お見舞いイベントはラブコメの鉄板
「やだぁあ。どこにも行かないでよぅ」
「わかったわかった」
「あれね、私のファーストキスだったんだよぅ? 責任とってねぇ? 私だけの貴方でいてほしいの」
デレデレ彼女。
改めて紹介する必要はないだろう。
長谷川である。
ここから回想……。
「長谷川さん今日、体調不良でお休みなの。
だから貴方がお見舞いに行ってください」
長谷川とは別のクラスなのだから、『特別俺が行かなきゃいけない』なんて言い訳はしない。だって長谷川は俺のことが好きらしいからな。そりゃ俺だって、体調の悪いときにさして仲の良いとは言えないクラスメイトが来ても困るだけだ。
さて。見舞いの品だがフルーツセットってかなり高いんだぜ。これ豆知識な。安いのは見てくれがしょぼくなるし。
と、言うことでスポーツ飲料にしてみた。高校生はそんなに金を持ってない。
長谷川の担任が教えてくれた住所(それ、教えていいのか? と疑問に思ったが)に行ってみると、良く言えば年季の入った、悪く言えばボロい……アパートがあった。
あの暴力的なまでに美しい彼女が住んでいるとは、なかなかに想像しづらい。
203号のところに『長谷川』と書かれたネームプレートが貼ってあった。
ベルを鳴らす。緊張の一瞬。初めて訪れたときの緊張ならみなさんもわかるだろう。小さな声で「はーい」と声が聞こえた。
そして扉は開かれた。
絡み合う視線。長谷川はすごい勢いで扉は閉じた。こっちがびっくりするくらいだ。おいおい誰が来たのか確認してから扉を開けようぜ?
「なっなんで今日なの?」
「いや、長谷川の担任に頼まれた」
「1時間待って! その間に着替えとか掃除とかするから!」
「掃除も着替えもいらんから早くこと扉を開けてくれ」
「で、でも……」
「開けないなら帰るぞ」
どうやらその一言で陥落したようでそっと扉を開いてくれた。
「なんで初めて家に来てくれたのに、すっぴんで掃除もできてないの……」
「しかもパジャマだしな」
「せっかく来てくれたのに帰られたら一生後悔すると思ったんだもん……」
ぱっとみ汚いわけでも、散らかってる様子でもない。というか俺の家よりきれいだ。
「すっぴんでも、パジャマでもそういうことを気にする女の子っていいって思うけどな」
「そういう調子いいこと言うから貴方のことを好きになる女の子が増えるのよ」
この話題は危険だということで
「飯は食べたのか?」
「食べてない……」
不満たらたらな様子だがこの距離感を保ってくれる彼女は好きだ。
「じゃあキッチン借りるぞ。お粥くらいなら作れるからな」
「……ありがと」
「とりあえずギャルゲにありきたりなお見舞いイベントにならないようにこっそり着替えるとかしておいてくれや」
長谷川はお粥を食べたら一気に熱が上がったらしく、布団に弱々しく横になっている。
あれだよね。熱が結構なところまでいくと理性とか飛んじゃうらしいじゃん?
回想終了
『好き』『大好き』を延々とつぶやく長谷川は
「寝るまで手、握っててほしいな」
と一言残して夢の世界へ旅立って行った。
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