時は進む

足を痛めて車に乗せて貰ってから数日、2人は何処と無く気まずさを感じていた。

いつもの美術室は静かで完成した赤いドレスが影を伸ばしていた。1ヶ月前から取り組んでいた展示品のドレスは2年の町田以外完成しておらず赤いミニドレスは町田の物だった。

マリのドレスも完成間近で後は細かい仕上げだった。京子も何とかデッサンを終わらせて手芸部に託す事が出来た。どの学年もクラスの出し物は完成していて後は教室の飾り付けだった。

そんな中、京子は美術室の窓を開けその下に座ってうたた寝をしていた。


「サボりか?」


空いていたドアから真野が京子の前まで行き声をかけると寝ている事に気がついた。

気持ち良さそうに眠る京子を見て真野はスーツの上着を脱いでスカートから覗く白い足にかけた。

起きる気配の無い京子を確認して真野は静かに部室を後にした。

ドアが閉まる音がして京子は顔を真っ赤にして目を開けた。


「寝たふりしちゃった…」


話しかけられた時に目が覚めた京子は声が真野だと知り何処と無く気まずく寝たふりをしたのだった。

上着を持つとほのかなタバコと柔軟剤の匂いにまた京子は顔を赤くした。

携帯電話を開いた京子は手芸部から連絡が来ていたことを知りスーツの上着を持ったまま手芸部の部室へ足を運んだ。


「失礼します。」


部屋に入ると京子は目を開いた。

手芸部の数人が取り囲むドレスは純白なウェディングドレスになっていた。ベールも付いており、京子は思わず駆け寄った。


「予定より早い完成ですね。」


ドレスをまじまじと見る京子に手芸部の人は笑顔で頷いた。


「高橋先輩デザインの才能凄いですね!」

「私達このドレスに関われて嬉しいです!」


はしゃぐ手芸部の人達に京子は頭を下げてお礼を言った。


「ありがとうございます!」


その京子を見た手芸部の人達はこちらこそと微笑み返してくれた。

京子と手芸部の人達はドレスを持ち上げて美術室に運ぶと入れ違いで町田とマリが出てきた。


「あ、京子!完成したの?」


マリがドレスを見て京子に話しかける。

部屋にドレスを入れるとドレスが三つ並んで風に揺れていた。


「うん。マリも?」

「ついさっき!」

「そっか、これで3人完成だね。」


手芸部の人達はドレスをセットして美術室を出て行くと町田が言った。


「高橋先輩、早かったですね。」

「うん、でも手芸部の人達も凄い早くてびっくりしちゃった。」


マリは三つのドレスをまじまじと見つめて言った。


「ねえ、これ着て見ない?」

「いいですね。」


普段クールな町田も少し乗り気で頷いた。

京子は驚き自分のドレスを見て言った。


「今?」

「うん、今!」


マリの瞳に冗談という文字は見つからなかった。部室のドアを閉めて準備室で町田が着替え終わるのを待っているとマリが言った。


「ウエディングドレスだなんて思いつかなかったよ。さすが京子だね。」

「でもマリのドレスもお姫様みたいで可愛い。」

「そう?ありがとう。町田のドレスにも意外だったな。」

「可愛いよね。」


ドレスをいじっていると準備室のドアが開き赤いドレスを着た町田が少し恥ずかしそうに出てきた。


「可愛い可愛い!」


マリと京子は駆け寄ってドレスを見る。

赤いミニスカートのドレスはふわふわしていて

町田の細い足が生えて見えた。

後ろに束ねた黒い髪を京子は解いて言った。


「こっちの方がもっと素敵。」

「そうですか?」


恥ずかしそうに笑った町田に京子は微笑むと

知らないうちに準備室で着替えていたマリがプリンセスラインのドレスの裾を持ち上げて出てきた。


「どう?」


自信ありげな表情のマリに京子は頷いた。


「可愛い。」


町田のドレスとは違い少し大人っぽい色のドレスはエーライン状に地面に伸びていてマリのスタイルの良さを引き立てていた。


「高橋先輩も早く着替えてくださいよ。」

「え?う、うん。」


町田にぎこちなく頷いた京子は自分のドレスを持って準備室に入った。

美術室で待っていたドレス姿のマリはスマホを手に取り電話をかけた。


「あ、真野先生?ドレス完成したので見に来てください!美術室に居ますからー。」


京子は髪を上にまとめ上げてドレスに足を通した。

視界に入った段ボールを見て首を振った。


「着たかったなあ…」


呟いた京子の耳に真野に電話しているマリの声は聞こえていなかった。

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