痛みは増して

シルバーの車の助手席に乗った京子と運転する真野はただひたすら無言だった。

京子が気まずくチラチラ真野を見るが前を見る真野は真顔だった。


「あの、先生…」

「何だ。」

「わざわざありがとうございます。」


おずおずとお礼をして頭を下げた京子に真野は頭をかいて言った。


「俺の所為でもあるからな。」

「え、いや、私ただ踏み外しただけですよ?」

「俺から走って逃げたから、だろ。」

「逃げては…」


真野の言葉に焦る京子はシートベルトを掴んだ。

赤信号で止まると真野の顔が赤くなっていた。


「俺が作ったんだ。」

「え?」


唐突に真野が話し出し京子は真野の横顔を見つめた。真野も京子をチラリと見て車を走らせた。


「俺が高校生の時、学校祭の展示品としてあのドレスを作ったんだ。」

「そう、何ですか?」

「こっちに戻ってきた時に早見先生と再会して向こうも手芸部の顧問になったから思い出して今回の展示品をドレスにしようって言ったんだ。」

「えっと、あの…」


言いかけた京子はブレーキに前のめりになり外を見ると見慣れた家の前に車は止まっていた。


「着いたぞ。」

「あ、ありがとうございます。」


慌ててシートベルトを外しドアを開ける。

立ち上がった京子は真野を見つめるが何も言わずに真野の車は走り去って行った。

京子は考え込みながらドアを開けた。


「ただいま。」

「お帰りー、遅かったね?ご飯出来てるよ。」


キッチンから母の声が聞こえ京子は考えるのをやめた。靴を脱いでキッチンへ向かうといい匂いがして心が和らいだ。


「文化祭の準備。これから8時近くなるから。」

「そう、気をつけるのよ。」

「わかった。」


京子は階段を上って右ドアを開け自分のカバンを置いた。すぐに隣の部屋に入った。


「お姉ちゃんただいま。」


そう言った京子の先には京子そっくりな女性の写真が立てられた仏壇が可愛らしい部屋にポツンと置かれていた。仏壇の前に座った京子は写真を手に取り物思いにふけた。正座していると痛めた足首がズキズキと脈を打ち写真を戻して立ち上がった。


「もう6年も前か…」


悲しそうにため息をついた京子は部屋を出た。

仏壇の女性は6歳離れた京子の姉で京子が12歳の時に事故で亡くなっていた。

京子の閉めたドアの側には義足が立てかけられていた。

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