はい。シリアスです

 そろそろ4限の授業が終わろうとする時刻。窓の外に見える景色に雪が見えた。気のせいかと思い、つまらない授業を無視して景色を眺め続ける。


「雪降ってきたぞ!」

と誰かが言って、みんなが雪見たさに窓側までわらわらと集まり大騒ぎになっている。そして俺はそれには加われなかった。去年のことを思い出してしまったから。「きっとあいつも……」なんて思っていたら隣のクラスの先生が駆け込んできた。

「三原さんが! 三原さんが!」

 俺はそれだけで事態を把握、大人が喚いているのをシカトして、まゆのところへ100メートル走で自己新記録を更新できる速さで走った 。

 教室の中には、まゆしかいないようで、他の生徒は外に出されていた。そんななかを突き破り、ぶつかり、そのままの勢いでまゆだけがいる教室に走り込んだ。

「まゆ!」

 大声で名前を呼ぶ。膝をつき、身体を抱き込みながら頭を床に置いて大きな声で叫んでる。


 「お父さん、ごめんなさい

  お父さん、ごめんなさい」

 ただそれだけをひたすら叫んでる。

 やっぱりあのときの傷は治ってはいなかった。


あのとき


 去年の今頃。

 かなりの大雪が降っているなか、どうしても読みたい漫画を買いに夜の外へ出ていた。

 雪が積もってなかなか前に進めない。住宅街を「雪が嬉しいのって子供だけなんだな」なんて恥ずかしいことを思いながら歩いていた。

 不意に怒鳴り声とガラスの割れる音、そして大きな泣き声が聞こえた。はっきりと「これは子供が食器を割っただけ」なんて甘い話じゃないことがわかるほどの音。

 庭付き一戸建てが舞台のようだ。こっそり庭に侵入。窓ガラスが割れていた。破片が庭に落ちている。その割れ目から中をこれまたこっそり見てみる。そこには俺と同い年くらいの女の子が真っ赤な包丁を持って立っていた。

 俺はその娘の表情をみて『怖い』とか『やばい』とかなんかより『キレイ』って思ってしまった。


 割れた窓を開けて中に入る。そこには男の大人(おそらく父親だろう)が首から見たことのない量の血を流して倒れていた。それでもまだ生きているのか手を動かそうとピクピクと腕が動いている。

 彼女の目には黒い痣ができているのが印象的だった。ありえないくらいにぐちゃぐちゃな部屋を見渡す。たくさんの割れた食器。包丁を持って小刻みに揺れている女の子。

 俺は迷うことなく女の子のもとにいくと、そのまま包丁を握った手をつつんであげた。氷が溶けるように力が抜けたところでそっと包丁を手から離してあげる。

 そしてその包丁を俺が握り、倒れていた男の首に突き立てた。

 そのあとのことは正直覚えていない。正当防衛だったということ、未成年だったことも加味して世間に出回れなかった。


そして今


 保健室で声は出さないまでも俺のワイシャツで顔を隠して、声を押し殺して泣いている。


 まゆの顎をくいっと持ち上げるとそのまま黙ってキスをした。すると緊張がとれたのか力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。


 自分でも最低なことをしてるのはわかってる。でも俺にはこれしか思いつかないんだよ。

 まゆが静かな寝息を立てている横で俺は声を出さずに涙を流した。

 

 

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