放置プレイ

 すでに野菜室は収容量の限界を迎えているというのに、ネコおばさんが桃をくれるというので、会社帰りに寄りました。


 ネコおばさんのマンションは、ウチのマンションから見える距離くらいご近所さんです。なにやらネコおばさんの友達が、仁木町で果樹園を営んでいるそうで、春はさくらんぼ、秋にはプルーンやら今回の桃やら、たくさん分けていただけます。

 でもね、桃を分けてくれるって言えば、ウチは夫婦2人暮らしですから、せいぜい2~3個もあれば十分なんですが、その数・・・9個(笑)。さすがに一気に食べきれる量ではありません。

 果実と言えば、ウチの野菜室をかなりのスペースで占拠している、小玉西瓜が2個もあり、いうほど西瓜好きでは無い夫婦はどうしようかと。そこに桃が9個ですよ?


 義父ちゃんには悪いけど、西瓜と桃どっちが好きかと言えば、当然桃に軍配が上がりますが、ここは昭和生まれの勿体ないお化け信者、食べれるものを捨てるなんてことは出来ない性分です。

 となると、さっそく野菜を調理していかなければならないのですが、収納物を再確認したところ、西瓜の次に場所をとっていたのがナスでした。


『これは・・・ナスをなんとかせねばなるまい・・・』

『うん、腐らせたら勿体ないもんね』

『また、味噌炒めでも作る?』

『うーん、味噌味はこの前のイカのピリ辛炒めで食べたから、普通に醤油味の炒め物が良いな』

『それなら、半分は揚げびたしにして、半分は醤油炒めにしよう』


 食後、さっそく調理開始。まずはせっせとナスを切っていきます。


『揚げびたしに合わせるのはピーマンとシシトウ、どっちがいい?』

『シシトウが良いな』

『了解、でもタッパーが足りないから、冷蔵庫で茹でささみを入れてる容器を別のに移して洗っておいてくれる?』


 在庫のナスは、20cm超の大物ばかり。せっせと切っては水にさらしますが、あっという間に大きなザルに山盛り。

 とりあえず漬け汁作ってナスを多めのゴマ油で炒めます。最初はプライパンの中も山盛りでしたが、火が通るにつれ少し嵩が減っていきます。

 1回目のナスが炒め終わったので、タッパーに移すと


『あれ?ナスだけでタッパーでいっぱいになっちゃったよ』

『シシトウかなり量があるけど、こっちはシシトウだけでいっぱいになりそうだね』

『うむ、もう1つ大きなタッパーがあればナスも追加できるんだけど、揚げびたしはここまでだね』


 タッパーに移した後は粗熱を取るため移動させておき、次はナスの醤油炒め用のナスを、また黙々と切っていきます。一通り切り終わり


『あれ?これピーマン入れれないかも?』

『ほんとだね、でもピーマンなしでも良いよ』

『味は、麺つゆ、醤油、ポン酢とありますが、どうしましょうか?』

『ポン酢は合うかなぁ?』

『うん、熱で酸味が結構飛ぶから、食べやすくなると思うよ』

『それなら今日はポン酢にしよう』


 で再びナスをゴマ油で炒めていきます。

 北海道は残暑と言うか、日中30℃近くまで気温が上がりますが、流石に日が落ちると20℃前半くらいになるので、窓から入る風のお陰でガス台の前に立っているのも苦痛ではなくなってきました。

 ナスを炒めてると、妻がウチで一番大きなアルマイト鍋に水を入れ、隣のコンロに置きました。


『あれ?枝豆茹でるの?』

『枝豆は袋に入れて冷蔵室にあるから良いんだけど、とうきびが9本もあるんだよ』

『そりゃ早く茹でないとだね』


 妻はコンロの火をつけると、洗面所の方へ行きました。洗濯物でも畳んでるのかな?

 ナスがしんなりしてきたところで、味ぽんマイルドを掛け入れます。しばらく人入れ酸味を飛ばして完成です。

 で、となりのアルマイト鍋の水も沸騰したようです。


 ・・・えっと、沸騰してるんですが(汗)


 リビングの床には新聞が敷かれ、そこに皮を剥かれたとうきびが転がっています。

 

 もしかして・・・


 廊下を見ると、妻のスリッパが寝室の前に・・・嫌な予感。確認しに行くと照明を付けっぱなしで、ベッドで熟睡してました(笑)。


 妻の数少ない料理である(料理と言えるかは不明)ゆでとうきび、この責任を放置して爆睡ですよ。さらに鍋を火にかけたままとか・・・まぁキッチンには僕が居るんで良いんですが、そうと疲れてるみたいなので、とうきびも僕が茹でることに。

 枝豆ととうきび茹では妻の担当なので、僕はいまいち塩加減と茹で時間が分かりません。とりあえず塩を


『こりゃしょっぱいかな?』


 と思うくらい大量に鍋に入れ、9本中3本を事前に半分に折っておきます。いくら大きな鍋とはいえ、完全体9本は鍋に納まらないので。

 とりあえずタイマーは6分にセットして、とうきびをジャンジャン鍋に放り込みます。

 タイマが鳴ったら火を止めザルにあげるのですが、これが鍋に対して一番大きなザルでも小さいので、お湯ごとザバッとあけることができず、箸でつまんでザルに移していきます。まぁ半分に折ったものは、それなりに箸で摘まめるんですが、完全体だと超握力が必要で、油断すると熱々のお湯に落下して、別の意味で大惨事に(汗)。

 何とか全員引き上げ、ほっかほかの湯気を上げてるうちにラップで包んで行きます。

 これ茹でとうきびを保存する際に最も重要な処置になります。鍋からあげて熱が取れるまで放置してからラップすると、皮が固くなったりシワが寄ったりで、結果美味しくなくなります。

 水分を逃がさないように、熱々の状態でラップしてから熱を取ると、冷蔵庫で冷やしてもプリップリの歯ごたえが楽しめるのです。

 この作業が、猫手の僕には一番難航する部分、熱々のお茶碗も持てない人なので、もう一人で


『あっち!あっち!』


 言いながらなんとか全てをラップ出来ました。粗熱が取れるまで、先日茹でたとうきびを冷蔵庫から出し、食後のデザートとして食べながら動画を見たり。

 寝る前に粗熱が取れたとうきびを冷蔵庫に格納し、明日のお米の準備はと炊飯器を見ると、なぜかお米は研がれてました(笑)。

 炊飯器の場所を移動させて予約状態にし、あとは歯を磨いて寝ました。


 朝方、まだアラームが鳴る前、たっぷり睡眠をとった妻が、慌ててベッドから飛び出していきました。いや、つい寝てしまったんだと思うけど、まさが鍋の火も止めずに寝る訳ないし、流石に朝ご飯の準備くらいはしますよ。

 朝起きてから聞いたら


『とうきびの皮を剥いて、そのまま寝ちゃったから慌てて確認しに行ったんだよ』

『ま、僕だって皮を剥いたとうきびをそのまま放置して寝たりはしないよ』

『全部茹でてくれたんだね』

『そりゃ、鍋を火に掛けたままだったしね。でも塩加減は食べてみないと分からないよ?』


 出かける前の火の始末や、鍵の掛け忘れチェックが慎重な妻が、とうきび茹で準備で寝てしまうとは、きっと仕事で疲れてたんでしょうね(笑)。

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