第27 話 6月27日

「お、やってる」

「おー」


 こんちわー、と言いながら、店の中に入れば、「おやおや」と嬉しそうな表情をしたばあちゃんに迎えられ、奥からも、少しだけ足を引き摺ってはいるものの、元気な様子のじいちゃんが出てきて、「おお!来たか!」と威勢のいい声で迎えられる。


「急に呼び出すから何事かと思ったよ」

「いやね、ちゃんとお礼をしていないだろう、っておじいさんがねぇ」

「こないだ美味しいおはぎもらったし、十分だよ!」

「あれはあれだ!いいからあがれあがれ」


 そう言ったじいちゃんの言葉に、善人よしとと俺、寺岡てらおかさんと羽白はじろさんは店の奥へと招待される。


「若いやつには何がいいかわからねぇからな。今日、学校は昼までで、飯食べてないだろ?」

「むしろ食べないで来いって言ったのじいちゃんじゃん」

「細けぇことはいいんだよ。おれとばあさんで作ったんだ。しっかりと食ってけ」


 そう言って、じいちゃんが指さしたテーブルには、和食バイキングか、と言いたくなるほど色々な種類のおかずが並んでいて、「え、これ全部作ったの?!」と善人が驚きの声をあげる。


「全部って、全部家で作れるもんなんだから、そりゃあ作るだろ」

「…すげ」


 当たり前だろう、と言わんばかりのじいちゃんの様子に、驚いて短い言葉だけを発すれば、「ほら、早く座れ!」とじいちゃんが楽しそうな笑顔を浮かべながら言った。


「結局、全員、持ち帰りっていう」

「でも、美味しかったから、お母さんたち喜ぶね」

「まぁ…」


 四人で食べても、結構残ってしまい、四人で分けておかずを持ち帰ることなったものの、それでも一人分の量が結構ある。

 ずし、と思い袋に、寺岡さんが笑えば、羽白さんもふふ、と笑顔を浮かべている。


「それにしても、結構な量だったよね…大変だったんじゃ…」

「まぁ、あのじいちゃん、何言っても聞かなかっただろうから、いいんじゃない?」


 心配そうな表情をした羽白さんに、善人が笑いながら言えば、羽白さんがまだ少し心配そうな表情はしているものの、うん、と頷く。


「でもさ、なんだかんだで、楽しかったよね。店番」


 そう言って笑ったのは、寺岡さんで、その言葉に、「そうだね」と羽白さんがようやく笑って頷く。


「最初は、何で千家せんげなんだろう、ってずっと疑問だったけど」

「…おい」

「だって、千家、教室でずっとつまらなそうな顔してたじゃん」

「…してたか?」

「してた」


 俺を見てそう言い切った寺岡さんの言葉に、「してた?」と善人に聞けば、ハハ、と善人が乾いた笑いで返事を返す。


「だから最初、善人が千家を誘うって聞いたときに、普通に、反対したし」

「そうだったの?」

「え、うん」


 寺岡さんの言葉に、俺以上に羽白さんが驚き問いかければ、寺岡さんはさらりと頷く。


「でも、善人が、どうしても千家がいい、って言うから。じゃぁ、誘えば、ってなって」

「そうだったんだ。私はてっきり、怜那れいなちゃんも初めから賛成してたのかと」

「…ははは」


 裏表がなく、はっきりと言う。善人が寺岡さんのことを紹介した時に言っていた言葉通りで、思わず乾いた笑い声がこぼれる。


「まあ、でも」


 そう言って、俺を見たあとに、羽白さんを見た寺岡さんが、「千家で正解だったみたいだけどね」とフフフ、と意味ありげに笑う。


「なにが?」


 何のことだ?と首をかしげながら問いかければ、「だからー」とニヤニヤと笑う寺岡さんが、また俺と羽白さんを交互に見やる。


「怜那」


 ふふふ、と笑う寺岡さんに、善人が、たしなめるような声で、寺岡さんの名前を呼べば、寺岡さんが、笑顔を引っ込めて善人を見やる。


「そういうことはしない、って約束しただろ」


 そう言った善人の表情に、寺岡さんは、「…う」と小さく唸ったあと、ごめん、と短く謝る。


「ま、でも」


 くるり、と振り向いた善人が、いつも以上に、楽しそうな顔で、俺の顔を見て笑う。


「オレは、なるを誘って、友達にもなれたから、あの時、勇気だして言って良かった、って思ってるよ!」


 へへ、と笑った善人よしとの表情に、俺は、「時々、善人は恥ずかしい」と呟けば、羽白はじろさんと寺岡さんが顔を見合わせて、笑う。


「恥ずかしいってなんだよぉ」

「そのままの意味だ」

「それ言ったらオレだってそのままの意味で言ったんだぞ!」

「んなこと分かってるよ」


 ぶう、と言わんばかりの表情を浮かべる善人に、口元に手を当てながら顔をそむけつつ善人の頭を軽く小突く。


「あー!もう!なるはすぐそうやって顔隠す!」

「うっせ」

「…ふふっ」

「?」

「?」


 ぎゃんぎゃん!と俺の腕にからみつく善人と、俺の攻防戦の合間に、小さな笑い声が聞こえ、俺たちの手は止まり、音の発信源へと視線が移る。


帆夏ほのか?」

「あ、ご、ごめんっ。笑っちゃった」


 俺たちの視線をいっぺんに受け、羽白さんが頬をほんの少しだけ赤くして、楽しそうに、けれどほんの少しだけ申し訳なさそうに笑う。


 そんな羽白さんに、俺たちはまた、顔を見合わせて笑った。







【6月27日 終】

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