第14話由利と佐久間

「さあ、由利くん話をして!」

久坂は、真剣な表情で言う。

「わたし達はあなたがどんな

選択しても後悔は・・・しない。」

エリーゼは覚悟を決めた表情で言う。

「ああ。

約束だからな。」

とうとうこの日が訪れたか。

月曜の正午の屋上にあるベンチで

右から俺、エリーゼ、久坂と座っている。

俺の昼食はあんぱんと牛乳なんだが

この後を考えると喉が通らない。

もしかして俺は、不安なのかもしれない。

明確的な感情ではなく

なんだか自分でも今どんな感情なのか

分からずにいた。

「・・・でも、言わなければ

また、変に勘繰られるからな。」

「え?由利くんなにか言った?」

久坂が怪訝そうに訊く。

「い、いやなんでもない。」

「それより、早く言ってよ。

わたし達だって、気になって

仕方ないんだから!」

エリーゼの言う通り

そろそろ言わないといけないんだろう。

あの日から考え悩んで

決意しても

いざとなると後退りたいのを

無謀的な勇気を無理に起こして

口を開き声を出す。

「・・・佐久間香菜祢さくまかなね

は、虐待を受けていた。

夜に河川敷で出歩いていたら

子供がいた。

その頃は、俺は中学三年でつまりは

去年の事なんだ。

こんな時間に一人で目がうつ

だったんで胸が騒ぎ後を追えば

土手から降り川の近くで止まった

所を見た俺は、自殺だと分かり

なんとかしようと声を掛け

止めようとした。」

「あの子・・・虐待を受けていたなんて。」

久坂は、悲痛だった。

会って間もないのに思ってくれると

不謹慎だが嬉しく思う。

あの子は、愛情が溢れる環境で

いるべきだと

否、多くの子供がそうあるべきだと

考えている。

「・・・それであなたはどうしたの?」

あの強気のエリーゼも似た反応だった。

「ああ、自殺なんてやめろ!って

俺が言うと

肩がびくっとなって恐る恐ると振り返ると

・・・怯えていた。

小学生なんだから知らない中学三年なんて

怖いのは普通だろうけど

怯えて方が尋常じゃなかった。

やだ!来ないで、殴らないで!

・・・そう泣かれ俺はショックを受けた。

だけど俺の顔見てじゃなく

誰かにここまで恐怖心を与えた

奴がいると答えに辿り着いたときは

強い憤りを覚えた。

なんとか優しく説得しようと決めたが

そんな時間はなかった。」

今のあの子は見てると苦しいほど

弱っていて泣いて助けを呼ぼうと

しないのを・・・

誰も期待していないようで

苦しかった。

言葉に出来ない悲しみが伝わて

今でも忘れていない。

あの、感情と苦しいあの子に。

「「・・・・・」」

二人とも静かに続きを待っている。

次の言葉をどう伝えるか少し考え整えると

俺は、続きを発する。

「後ずさるあの子は、川に落ちた。」

「「えっ!?」」

「驚いた俺は、助けないとそれだけ考えて

迷いもなく川に飛び込んだ。

今、考えると無茶のし過ぎだと

思ったよ。

でもこの判断は間違っていなかった。

あの子は、思ったより軽くって

手を掴みもう片方で

コンクリートの上・・・飛び込んだ場所に

掴んでいた。

いや、違うな平で掴むいいものが無かった

から爪で落ちないように

強く強く力を入れていた。

上半身を前に向け、足で推進するように

して動かしてなんとか

進んで助かった。

まっ、俺の指が血が流れただけで

済んだよ。

助けられたあの子は、ポカンと

理解できずにいた。

そして一言を発した。

どうして助けたの?と、

俺はこう答えた。

助けるのに理由もないし、

当たり前だろ!

優しく笑ってそう答えた。

そして、あの子は泣いた。

ありがとう、ごめんなさい

そう言って泣き叫んでいたよ。」

長い台詞で喉が渇き牛乳を飲んで

二人の反応は・・・

驚愕のあまりに口が開いていた。

なんて言えばいいのか俺は

分からず静寂が長く続いた。

鳥のさえずりや喧騒だけが

音だけする。

仕方なにか言おう。

「ほ、ほら弁当を食べないと

終わるぞ。」

すると久坂は、目の周りから

水滴のようなものが・・・

あ、あれ?

「壮絶すぎてなんて言えばいいのか

分からないけど

立派だよ由利くん。」

涙を流し微笑んで行いに賞賛する。

「・・・スゴいじゃない。」

ま、まさかエリーゼも涙は、流して

いなかったが

ぐすっと鼻を力むような音がする。

それと、褒めるのも珍しい。

二人ともなんだか涙もろい。

・・・でも、嬉しく思う。

「それからは、叫び声で警察が

やってきてあの子は、事情を説明したよ。

児童相談所の人達にあの子を

任して俺はとりあえず帰ったよ。」

話はこれぐらいにしよう。

まだ、その後があるが

とても時間がないし

そろそろこのあんパンと牛乳を

食べたい。

「よかった。

・・・本当によかったよ。」

「うん。良かった。」

久坂もエリーゼも安堵する。

だけど二人にどうしても訪ねたい

といけない。

「あの子は、深い傷が残っている。

だから・・・

いきなり話し掛けることは

やめてほしい。

恐がるから。」

俺はこれを恐れていた。

もし下手な同情なんかで

話し掛けて煩わせたくないし、

特別な扱いもあまりしたくない。

普通の女の子として

接してほしいからこそ

この話をするか長く悩んだ理由だったのだ。

「うん。そういうことなら

いいよ。」

「わかった。」

二人ともすぐに俺の言葉に従って

くれた。

「な、なによ!」

エリーゼは、不満な顔で俺を見て

そう言うのだが、困って見える。

目の錯覚にもほどがある

あのエリーゼだぞ。

俺に心配なんてしない。

「いや、なんでもない。

それより、早く弁当を食べようぜ。」

この話は、終わりと区切りをつける

つもりだったが

久坂は、とんでもないことを言う。

「スゴい話で驚いたよ。

つい、わたし達は

由利くんが幼女に声を描ける

ロリコン呼ばれる危ない人だと

思っていたから。」

・・・・・ほう。

失言だと気づいた久坂。

だがもう遅い。

言い終わってから、気づくなんて

抜けている。

「・・・つまりお前たちは、

俺がロリコンだと疑って

こんなに質問してきたわけか。」

「だ、だって由利くんあの子に

恐いくらい爽やかに笑っていたし。」

「普通に爽やかに笑うことだって

誰だってするだろ。」

「気になったのだけど、

あなたは、いつもさん付けするし、

生粋のロリコンだと。」

エリーゼは、半眼でそんなことを

言った。

本当に疑っていたのか!?

「だから、ロリコンじゃないー!!?」

それから予鈴が鳴るまで質問攻めされ

結局、二人はろくに弁当を食べれず

俺はあんパンと牛乳を急ぎ口に入れて

教室に戻る。


「・・・。」

屋上の入口の上に身を隠し

3人がいなくなると

ジャンプして着地して入口を睨むように

見る男。

「あの方の下知で諜報活動していたが

・・・凄絶なる過去メモリー

穿つほどだったな。」

男は独白する。

「俺の闇の力を持ってしても

見えない。

光も闇も・・・不可視の秘技を

使うことになりそうだな。」

男はそう言うと静かにドアノブを

開き入っていくのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る