学校祭前日

「明日の放課後は後夜祭の準備もあるので忘れずに教室へ戻って来てください。」


クラスの委員長が説明する中、京子は目をこすりながら外を見ていた。


「部活の展示品や出店などはそれぞれ終わっていると聞いたのでクラスの出店を今日は行います。」


学校祭も前日に迫るも京子はあまり乗り気にはなれなかった。

毎日同じことを考え過ぎて京子はため息を吐いた。


「京子。」

「栞…」


委員長の話も知らぬ間に終わり京子の前には栞が立っていた。


「ドレス完成したんだって?」

「うん、まあ。」

「で、また真野先生で悩んでるの?」


京子は栞の顔を見て立ち上がった。

人の少ない階段に2人は行き京子は話した。


「真野先生も早見先生も私のお姉ちゃんの事知ってる見たいなの。」

「ふーん?6歳差だっけ?それなら同級生じゃない。」

「うん、お姉ちゃんここの生徒だったから。」

「あれ、でも京のお姉さんって…」

「18の時に事故に遭ってる。」


俯く京子に栞はガシガシと頭をかいた。


「興味本位で好きになったドレスと京のお姉さんと何か繋がりがあるなら直接話して見れば?」

「また拒絶されるかもしれない…」

「そん時は…」

「その時は?」

「押し倒す。」

「へ?」


京子が気の抜けた声を出すと栞は笑った。


「お姉さんの事だけじゃ無いんでしょう?骨は拾ってやるから。当たってこい!」


バシッと京子の背中を叩いた栞は京子に微笑みかけた。京子は少しだけ笑い頷いた。


「聞いてみるよ。」


京子は美術室へ走った。


「京、頑張れ。」


京子の背中に栞はまた呟いた。

京子が美術室に行くとドレスは飾られていた。

準備室のドアが開いてありそこへ足を運ぶと真野が段ボールの前に屈んでいた。


「真野先生。」


声をかけると真野は振り返り立ち上がった。


「どうした?」


京子は段ボールからはみ出たドレスを見て言った。


「それも飾りませんか?」


驚いた真野はドレスを見てまた京子を見た。


「今回ドレスの色が赤とサーモンピンクと白なので色合い的にも青が欲しいんです。それにせっかくのドレス飾られないなんて勿体無いです。」

「可哀想、か。」

「マネキン余ってるのでダメですか?」


歩み寄って聞いた京子の目を逸らした真野は少し考えてから言った。


「いいよ。」


京子は笑いドレスを手に取った。


「決まりですね。」


並べられた三つのドレスの横に青いドレスを置く。

真野はそのドレスが飾られている姿をじっと見つめた。京子はドレスを見て言った。


「テーマ、何にします?」


真野はドレスを見つめたまま呟いた。


「人魚。」

「いいですね。」


京子はそう言って静かに美術室を出た。

教室へ戻ると栞が駆け寄って来た。


「聞けた?」

「ううん、聞かなかった。」

「あんた、何しに行ったの?」

「ドレスを飾りに。」

「えぇ…」


驚いた栞に京子は笑いかけた。


「私、真野先生が好き。」

「うん。」

「真野先生のドレスも好き。」

「うん。」

「今はまだその気持ちだけでいいや。」


京子は窓から覗く青い空に浮かぶ雲を見て

栞に言った。


「透子にそっくりだな高橋は。」


真野もまた美術室の窓から同じ空を見上げていた。


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