第6話大震

「あれほどの大国の王に対して、虫が好かぬというだけで断るのか」

 ツバサは、拳を固めて断固として言い放つ。

「いいえ、虫が好かないというのではありません。こちらの弱みにつけこむのが目に見えるようで、そこが嫌なのです」

 思案する様子で、フェイルウォンは宙に目線をやった。

「そういえば、こたびなぜかカケルにちょっかいをかけていたな、風精よ」

 カケルとツバサは、ぎくっとして目をこそっと見合わせた。

「それに」

 考えてみれば、国に、民に責任があるなどと、カケルはフェイルウォンの前で口にしたことがない。

 姫王子とはいえ、プライドも高い王女が身を売るなどと、たとえ本当でも言うだろうか?

「カケルもツバサも、言動がおかしかった。普段、決して言わぬことを言っていた。自覚はあるか?」

「それは……相手の出方をみるため、仕方なく」

 大事な場面ですから、とごまかそうとしたが、フェイルウォンはなかなか許してくれなかった。

 ツバサとカケルが、観念しかかったとき、風精が大気を震わせた。

 ちり、とツバサの肌が敏感に反応した。

 とたん、大地が根底からひっくり返るような地鳴りがして、王宮は悲鳴の渦と化した。

 ツバサが、離宮にとってかえすと、女官が大声で叫び散らしながらまろびこけつつ走り寄ってきた。

「おちつきなさい。ここは大丈夫です。なんのために垣を連ねているのか」

「でも、御ひいさま。ああ、ああ」

 そこへ、カケルが駆け寄ってきて、厳しい声音で問いかけた。

「ツバサ! 城下の街は見えるか?」

「塔の上から遠眼鏡を使えば、見えますわ」

 カケルが、塔へ登りかけた時、風精がツバサの目の前を通り過ぎた。

 手に真鍮の鍵をぶら下げて、よろよろと飛び去ろうとしている。

「あっ、それは!」

 ツバサは、カケルをおいて風精を追った。

 手を伸ばしはするが、もう少しというところで、真鍮の鍵は手をすり抜けてしまう。

「お待ち、まてというのに」

 そのうち、ツバサは王城から離れた離宮の裏手にある森の中へ迷い込んでしまい、足をしたたかに打ちつけた。

 踏み抜いた木道が、腐っていたのだ。

 森番の怠慢だったが、今はそれどころではない。

 破れた衣装のことは、女官に嘆かれそうだが、かまってはおられぬ。

 ツバサは、苔むした石がゴロゴロしている森を傷だらけになって駆けた。

 途中渓谷にて、うっかり足を滑らせ頭を打ち、意識をなくした。

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