第12話 双子語り3 私たち双子だし
長いため息をついた私に向かってヒロが話しかける。
「そこで気付いちゃったのかー。しかし、トモ、圧倒的に遅いよね。気付くのが」
「言われなくても……分かってます」
「むしろ、それまで気が付かなかった方が信じられないけど。まる2年だもんねー」
「悪かったわね!どーせ、私がバカで鈍感だよ!」
「あー、すねるなすねるな。朝、派手にコーヒーカップ落として割ってた日でしょ?」
「……なんで分かった?」
「そりゃ、分かるよ。あんだけぼーっとしてたらねえ」
「分かっちゃうもんなんだね。学校でもユリに一発で見破られちゃったし」
「へー。ユリちゃん、なんて?」
ヒロの問いかけと同時にインターホンが鳴るのが聞こえた。
「お、ピザ、来たみたい。ちょっと待っててね」
「あー、ヒロ待って。これ持ってってよ」
私は立ち上がって机の中から今月のお小遣いの残りの5000円札を出す。お財布はリビングに放置したかばんの中だった。
「いいよいいよ、トモ。今日は私のおごり」
そう言い残すとヒロは階段を颯爽と駆け下りて行った。玄関で配達の人とのやり取りがぼんやり聞こえた後、しばらくしてピザの入った段ボールの箱とコーラの紙コップを手に戻って来る。
「食べながら続けよっか。おなかすいたし。こっちがマルゲリータ、そっちがシーフードね。いただきまーす」
「じゃあ、私もいただきます」
ヒロは、ばりばりとダンボールを剥きながらシーフードも分けてねと言って、私の手元の箱に視線を飛ばした。
「で、なんだったっけ?あ、ユリちゃんにバレたことか。なんて言われたの?」
「顔を見るなり『昨日の晩、なにか考え事でもしてた?』 って聞かれた」
「トモはなんて答えたの?」
「『2年間無駄にしちゃったなあ。私がいかにバカか気付いちゃった』 って。ユリ変な顔してた」
「なるほどなるほど。そっかー。でも、ま、中途半端に早い時期に気付くよりも良かったかもよ?」
「どうしてよ?」
「恋心自覚しちゃうと普通に会話できなくなっちゃうからねー。気付かなかった分だけコージ君と余分に話すことができたんじゃないかなー」
「うーん。確かにそうかも」
「ぎりぎりまで普通に話せてたんでしょ?気が付いた後は、まともに話しかけられなくなっちゃったんじゃない?」
「……うん。不思議なぐらい一言目が出なくなった。あんなに気軽に話しかけられてたのにね……」
「そんでさ、会話が続かなくなっちゃったでしょ?」
「……うん。なんか言いたいことたくさんあるのに、まるで喋れなくなった」
確かにヒロの言う通りだ。下手に1年生の時に気が付いていたら、コージ君との関係はどうなっていたか分からない。私とコージ君の関係は圧倒的な量の普段の何気ない会話で構築されている。それが欠けたら今ほど距離が近くならなかったんじゃないだろうか。
「あと嫉妬心が目覚めちゃったでしょ?」
「ヒロは超能力者かなんかなの?ちょっとこわい」
ヒロはずばずばと私の心情を言い当てる。ここまで当てられると気味が悪い。
「そりゃあ、まあ、私たち双子だし。それに、私も経験あるし」
「えー!まじ?ちょっと、ヒロ、相手は誰よ?いつの話よ?」
経験あるし、とドヤ顔されても、私にはヒロが恋していることなんてこれっぽちも気が付いていなかった。日頃から女子校の文句をたらたらと垂れ流しながらも、それはそれで楽しそうに学校に行っている姿しか知らない。
「私の話はいいの!」
ヒロは強引に自分についての話を終わらせる。
「とにかく、今までの流れだと、コージ君が告白して、トモが喜んでOKして、ハッピーエンドー!抱き合ってちゅっ!っていう筋書しか思い浮かばないけど。なんでこうなっちゃってるの?」
ヒロはマルゲリータをくわえながら聞いてくる。
「それがねー。うん、まあ聞いてよ」
自分でもなんでこんなにこじれてるのか分からない。
私はここまで来たら話すしかないな、と開き直って話を続けた。
双子語りの夜は静かに更けていく。
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