ちょっと長くなった……
あの雪の日にキスをして、まゆは俺を見るとささっと隠れたり、ぱっと逃げたりするのだ。俺だって少し照れるし、まゆもそうなんじゃないかと特に手を打たないで漫然としていた。(これって誤用か?)
そのまま少しだけ月日が経ち、冬休み前の最後の登校日。いつものよう美姫と登校して、永らく使っている教室の自席に着いた。そのままホームルームまで読書でもするかと、備え付けられている引き出しを開けると、ピンク色の封筒が入っていた。
はて、ここで開けていいものなのかと少し迷う。美姫に見つかったら少しめんどうだ。長谷川に見つかったらかなりめんどうだ。まゆに見つかったら命の危険があるかもしれない。めんどうしかねぇじゃん……。
なので封筒をそっとブレザーのポケットに入れると男子トイレに向かった。幸いなことに、個室が空いていたのでそこに入り鍵をかけて、危険極まりない物を取り出す。表にも裏にも名前は書かれていない。ラブレターなのか? この時代に? 名前くらい書かないと読まないで捨てられるとか思わないのか? 疑問しかない。まあ開けるけど。呼び出しとかっだったらやだなあぁ。
中にはおしゃれでファンシーな便箋が入っていた。
「最近避けててごめんなさい。お話したいことがあります」
としか書いてなかった。まぁこれだけでも誰かわかるから問題ない。スマホを取り出し、まゆに「昼休みに屋上で」と短くLINEでメッセを送る。すぐさま既読がついて「ありがとう」と、これまた短く返してきた。
屋上へぷらり。いつも通り物陰に隠れて、すっとタバコとライターを取り出した。流れるようにふぅーと紫煙をくゆらす。
ゆっくりと時間が流れている気がする。扉の開く音がした。丁寧に閉じたのか
閉ざした音は聞こえない。探るようにきょろきょろとしている。
「そこにいる?」
不声は微かで不安がにじみ出ていた。
「あぁいるよ。怯えてないでこっち来な」
できるだけ優しく温かみのある声で彼女を促す。
久しぶりに彼女の顔が見れた。寝不足なんだろう、目の下のくまがひどい。あんなに綺麗だった長い髪の毛もぼさぼさだ。まともに食事をしていないのか、かなり痩せたように見える。
「こんな私見せたくなかったの……」
「寝れてないのか?」
こくんと元気なく頷く。
「飯は食べてないのか?」
こくん。
「シャワー浴びれてるか?」
無言で首を振る。
しばし無言になり、なにを言うか悩んでいると
「ごめんなさい」
と言って立ち去ろうとした。
「ダメだ」
腕を強く握りしめる。俺が力の加減を間違えたら折れそうなほどに細かった。
「このまま早退するぞ。一緒に来い」
まゆには拒む力も気力もないのか俺の手を振り払ったりしなかった。
荷物も持たないで学校を抜け出すと俺の家まで連れてきた。まゆはもう精根尽き果てたのかソファーに横になったままだ。
まず浴槽にお湯をためるためにボタンを押す。そのままの勢いでざっとお茶漬けを作ってテーブルに置くと、まゆを迎えにソファーまで直行。
「軽い飯作ったから。食べられるだけでいいから食べてくれ」
こくん。酷く緩慢な動きでテーブルの椅子に座った。ゆっくりと。本当にゆっくりと一口食べて。もう一口。小さなお椀に少なめにしたお茶漬けを20分以上かけて、でも全部食べてくれた。
「風呂、1人で入れるか?」
「頑張る」
少し元気が戻ってくれたのか、声に少し張りが出てきた。
「着替えは俺のでいいか?」
「うん」
バスタオルを渡すと少し照れながら頷いてくれた。
「私、お風呂から出たら話したいことがあるの……」
「大丈夫。ちゃんと待ってるから」
少し、はにかみながら風呂へ行った。
女の子の風呂は長いとは聞いたことはあるが、まさか1時間かかるとは思ってもみなかった。
戻ってきたまゆは見違えるほど綺麗になっている。
「先に話すか? それともちょっと寝るか?」
「寝るって抱いてくれるってこと? 私だけの貴方になってくれるの?」
「元気になってなにより!」
「とりあえず、貴方の部屋に入れてほしいな」
まゆは俺のお古のフリースを着ていて、その膝のところをぎゅっと握りしめている。
「りょーかい」
そのまま部屋に案内した。まゆに椅子を譲って、俺は立っている。
「やっぱりあのことか?」
無言。
「今日から俺の家で生活しよう。ダメか? 嫌か?」
「ダメでも嫌でもないよ」
まゆの瞳にいっぱいの涙が溜まっていく。
「そこまでしてもらったらきっと二度と貴方から離れなくなるの。神楽坂も長谷川さんも貴方のことが好きなんだよ! なのに私だけ秘密を共有してるからってだけで、弱い私をみてくれてる。
貴方が決断したときに私はどうすればいいのか解らないの」
「俺だってどうなるのか解らないよ。俺が決断できていないせいで3人に苦しい想いをさせている。
でもひとつだけまゆが勘違いしてることがある。美姫も長谷川の気持ちだって知ってる。そこにはまゆもいるぞ。どちらかじゃない」
「私もいるの……?」
「いるよ。当たり前だろ。好きでもない女にここまでしないよ」
それを聞いてまゆは、ぼろぼろと泣き出してしまった。
そっと布団をひいてそこに横たわらせる。
「少し寝ておけ」
「うん……。手を握ってもらってもいい? それだけであの悪夢を見ない気がするの」
「じゃあまゆが起きるまでずっと握ってるよ」
優しい笑顔を最後に眠りに落ちた。
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