いつもの距離感?

 1月1日――深夜――


「もう入っていいいかな?」

 不意に聞こえた声にびっくりしながら振り向いた。膝ぶつけた……痛い。

「いつからいたの?」

「5分くらい前。なんか痴話喧嘩みたいだったから待ってたの」

 いつからそんな健気なさを身に着けたのか。まるで本命がいるのを知ってて付き合っている後輩系女子になってしまった。まぁ……結構ポイント高いな。

 俺の前をスタスタと早足で通り過ぎると、自宅にいるかのような滑らかさで牛乳をレンジで温めて飲み始めた。


「なぁ、俺達の付き合いってどんくらいかな?」

「年齢とだいたい同じじゃない?」

 

 そうなんだよな。美姫の家にあるアルバムはどこを見ても俺たちふたりで写ってるからな。ちなみに俺のアルバムにも写真はあるが、俺より美姫のほうが多いという。父母ともに娘が欲しかったと聞いて、笑ってたころもあった。


 ポケットからタバコを取り出して、くわえる寸前でなんとなく動作が遅くなって、そのまま床に落としてしまった。ころころと床の上を転がって美姫の足元まで行くと

「……」

無言で美姫が拾って俺に渡してきた。

「……」


 なんとなく気まずい。タバコはポケットに戻して美姫の隣に腰掛けようとしたら、すっと一人分ソファーを空けてくれる。こういうところにも長い付き合いが垣間見えるよな。

 

 美姫は何を言うでもなく無言を貫いている。

 美姫との間には会話は必要ない。


 なにも言わなくてもわかってくれる。


 そんなの押し付けに過ぎない。そんな優柔不断な俺に付き添っている。一番苦労をかけていることはわかっている。それでも……。

「なぁ、美姫」

「ん?」

「なんで俺なんだ?」

「理由も時期もわからないよ。いつの間にか好きになって、隣に座り続けてるの」

「そっか」

「うん」

「貴方は?」

「自分のことなのによーわからん」

「無責任」

「すみません」


「あー。なんでもっと早く好きに気がつけたらな。そしたらきっともう私の貴方だったのに」

「人生に”たら””れば”は言っても仕方ないよ」

「……」

「冷たい」

「残念。生まれつきだ」

「知ってる」


 長年連れ添うとなんでも”知ってる”になっちゃうな。

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