第9話 推測同一人物説
「つまり、三人とも」
「なんせノト君の推理やからね。信用したってよ」
「でも鎌倉嬢が紹介する女はどうなんだ。あれは」
「それはもう同じや、ゆうて解決しとるん。ツグちゃが盗聴したったから間違いないなあ」
俄かには信じがたい。
十九時をすぎたので窓口は閉めた。メールは二十四時間受け付けているため伊舞がそれに対応している。
「なんか目ぼしい情報来たか」
「鎌倉嬢はまだ降臨されてませんね。楽しみだなあ」
巽恒が溜息をつく。「せやけど、かねやんまで来たゆうのは」
「でもあいつもあの店で機種変したんだ。そのときに番号控えられたと見ていいだろ」
「なあ、かねやん。どないな人やった?」巽恒が言う。
「鎌倉嬢ですか? 素敵な人でしたよ。またかかってこないかなあ」
「ホンマにかかってきたらええのに」
「お前が機種変更した店員はどうだ。もしかしたら」
「そか。キソ、でかした」
伊舞が首を傾げる。両手は忙しなくキーボードを叩いたまま。「ううん。フツーの人でしたよ」
「声はどうだった?」
「ううん、そこまでは」
「あんなあキソ。鎌倉嬢は声色自由自在なん。声で攻めても煙に巻かれてツグちゃが具合悪うなるだけやわ。姿でいかへんと」
「でもどうして機種変更だってわかったんだ?」
「つぐチャはさすがメカおたくでな、ケータイの新機種は絶対チェックしとるん。こないだ回った五人の内、ひとり先週出たばっかの超人気モデル持っとったんやて。で、悔しなったツグちゃは近くにそれ置いてないか調べたったん。そしたら」
「あの店か。でも」
「一応裏は取ったよ。その社長さんも、機種変したった社長さんも、つい最近自分用のケータイ買うた社長さんもぜんぶ」
あの店。
「だが番号が手に入ったとしてもその知り合いの声や性格まで完全にトレースできるか」
「せっかちやねえ。それもほぼ解決かもしれへんよ。かねやんの知り合い、誰やったん?」
「若です」伊舞が言う。
「なんで」
「これで疎遠になった異性、が絶対やないことがわかったね。ノト君によるとな、こうゆうんは少数派から攻めたほうがええらしいわ。要するに」
「可能性ってことか」
「そ。疎遠になった異性のひとりふたりおるやろ。こっちのほうが多数派ゆうことはむしろこっちのほうが第二手なんやと思う。かねやん、機種変のとき、なんや聞かれへんかった?」
「世間話をしました」
「俺の話だろ。なるほど、性格の情報はそこから。だが声まで」
「それもノト君が興味深い考察してくれてん」巽恒が言う。「電話ゆうのは声しか聞こえへんから本人確認は曖昧になるんやて。はいもしもしキソさねあつです、ゆうたらよほどのことがない限りまあお前やと思うて話進めるゆうわけね。会話ゆうのはそもそも内容に重きおかれてへんの。感情の共有やから内容なんかどないでもええ。話すほうは一方的やし、聞くほうも適当に上手い相槌打っとけば会話は円滑に進む。それにもうひとつ面白い仕組みがあるん」
巽恒は脚を組みなおした。
「心理学用語で投影ゆうのがあるんやけど、せやなあ。お前がノト君に嫌われてるとする。せやけどそれはお前が嫌ってるゆう感情を相手側に重ねてるだけやもしれへん。それが投影ね。自分の感情をあたかも相手の感情と錯覚すること。その理論によると電話ゆうのはやたら曖昧な伝達手段になるわけね。振り込め詐欺ゆうのも感情に訴えるさかい。せやから騙されるん」
自分の感情を相手のものと錯覚。
じゃあ自分が嫌ってるだけか。
「本当に俺だったのか」
「若でしたよ。でも」伊舞が言う。
「してない。第一お前に電話なんかしない。それでも騙されたのか」
「だって若でしたし、ううん」
「明日かねやん連れて、お前が捜してきてくれへん?」
「最初からそう言え」
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