第10話 双子語り2 受け渡しには気を付けて


「ちょっと待った、トモ」


 ヒロが私の話を遮った。

 ちょうど興がノッてきたとこなのになによ、と私の声に少し不満の色がにじんだ。


「ん?なに?」

「いくつか聞きたいことが……。まず、鼻毛ってなあに?」

「そこなの? なんかそのころ、二月の始めぐらいだったかな。コージ君と私の間で鼻毛の話がブームだったのよね」

「はあ?」


 意味が分からない、という表情のヒロ。そりゃ、これだけじゃ分からないね。

 私は話を続ける。


「コージ君、鼻毛が気持ち悪いって抜いてたらさ、鼻血出ちゃったんだよね。それも大量に。保健室連れてったりして、なんか大騒ぎになっちゃったんだよね」

「なんだ、くだらなーい。ただのじゃれあいじゃん」


 いや、聞いといてくだらないはないでしょ。結構な大騒ぎになったんだから。私もびっくりしたけど、コージ君の方がもっとびっくりしてた。男の子の方が流血事態に弱いってのはほんとなんだー、と妙に納得したことを覚えている。


「いやいや、ホント大騒ぎだったんだよ?廊下に血が点々と……」

「まあ、それはいいよ。そんでさ、PRSってなあに?」

「それは、コージ君と学校の帰りに楽器屋さんに寄ったことがあったんだけど……」

「楽器屋さん?」

「ハンズの入っているビルに楽器屋さんあるでしょう?」

「なに? そんなとこに二人で行ってたの?」


 二人で行ってたの、って咎められる筋合いの場所じゃない。ただのビルインの楽器屋さんだもん。


「別にわざわざ行ったわけじゃないし。ただの放課後の寄り道」

「……なんか聞くの嫌になってきたよ」

「言えって言ったのはヒロでしょうが」

「はいはい。それで?」

「その楽器屋さんでコージ君がほしがってたギターがPRSっていうの。すごい高かった。五十万円くらいしてた」

「へえへえ、そーですかい」

「なんかね、エレキギターっていろいろ種類があって、ちょっとずつ違う音がするんだって」

「あー、分かった分かった。その話はいい。関係なさそうだから」


 聞いておいてからになんだよー、と私はふくれっつらをする。


「なんかヒロ、聞き方雑になってきてない?」

「そりゃ、のろけ話みたいなのばっかり聞かされたらねえ。うんざりもするわ。そんで玲奈ちゃんはコージ君にチョコ渡してたの?」

「んー、渡したはずだけど分からなかった」

「ユリちゃんは?」

「昼休みもいなかったし放課後もすぐ帰っちゃったから、誰かに渡したんだろうね。聞いてないから分かんないや」


 そう。ユリが渡した手作りチョコの行方は半年過ぎた今でも謎のままだった。今でもユリはそのことに触れない。


「あともう一つ。トモは教室でコージ君にチョコ渡したんだよね?」

「うん。朝イチでね」

「それって周りに他のクラスの子いたんだよね?」

「まあ、いたね。全員じゃないけど」

「そんなとこで堂々とチョコ渡せるのって二つしかないよね?」

「……二つって?」

「一つは義理チョコ、もう一つは……なんだか分かる?」

「……公認カップル?」

「分かってんじゃん」

「もしかして、義理チョコと思われちゃったかなあ」

「んなわけないでしょ!バカだねえ。まーたこいつらイチャイチャしてやがるぜ、って思われてるよ」

「えー、それじゃ私、思い切り玲奈ちゃん挑発してるみたいじゃない」

「みたいじゃなくて、してる」


 まるで死刑宣告のようにヒロは断言した。いや、まあ、確かに見せつけてるという見方ができなくもないよなあ、とちょっと反省した。ヒロはここぞとばかりに追撃の手を緩めなかった。


「刺されるても文句言えないぐらいだよ。トモがチョコ渡した時、玲奈ちゃんはどうしてた?」

「……教室にいたね。教科書開いていたような」

「トモ的にはまわりはどーでもよかったってか」

「うーん、そういうわけじゃないけど……」

「なんかトモってさ、知らない間に周りに敵作っちゃうタイプだよね。もう少し周囲に気を配らないと、生きていけないよ?」

「……ユリにも同じようなこと言われた」

「気を付けなよ、まじで」


 いつのまにかヒロに説教される流れになっていた。

 なんかムカつく。

 おおむね正論だからなおさら。

 怒ってたのは私だったはずなのに。


「それで?」


 ヒロは先を急かした。ちょっと偉そうな態度にイラッとしつつも私は話を続けることにする。ここから先の話をするのは、少し心が苦しいな、と思いながら。


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