あの娘との距離

 みうといるときが一番、素の自分に近いと思ってる。


1月1日――深夜――


「うー寒い寒い」

 我ながらジジ臭い声でリビングに入るとみうがいた。……ん? なんで??

「ちょ! なんで?!」

「男がそんな大声で騒がないで」

 テレビから視線をそらさずに俺の疑問を一蹴された。俺、悪くなくね?


「なんでお前が起きてるん?」

 冷蔵庫からビールを取り出して隣に腰掛ける。この歳で深夜にビールとか、まぁ身体によくないのはわかっておりますよ。

「なに当たり前のように隣に来るの?」

 じろっと睨みつけてきた。

 おー。めっちゃ機嫌悪いな。って思ったから

「おー。めっちゃ機嫌悪いな」

って言ってみた。

「その軽い感じが私の好みなのかしらね」

 張り詰めていた糸がたわむように柔らかくなった。

「んで、お前はなにいらついてんだ?」

「なにかしらね。最近一人になるとこうなのよ」


 自覚のない幼子はかわいいけど自覚がないんだな。

「私じゃ三原さんみたいに秘密を共有していることもないし。神楽坂さんみたいに献身的なことはできないわ。

そうしたら2人に勝る私っているのかしらって」

 はたしてなんと返したことか。一瞬固まると

「考えてもどうしようもないことは分かってるんだけどね」

 みうは息を吐いて逃げようとした。

逃げよう? 逃げる? なにから逃げる? それは俺が逃げようとしてるだけなんじゃないか? 

「ちょ」

 みうの腕を掴むんで引き寄せた。それだけでみうの体制は簡単に崩れる。

「やめてよぉ」

 やっぱり泣いていた。

「もうちょい周りも頼れよ。いつまで一人で泣いてんだ?」

「貴方がそれを言う資格はないじゃない」

 言葉はトゲがあっても声には悲しみしかない。

「俺が応えを出さないのが悪いのは分かってる。でも今それで泣いてるみうを放っておけないよ」 

「本当よ」

 笑ってくれたけどやっぱり目には涙のあとが残っている。


「さっきの質問なんだけど」

「ん?」

「イラツイてるわけではないんだけど……。やっぱりあの2人といるとね。自分のことが嫌いになっちゃうの」

「眩しいのか?」

「わからないわ」

「そっか」

「じゃあおやすみなさい。貴方も寝なさいよ」

「おう。じゃあおやすみ」


どうせまだ眠ることはできないのだが。夜は静かに過ぎていく。


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