時は進む2
京子は髪を解き心臓の音を抑えながら準備室のドアを開けた。ドレスに自信はあったが自分が着るのは自身が無かった。高校生の製作ドレスは簡単な物でしか無かったがテーマとしてウエディングドレスとした事で京子は一層恥ずかしさを増した。
「ど、どうかな?」
ドアの前にいた2人に尋ねるとマリはドレスを持ち上げて駆け寄ってきた。
「いいじゃんいいじゃん!ほら、ベールもして!」
手にしていたベールを京子の頭に乗せるとマリは手を合わせた。
「いいね、ウエディングドレス!花嫁さんだよ!」
「可愛いです、高橋先輩。」
2人に褒められて恥ずかしそうに笑った京子は
2人に提案をする。
「記念写真、撮らない?」
「賛成!町田カメラある?」
マリは即答賛成し町田にカメラを頼んだ。
町田がカメラをセットしてマリもドレスを整えた時だった。窓側に置いたカメラに向かった3人の後ろのドアが開き真野が入ってきた。足音に振り返った京子を見て真野は言った。
「…うこ…?」
シャッター音と同時に聞こえた真野の声に京子は固まった。
「え?」
一瞬だけ時がゆっくり進んだような感覚に京子の頭は真っ白になった。
「あ、先生!ちょうどいい一緒に撮りましょう!」
マリが真野に気づき真野を引っ張ってカメラの前に立たせる中京子はそれを呆然と見ていた。
2人には聞こえていなかった真野の言葉が何度も何度も京子の頭の中を回った。
「京子!表情硬いよ!笑って笑ってー…はい、
ちーず!!」
カメラのシャッター音と共に笑った京子はマリにからかわれる真野をただ見つめていた。
それから真野はすぐに美術室を出て行ってしまい、
声をかける暇が無かった。
着替えた3人は部室を出てそれぞれ門の前で手を振った。真野に上着を返すのを忘れていた京子はまたま明るい校舎へ戻ろうと玄関へ行くと聞き覚えのある声に呼び止められた。
「高橋さん?」
振り向くとジャージ姿の早見が立っていた。
「帰らないの?今日は部活も終わったって聞いてたけど。」
「いえ、ちょっと教室に忘れものしてて。」
「そっか。あ、足大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「よかった。」
「それじゃあ。」
頭を下げた京子は玄関に入ろうとすると再び早見が声をかけた。
「ドレス、完成したの見せて貰ったよ。」
今日の部活で撮った写真だろうか振り向いた京子は少し恥ずかしそうに笑った。
「似合ってたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「お姉さんに似てるね。」
「え、」
「あ、ごめん行かなきゃ、気をつけてね!」
言い残した早見は腕時計を見返して小走りでグラウンドへ走って行った。
「どうして…」
1人問いかけた京子は少しだけ疑問が解け始めていた。真野に職員室に返すのが気まずくなった京子は
職員玄関の真野のロッカーの上に置こうとカバンからスーツを出した時また声をかけられた。
「高橋。」
「…真野先生。」
振り向かない京子は激しく鳴る心臓を落ち着かせようとしていた。
「わざわざありがとうな。」
「いえ、こちらこそ。」
目を見ないで渡したスーツを真野の手が受け取る。
「それじゃ。」
玄関のドアに手をかけた時真野が言った。
「また明日な。車に気をつけて帰れよ。」
「はい。」
京子はドアを上げて外の空気をいっぱいに吸った。
普段街灯りで見えづらい星が遠くで光雲に隠れた。
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