第39話 最後の一太刀
リオンは「浅かったか……」と秀隆の姿に迫っていく。もう勝負は決したようなもの。
だが、油断は禁物か、確実に仕留められるように慎重に追い詰めていく。
しかし、秀隆は部屋の端までいくと踵を返して絶望的な状況にも関わらず笑い出した。
「ククク……これで終わりと思うなよ!」
次の瞬間、秀隆がもたれていた壁がクルリと横に回転し、その姿が消えてしまった。
「何……!?」
リオンは慌ててその壁のもとへと向かう。壁を押してみると、同じように回転し、壁の向こう側へと抜けることが出来た。その先には短い通路が続いている。しかし秀隆の姿はない。そしてその通路の先は、何もない、外に繋がる大きな開口だったのだった。
通路を進み、開口部の前まで行き下を覗き込むと、秀隆がパラシュートで降下していた。
「パラシュートだと……。くそっ! こんな部屋、図面には無かったぞ」
こんな時の為に作っておいたというのか。そういえば、橋が壊されていたせいで、以前リオンは逃げきれなかったのだった。こういう事ももっと想定しておくべきであった。
「油断したわね……さっさとトドめを刺しておけば。まぁ結果論だけれど」
イコが呟く。下方を見たが、そこは完全な絶壁であった。生身では降りられそうにない。
「このままでは逃げられる……! 追わないと」
リオンはすぐに踵を返して階段に向かって走ろうとした。
すると、イコに「待って」とその姿を止められてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
天守の直下まで降りると秀隆は金具を外し、パラシュートをバサリと背中から降ろした。
「ぐっ……リオンめ」
肩から背中に入った深い傷が強く痛む。服が血液でグジュグジュになってしまっている。
「だが、覚えていろ。私が生きている限りは負けではない……必ず支配してやるぞ」
そうだ、今回は不覚をとってしまったが、まだ終わりではない。この城は放棄し、援軍と合流して根来の地まで引く。そうすればいくらでも体制を立て直す事は可能なはずだ。
秀隆は二の丸への門まで向かっていく。すると、とある光景が目に入った。
そこにはおぞましいほどの数の遺体が転がっていたのだ。しかも、根来兵のものばかりが。
そして、前方から一人の男が現れた。秀隆は「む……お前は……」とその人物を凝視する。
それは髪も顔も雪のように白い男。月島雪丸だった。
手に持つのは半分に折れ血に濡れた刀。ここら一帯の兵は全員この男が斬り殺してしまったらしい。その姿に秀隆は気が抜けるように笑みをこぼした。
「ははは、お前か。これだけの人数を一人で倒すとはなかなかやりおる。だが所詮は原人。貴様と私では埋められない差というものがある」
そうだ。雪丸とはこれまで二度戦っているが二度とも勝利している。雑賀で最強と言われていただけの強さは持ってはいたが、約五十年にも及ぶ修行をしてきた秀隆には敵うはずもない。
雪丸の目を見ると、まるで猛禽類のような野生的で爛々とした光を灯していた。
「なんだその目は。私が貴様の仲間を殺した事でも恨んでいるのか?」
雪丸は何も言わず、秀隆に向かってゆっくりと近づいてくる。
「ふん、人を恨み続けるというのもツラかろう。今その苦しみから開放させてやる。貴様も奴らと同じ場所に送ってな」
するとその時、天守上方から「雪丸! 受け取れ!」と叫び声が聞こえた。
「……!」
雪丸が声に気付き見上げると、城の上から何かが雪丸へめがけて降ってきているようだった。
雪丸はそれをパシりと手にする。するとそれはなんと神刀朧月であった。
もう一度城の上を見上げると、城の最上階にある開口部からリオンと杏が雪丸を見ていた。
「神刀を持ったところで何が変わる。以前それで殺されかけた事、忘れたわけではあるまい」
次の瞬間、秀隆が雪丸に向かって駆け寄ってきた。「ははは」と笑い声を上げながら。
雪丸は迫り来る秀隆に構わず一端目を閉じ、これまでのイコとの修行に思いを馳せた。
そして朧月を顔の前に掲げスイッチをスライドし青白い刃を出現させ、そして目を見開く。
一気に足を踏み出す雪丸。交差する二人の体。突き出される二つの刀。
「ははは……」
二人はお互い背を向け、斬りかかったあとの姿勢のまま固まっていた。
「は……?」
その数秒後、秀隆の首の周囲にピシリと赤い一線が入った。
「な……ぜ……」
視線を後方へ向ける秀隆。そしてぬるりと首から頭が滑り落ち、顔面から地面へと衝突した。
「言っただろ。お前の首を刎ねるのはこの俺だと」
プシューと首の断面の動脈から血が噴き出す。そしてそのまま力を失い、秀隆の体はドシャリとその場に倒れてしまった。雪丸は秀隆に背を向けたまま構えを解き、刀の刃を収める。
「やったぞ雫、みんな……。仇は取れた」
そして首から提げた雫からもらった翡翠のお守りを握りしめたのだった。
そのあと、リオンと杏、豪真など生き残った仲間たちがその場へとやってきた。
「やったのか……」
秀隆の首と体が転がっている。完全に絶命しているようだった。その後頭部を見ると、どうやらリオンと同じような接続端子があるようだった。
根来兵達はリオン達に斬りかかろうとしてくる者もいたが、秀隆の遺体に気付くと戦意を喪失したようで立ち去って行ってしまった。
「あぁ……なんとか勝てたようだ。こいつは背に刀を受けて弱っていたようだからな。それにイコ、お前が稽古をつけてくれていたおかげだ」
雪丸は朧月をリオンに差し出してきた。
「お前達のおかげで秀隆を討ち取ることが出来た。感謝する。これで雑賀は救われる」
しかし、リオンは朧月をしばらく見つめたあと、手をださず、かぶりを振った。
「……いや、その刀はお前が持ってろよ」
雪丸はリオンの言葉に「え……」と軽く目を見開く。
「本当のこの国の守護神はやっぱりお前だったんだよ」
「な……何を言っている」
「実際に奴を倒したのはお前だ。それに俺はただのよそ者だしな。お前の方が相応しい」
秀隆は確かに手負いだった、それに加え一度勝った相手という油断もあったのかもしれない。それでも以前の雪丸では勝てるかどうかと言われれば厳しいようにリオンには思えた。
おそらく短い期間だったがイコと手合わせした事により、ぐんと成長してしまったようだ。
途方もない時間を鍛錬にかけた秀隆、それ勝った雪丸は本当の天才という奴なのだろう。
きっとこれからも強くなれるはずだ。リオンもそのうち超えていってしまうのだろう。
雪丸は「俺が……守護神」と改めるように朧月を見つめた。
リオンは秀隆の頭を改めるように見下ろす。まさかこんなに早くリオンの発言の通りになってしまうとは。結局秀隆は、宇宙文明の高度な技術を持ってしてもこの惑星の住民達には勝てなかったようだ。
するとその時、杏が「さてと」といって秀隆の首を掴んで持ち上げた。その姿にリオンは少しぎょっとしてしまう。
「この首を雅様の元まで届け、秀隆の死をこの戦場全体に知らせねばなるまい。そうすれば根来の軍は崩壊し、撤退していくはずだ」
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