第22話 敵城への侵入

 一人宇宙船へと戻ったリオン。向かう先は秀隆のいるはずの第六区、六城である。秀隆がそこにいるのかは分からないがコアの反応はその城から出ている。少なくとも火焔はそこにある。


 無謀とはいえ、リオンは完全に考えなしという訳ではなかった。


 根来は戦が終わり油断している。だから奇襲には弱くなっているはずである。


 それに加え、雑賀からの進攻は第五区が闇に閉ざされてしまった現状、普通に考えれば四区からしかありえない。それをリオンはコロニーの外側、第六区の北にある外門から侵入する事になる。リオンが六城にたどり着くまでに、その接近に気付かれる可能性は低いだろう。


 そしてリオンは刀の位置が分かる。刀まで迷うことなく一直線に進むことが出来る。無駄な戦いはせず、目的の場所までたどり着けるということだ。


 つまりリオンは何も根来に対して一人で全面戦争を仕掛けようとしている訳ではない。やろうとしている事は暗殺に近かった。ひょいと秀隆の前に現れて斬り殺し、刀を奪って帰るだけ。


 そう考えると、リオンにはそれなりに現実性のある計画に思えてきた。


「……やってやるさ。そして……俺はファニールに帰るんだ」


 そしてリオンは宇宙船を起動させ、浮上させて六区に向かって発進したのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 予定の場所、六区の北の外門前へと辿り着き着陸させたリオン。


 宇宙船から降り、コロニーの外門へ向かいながらリオンはイコに声を掛けた。


「それにしても、朧月は刀身を出してるときにしかエネルギーを放出しない訳だけど。秀隆の刀は常にエネルギーを発し続けてるわけだよな」


 これまで、秀隆の刀の位置をイコは見失った事がなかった。


「えぇ確かにそうね。あいつは鞘に刀をしまっていたわ」


「……あいつは刀身の収納の方法を知らないのか?」


「どうかしら。もしかしたらあの刀は常に刃を出しっぱなしにしかできないのかも。オープン型、とでも言っておきましょうか」


「ふーん……オープン型ねぇ」




 リオンは外門のエアロックの中で宇宙服を脱いだ。その下に着ていたのは、現地の旅人が来ている標準的な服である。そして頭には笠をかぶる。これで少しは誤魔化せるといいのだが。


 そして門を抜けコロニー内部に入ろうとしたのだが、その目の前の光景にリオンは少し驚かされた。丸太が縦に並べてあって壁が築かれていたのだ。ガチガチに固定されている。


「なんだこりゃ……先に進めないぞ。まさか俺がやってくるのを防ぐためにこんな壁を?」


「……でも、外から私達がやってくるなんて現地人には想像がつかないはず。というよりも、内側から、誰かが外に出ないように門を閉ざしてるんじゃないかしら」


 見ると、どうやらその壁は作られて間もないようであった。つまり壁を作ったのはおそらく根来側。根来の国では安全のためそういう施工をする事が決まりにでもなっているのだろうか。


「確かに、現地人にとってはこんな外へ出る門なんて危険以外のなにものでもないからな。まぁ、せっかく作った所悪いけど、破壊させてもらおう」


 リオンはスイッチをスライドさせ、刀身を出現させて、壁に穴を開けて先へと進んでいった。




 六城は平城と呼ばれる、平地に築かれた城であった。だからと言って攻めやすいという訳ではない。城郭は三重になっており、それぞれの郭は水が張られた堀によって囲われている。普通に考えれば、東西南北、四か所いずれかの橋を渡り、兵が常在する門から入るしかない。


 だが、リオンが行うのは暗殺である。そんな愚直に正面突破をするつもりもなかった。なるべく気付かれることなく、秀隆の元まで進む必要がある。


 城の堀の前までたどり着いた時、夜中の一時で周囲は闇に包まれていた。


 リオンは周囲に兵の目がない事を確認すると、笠を脱ぎ、石垣を降りて堀の下の水に入った。


 城側までさざ波を立てぬよう泳ぎきる。リオンの足裏には現在、クナイのような先端が尖った金属をひもで固定してある。それを岩と岩の間に差し込んで、石垣を登っていった。


 石垣の上には白い、足をかける場所もない塀が佇んでいた。そこからはイコの出番だった。リオンの腕から離れ、壁に爪を引っ掻けて難なく塀を乗り越える。


 そしてイコに内部の様子を探らせた。しばらく見回り兵がやって来ないという事を確認させると、リオンはイコに指示された位置まで横に移動し、塀に朧月の柄を当ててスイッチをオンにした。そのまま壁を斬り刻んでいき、人一人分が入れる穴を開け、内部へ侵入する。


 そこは木の陰になっており、開いた穴が目立たない場所であった。


「よし……シミュ―レーション通り、侵入成功だ。コアはどこにある?」


「右手方向。約100m先、五の屋敷の中にあるようよ」


 するとリオンの視界の前にコアの場所を示す小さな矢印が表示された。


 五の屋敷とは、リオン達がシミュレーション生活の中で勝手にそう名付けた名前である。


「それって三の丸じゃないか。ここからすぐ行けてしまうぞ。秀隆はそんな場所にいるのか」


 三の丸はリオンが現在いる一番外側の城郭である。そこまで何の障害もないという事だ。


「さぁ、そこに秀隆がいるかは分からない。けどこれは大チャンスね。刀だけがそこにあるなら、それだけ持ち帰ってしまえばそれで終わりだわ。ほとんど戦闘をする必要もないかも」


 秀隆を殺さずに帰る……それが出来れば確かにリオン達にとって万々歳だが。しかし、それでは雑賀にとって、大きな障害を残したままになってしまうだろう。リオンは少しそれでいいのかと葛藤を覚えながらも、立ち並ぶ屋敷の影に身をひそませながら足を進めていく。


 そして、難なくその五の屋敷の前にまでたどり着いてしまったのだった。


 屋敷には明かりは灯っておらず静かなものであった。イコをまず侵入させ、状況を探る。


 そしてイコは二十分ほどで、植栽の傍に潜むリオンの元へと戻ってきた。


「あの屋敷の中には誰もいなかったわ。そして火焔は中の座敷の床の間に飾られていたわ」


「なんか、拍子抜けだな……こんな簡単に手に入るならあの修行の日々は何だったんだ」


「まぁ、リオンみたいに一人で城に入ってくるような馬鹿がいるとは普通考えないし、コアの場所が探し当てられるというのも相手は知らないはずよ。そう考えれば普通なのかも」


「そうだな……なら、さっさと行くか」


 リオンは庭から侵入し戸を開けて、廊下へと入った。暗闇をイコが内蔵のライトで照らす。


 そして内部を進み、イコのいう座敷にたどり着いたのだった。床の間には刀掛けが置いてあり、確かにそこに秀隆が使っていた神刀火焔の姿があった。


「よし……これでコアが二つ揃ったことになる。ファニールに帰れるんだ……」


 そしてリオンがその刀に触れようと、手を差し伸ばした瞬間だった。


 いきなり、掛け軸の裏から手が伸びて、刀が持ち去られてしまったのだった。


「なッ!」


 リオンは慌ててその掛け軸をめくる。するとそこには直径三十センチほどの穴が開いていた。


「コアは壁越しの廊下から玄関に向かっている。すぐに追って!」


 リオンはその壁を朧月で破壊し廊下に出た。その瞬間カンカンと鐘の音が周囲に響き始めた。


「くそっ……罠か!?」


「みたいね。でも、今更追う以外に道はないわ」


 リオンは廊下を進み、屋敷の正面玄関から外へと出た。するとその周りは既に多くの根来の侍達に取り囲まれていたのだった。みな刀を手に持ちリオンに向けている。


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