珍しくちょっと長いぞ

 大晦日から正月の冷戦を経て、長谷川みうと神楽坂美姫はなにを納得したのかまったくわからないが和平を迎えたようだ。なにはともあれ、頭痛の種が一つなくなったのは喜ばしい限りである。

 我が両親は息子の様子はまったく気にならないらしく一度の電話もなかった。こっちも喜ばしい限りである。……いや、別に不仲とかじゃないよ?


 そんなどうでもいいことを考えていたのは現実逃避の一種で、なにから逃げているのか問は俺が語るよりも、今目の前にある数字を見てもらったわかるのが。それはできないので……。


 ということで回想行こうか。


正月も過ぎ去った1月4日。あまり笑えない問題が発覚した。発覚ってか美姫が見つけたんだが。ざっくり言うと、みうとまゆが並んで数学で赤点をとったことをごまかしていた。――まじで笑えないからな。

 

 俺たちが通っている高校はなんの取り柄もない県立の高校である。なにが言いたいかといえば、我が校は留年が出るほど学業に必至ではない、ということだ。そこに舞い込んで来たのが「赤点ライン」と生徒が噂話をしていたプリントだ。基本的には平均点の半分が赤点となる。追試も相当簡単だが……この二人はやばい。まゆ――12点、みう――8点……。平均点も高くない(35点ぐらいだったか?)なかでこの点数はやばい。ちなみに美姫は98点、俺は55点だ。授業を聞かなくても解けるほど優しさのこもった出題だった。


「ねぇふたりとも、なにこの点数は?」

 やばい。これ、美姫が本気でキレてるやつだ。巻き込まれないうちに逃げねばと思い部屋から出ていく寸前で、みうの足に引っ掛けられた。絶対わざとだ。どうでもいいけで、スカートの中が結構大胆に見えてるからな。いつのまにか美姫がキレるほど仲良くなったのね。

「「どうって言われても……」」

見事にハモった。

「どうやったらあのめっちゃ簡単なテストでこうなるん?」

「勉強をしていないからよ」

 久しぶりにツンツンした長谷川さんが登場。

「難しくて……」

難しくねぇよ……。

「冬休みの宿題は?」

絶賛不機嫌な美姫様。

「「友達に写させてもらう」」

まじか……。

「留年しそうなのにその危機感がないのは?」

「「どうせ留年しないと思ってる」」

……。俺も美姫も絶句である。



  ということでさほど勉強が得意ではない俺まで巻き込まれての勉強合宿が開催の運びとなった。


俺も年相応に勉強は嫌いだ。しかし、悲惨な点数をとって、隠して、発見されたときの美姫のキレ具合もまじで怖いので毎回50点を狙って省エネ勉強をしている。――本気で怖いからな。振りじゃないので悪しからず。


 開催を断固反対していたみうも、美姫との間でなにかの取引に応じたのか。それでも”渋々”といった感じだが、勉強する気になったようでリビングの机で筆をとっっている。 


 頭痛の種はこっちだ……。

「まゆ、勉強しないの?」

「んー……。難しい……」

 3歩進んで3歩引き。1歩も前に動いてないじゃん!

「この公式って意味がわからないよ?」

 ごめん。うるうるした瞳で見られても。これは1年生の時にやったはずの公式なんだ……。


3時間経過。そして冒頭に戻る

 

 

 ソファーでぐったりしてる二人はとりあえず放置して美姫と作戦を練る必要がある。

「みうは?」

「進んでるわ。今まで勉強してないだけで、その気になれば苦労はしないわ」

それは朗報である。

「三原さんは」

「まったく進んでない」

ぐったら報告である。

「甘やかしてるだけじゃなくて?」

「甘やかすだけの余地があってほしかった」

「具体的には?」

「解と係数の関係とか三平方とか。挙げたらキリがない」

二人でため息。


 まゆは美姫に任せて俺がみうに交換してみた。これでダメならもう諦めよう。密かに心の中で決意した。


 なるほど。みうはほっといてもすんなりいけそうだ。地頭がいいってのはこういうことなんだなぁとしみじみ思っていると

「ねぇ。ここの放物線の……」

「ほい?」

 一瞬止まってしまった。ノートにびっしりと並んでいる数字。――意外と字が苦手なのね。

 これなら答えられると、ヒントだけをあげたらまたノートに意識を集中している。教えなくても教科書とにらみ合いをして、そそくさと先に進んでいく姿に安心した。

「なんでみうは勉強してなかったん?」

 筆が止まった。

 やばっ。邪魔したか?

「どうせ勉強しても大学まで行くお金ないから、ね。

高校出たら働かないと」

 なにを我慢してるのは顔を見なくてもわかりきっている。

 金の問題はなぁ。でもこんなに楽しそうに勉強してるのに。

「相当レベルを落として特待生とかは?」

「それも考えたけど。あんまり楽しそうじゃないから」


 何も言えなかった。はっきりとわかるのはここの4人全員が違う道を歩いていくことだ。進路はばらばら。少し寂しく感じるが仕方ないことだよな……。

 どうせ寂しいなら? 俺ができることといえば。


「旅行に行こう!」


「「「はい?」」」


 というわけで無理やり男1人、女3人での旅行を決めた。

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