第6話 お姉さんに話してごらん

 自分の部屋でクッションを抱えてベッドに突っ伏してると、じきに怒りは消えて、これからどうしようという気になってきた。


 今、一番会いたい人。

 今、一番会いたくない人。


 私は彼に何を言いたいんだろう?

 私は彼に何を言ってほしいんだろう?


 もう、ヒロのばか。

 話がややこしくなっちゃったじゃない。


 いや、違うな。

 ばかは私。


 ぐるぐると頭の中で思考が渦巻くけど、まったく方向性が見えてこない。


 いずれにしてもなんらかのアクションは必要だ。

 それは分かってるけど……。

 

 だいたいコージ君もコージ君だよ。

 仮にも告った相手をだよ?双子の姉妹とは言え間違えるとは何事だ。

 コージ君、1年の時から私にはオカジョに通ってる妹がいるって知ってるはずじゃん。

 あ、でも双子だってのは知らないかも……。

 

 どうしよう。

 謝ろうかなあ。

 でも、さすがになんか話しかけづらいよね。

 一応、私が振ったんだしね。

 あ、一応じゃないや。はっきり振ったな、私。

 

 あれ?間違えたのはコージ君だよね?

 なんて言って謝るの?

「妹が間違えさせてごめんなさい」って?

 おかしいって、それ。どう考えても変だよね。


 このまま私一人で考えていても、ろくなアイデアが出てこないことは分かりきっていた。大体こういう時の私の思考はループしたあげく、迷路に迷い込む。下手な考え休むに似たりってやつ。

 しょうがない。こういうときは……。

 私はスマホを手に取ってメッセージを打った。


『姉は今も大変激怒しています』

『ケーキとアイスコーヒーを持ってただちに出頭するように』


 すぐにガサゴソとキッチンをあさる物音がして、階段を上る足音が続く。

 コンコン、とノックの音。


「ご注文の品をお届けに上がりましたー」


 おずおずといった感じのヒロの声が部屋に響く。おどけたセリフだけど相当びびっているのが声の調子で分かる。


「入って」


 可能な限り冷たく言い放ったつもりだけど、実際のところ怒りはほとんど残っていなかった。声もいくぶん柔らかかったかもしれない。


 ガチャっと扉が開いた。

 ケーキとアイスコーヒーが2セット乗ったお盆を持って、ヒロがそーっと窺うように部屋に入ってきた。

 ここはできるだけ怒ったふりをしておこう。姉の威厳ってやつだよね。


「あの……、トモ、ごめんね?」


 ヒロが私の表情を窺いながら、上目遣いで私を見る。まさにおっかなびっくりと言った感じだった。


「怒ってるし」


 テーブルを用意しながら、ヒロの顔を見ずに短く言う。

 その様子を見たヒロは、少し慎重に言葉を続ける。


「だから、ごめん」

「……」

「……でも、トモ、どっちかっていうと……」

「……」

「怒ってるより、悩んでるっぽく見えるけど……」


 思わずヒロを見つめてしまった。

 ヒロは少し上目使いで私の様子を確かめている。

 そのままたっぷり1分間は見つめ合って、そして私は目をそらした。


「……はあ。……こういう時双子って不便だよね」


 ……うん。降参。

 今回は私の負け。

 仕方ないね。

 完璧に見抜かれちゃったな。

 ヒロはテーブルの向かいに腰を下ろし、ビビりつつも、ちらっと微笑んだ。


「お姉さんに話してごらん。ね? 楽になるよ?」


「いや、お姉さんは私なんだけど」


「いいのいいの、細かいことは。今日の彼のことでしょ?」


 私は、長いため息を一つつく。

 長くなるけどね、と前置きして話しを始めた。


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