噂の教師

三年の京子とマリはクラスは違うが最後の文化祭という事で出店の準備にも追われていた。


「京ちゃーん!看板の色塗りの指示お願い!」 「わかった!」


クラスメイトの栞が京子に声をかける。 京子のクラスの出店は焼きそばで看板のデザインを下書きしていたのだ。 一方のマリのクラスはチョコバナナが可愛いとはしゃいでいた。 売り上げが1年から3年の中でトップだったクラスには後夜祭の準備免除と謎の景品があるためどこのクラスも盛り上がっていた。


「この色は茶色で、少し影出したいから黒を最後に混ぜてもらっていい?それから野菜は…」


テキパキと指示をする京子とクラスメイトは真剣そのもので手に色が付いているのにも気がつかないほどだった。 文化祭1ヶ月前になると授業も殆ど無く、ジャージ登校が多い為学年の色もはっきりしていた。


「1年はしゃいでんなー。」


クラスの男子がグラウンドで作業をしている紺色のジャージを見て笑った。


「俺らもあーだったよな。」

「つーかもっとはっちゃけてたよなー。」


最後の文化祭ともあって3年は大人びながら楽しみ初めての文化祭にはしゃぐ1年を見て笑った。


「今年で最後かー。」

「何かあっと言う間だったなー。」


しみじみと最後の学生生活を語る男子を見て京子も思わずグラウンドではしゃぐ1年を見た。 グラウンドの1年は走って転んだりしていて京子は2歳の差を感じていた。 放課後教室で看板の作業をクラスメイトでしていると真野が尋ねてきた。


「高橋、ちょっと。」


廊下に呼ばれた京子が小走りについていくとさっきまでタバコを吸っていたのか真野の背中からほのかにタバコの匂いがした。


「展示品の場所なんだけど美術室を使うから必要ない机と椅子は早めに準備室に移動しておいて欲しいんだ。後高橋だけデザイン画出してないから手芸部が焦ってた。」

「わかりました。早めに仕上げます…」

「まあ、焦んなくても高橋なら大丈夫だと思うけど。手芸部にも顔だしておいて。」

「はい。」

「じゃあ、それだけ。クラスの出店頑張って。」 「あ、ありがとうございます。」


手を上げて職員室に戻る真野を見送って教室に戻るとクラスの女子と栞が顔を赤らめてはしゃいでいた。


「どうしたの?」


戻ってきた京子を見て取り囲んだ女子に京子が尋ねると意味のない小声で話し始めた。


「真野先生ってさらっとしてて俳優顔だよね!」 「わかる、普通にイケメン!」

「あの、女子にクールな所がやばいよね!」


真野は去年赴任してから女子に人気があり、担任になって欲しいと言う声と何人か本気で告白した生徒がいる程だった。

「今フリーだし!」

「頭いいしね!」

「一人暮らしのだっけ?」

「実家だし。」

「てかここ卒業生だし!」


思い思いに盛り上がる女子に苦笑いしていた京子に栞が尋ねた。


「真野先生ってやっぱ絵、上手いの?」

「え?わかんない、見たことない。」


京子は考えるも1度も顧問である真野の絵を見たことがなかった。その返答に周りの女子はこれでもかとがっかりしていた。


「真野先生ってここの美術部卒業ですっごい優秀だったらしいよ?展示品?が凄すぎたって。」


栞が看板に色を塗りながら盛り上がる女子の中でボソッと京子に言った。


「そうなんだ。」

「だから同期の早見先生もてっきりデザイナーとか芸術的なもの方面に行くんだって思ってたらしい。才能持っていながら勿体無いよねー。」

「早見先生って手芸部顧問の?」

「そうそう。詳しくは濁してたけど。」


京子は色を塗る手を止めて考え込んだ。 早見は真野と高校からずっと同級生で母校に戻ると大学だけ違った真野と再会した。 早見は手芸をした事は無いが人数合わせとして手芸部の顧問となった。真野程では無かったが早見も女子生徒に人気で体育教師という所が更に女子を騒がせている。


「早見先生かあ。」

「え、京子、タイプなの?」

「違う違う!ちょっと気になる事があっただけ。」 「ふうん。まあ何でもいいけど、教師と生徒の恋愛だけはやめてよね。」

「無い無い!」

「京子ならありえる。」

「ないから!」


思わず声を上げた京子は立ち上がった。


「ちょっと用事出来た。」


教室を出て走った京子を見た栞は小さく呟いた。


「幼馴染の勘って結構当たるんだけどなあ。」


小学校からずっと一緒の栞は京子の顔を思い出してため息を吐きながら心配そうに笑った。

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