだ」

「ほいほいあちこちで言うわけにいかない事情があるんだ。悪用されるとまずい」

「悪用……では、竜王自身がその何者かの支配下からのがれたいと思っている、ということですか?」

 エイルナリアは、ゆっくりとツバサの方を見て、

「……そう――そして、竜王はツバサに自由にしてほしいと言っているんだ」

「これ以上自由にされたら、こっちはやってられねーぜ」

「力ある者に名前をつけられるのは、特別な力を持つ者――あるいは、竜王自身に選ばれし者――」

 頭の後ろで手を組んで、空を見ていたロージリールがふっと真顔で言った。

「じゃあ、行くしかねえじゃんか」

 地下神殿へ――。

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