第6話 手づまりそれとも
「一人当たり十分か。もし万一連絡もらって大急ぎで駆けつけても間に合わないかもな」
「ほんならひとり狙いつけて泊り込むしかないなあ」
ディスプレイを見る。鎌倉嬢から電話があった人間のリストだ。わかっているだけで三桁。そのうちで二回以上電話があった人間だけ表示させる。数が、十分の一になった。
「やっぱ金持ちに集中したはるわ。会話ん中で年収訊いたりしてへんかな」巽恒が言う。
屋島がイヤフォンを差し出す。
「いや、せやからそれはええの」
屋島が首を振る。
何らかのメッセージも添付している。
「はあ、なんやのそれ。せやったら」
巽恒が一瞬天井を見てからマウスを横取りした。
「あ、おい。何て」
「ちょお見せて」
仕方なく席を譲る。部屋の奥にいた
「見つかりますかねえ」伊舞が言う。
「そういう依頼だからな。お前も考えろ」
「なんだか架空のアイドルみたいですね。鎌倉を拠点に暗躍する謎の女性の正体はって」
「アイドルか。偶像だな」
「ううん、僕も会いたいなあ」
「やめとけ。お前に電話来ないんだから」
「実は昨日来ましたよ」
「はあ?」
自分より先に巽恒が反応した。あまりにも大きな声だったのか、部屋の隅で問題集を開いていた能登が迷惑そうな顔を上げる。
「何で言わない」
「ごめんなさい」伊舞がぺこんと頭を下げる。
「ツグちゃ、よおやった。いまから確かめ行こ」巽恒が言う。
どうやらタイミングが被っただけで違う話題だったらしい。
巽恒は屋島とともに外に出ようとする。
「おい、どこ行く」
「ええの。ほんなら」巽恒は足を止めない。
「ちょっと」
行ってしまった。追いかけるのも癪なので巽恒が見ていたディスプレイを見遣る。電話番号の欄がアクティヴになっていた。
電話番号?
「ノト。ヤシマは何て言ってたんだ」
「え、その」能登は明らかに困惑した顔を寄越す。
屋島といい能登といいこのふたりからは好かれていないらしい。そもそも巽恒が役に立つ、と言って独断で拾ってきたボランティアなので口出しも出来ないのだが。学校も違うのにどうやって見つけたのだろう。興味がないので特に訊かないでいる。
「何かわかったんだな」
「はあ、たぶん。あの俺聞いてなくて」能登が言う。
「聞いてない? どうして」
「えっと」能登は手元の問題集に眼を落とす。
眼を逸らされた。
「ツグの文字式メッセージは伝える意志はもちろん、受け取る意志も必要なんです。聞く気がないと伝わってこないので」
「そうか。悪かったな」
受け取れる人間は無条件に文字が受信できるわけではないようだ。便利なのか不便なのかわからない。
電話番号か、と思う。
出入り口のドアが開く。まさか客のはずは、と思って特に身構えなかった。
「惜しかったな。いまちょうど入れ違いだ」
群慧は首を捻って部屋内を見回す。嘘を言ったと思ったのかもしれない。
群慧にも好かれていないような気がする。能登が荷物を鞄にしまっている。
「知りませんか」群慧が言う。
仮説は立証された。絶対に聞いていなかったのだ。
群慧は俺を無視して能登に声をかけている。
「俺、帰るから。ヨシツネさんに会ったら」能登が言う。
「どこっすか」群慧が言う。
「いや、俺も。ツグと一緒に出て行ったけど」
群慧は眉間に皺を寄せてからドアを勢いよく開けて飛び出していった。
能登も手提げを肩にかけてから「失礼します」と言って帰ってしまった。
四マイナス二。
「嫌われるようなことしました?」伊舞が言う。
「うるさい」
伊舞がにへらと笑う。
決して馬鹿にしているわけではないと思うが多少腹が立つ。巽恒がいなければKRE鎌倉支部には用なしらしい。
当然か、とも思う。
「そういえばお前、昨日」機種変更だなんだって。
「見ます? ほら、カッコいいでしょう?」伊舞がケータイを見せる。
「何で変えたんだ。特に不便もないだろう」
「だってこっちのほうがカッコよいですし」
「特に変化ない」
伊舞がううんと唸ってケータイをポケットに戻す。
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