幼馴染がメインヒロインに昇格したようです

 まゆが我が家に身を寄せるようになって初日の夜。

 予想通りに予想していたとおりにそれは起こった。

「いい加減にしろ! この甲斐性なしの唐変木!!」

 美姫が持ってたカバンで思いっきり顔を殴られた。「ですよねぇ~」って感じだ。説明できないことが多すぎるんだ。

 リビングに戻るとまゆがソファーで寝ていた。警戒心がないのか、低いのか。甲斐性なしと言われるのも、まぁ納得してる。

 どうやって3人が幸せになれるエンディングを迎えられるのか。考えなくてはいけないことが多すぎる。

 でも今日はこの安らかな寝顔を見ることができてよかった。


 母さんの部屋をざっと掃除して、ベッドのシーツを替えて。まゆが使えるようにメイキングする。

 まゆをベッドに移動するために「これってお姫様抱っこするパターンじゃね」なんてアホみたいな思春期あるあるなことを考えながら戻るとソファーにまゆの姿がなかった。「これってラブコメで鉄板のお風呂バッティングじゃね」とかニヤついてる自分がいる。大人の階段を登っている途中なのだから仕方ない。ってか正直に考えると頭痛がするほどのめんどくさい状況でピンク色の展開より天啓のようなひらめきが欲しい。

 ぼちぼち換気扇の下でタバコに火をつけて1服して間もなく、まゆが戻ってきたのか足音が聞こえる。お茶でも出すかと考えながら、まゆをちらっと見ると俺の視線に気がついて、ぱっと顔を隠してしまった。


「遠慮とか申し訳ないとか気持ちがあるのはわかる。だから俺からのお願いは「黙って出ていないでくれ」だ」


 その後、まゆを母さんの部屋を案内して俺も部屋に戻った。


 激動の1日。着替える元気も出てこなく、着の身着のまま布団に横たわってしまった。


 身体をゆすられる感覚。微かにめを開けると眩しい光。どうやら部屋の電気を消すのを忘れてしまっていたようだ。覚醒する感覚。俺を起こしていたのは美姫だった。

「朝?」

「違う」

 真面目な顔。強い視線。

「殺しにきた?」

「違う。ちゃんと話を聞きたいと思ったの。私は貴方が、理由なくこんなことする人じゃないって知ってるから」

「ごめん。話せない。これは墓まで持っていくことだから」

「そっかぁ。悔しいなぁ」

 美姫は大粒の涙を流している。

「いつも隣にいて、どんなことがあっても相談して。そうやって二人で前に進んでいくんだと思ってたの……。

わかってた。「いつまでも」なんて考えながら私は努力してなかった。気持ちを伝えてなかった。だから」

「私も貴方が大好きです」

 幼馴染の初めて見る強い決意の秘めた瞳だった。

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