思いがけないもの

 いつものように両親のデイケアという名の、小屋へ連れて行って畑弄りの帰りに、貰ってきたものが意外なものでした。


『今日はどんなレクリエーションだったの?』

『種芋買ったくらいかなぁ』

『それだけ?』

『うん、それだけ(笑)』

『まぁ畑は連休明けくらいからが丁度良いしね』

『あっ!そうだ、カレー貰ってきたんだった』

『カレーってレトルトとかの?』

『違う違う!カレーじゃなくてカレイだよ』

『へっ?カレイ?』

『うん、5枚くらい入ってたから、2枚持って帰れって父ちゃんが』


 見るとまぎれもない生の黒ガレイでした(笑)。しかも頭付いたままのやつ。


『これって・・・』

『父ちゃんが買ったんだよ』

『いや、そこじゃなく、義父ちゃんカレイ煮るの出来るの?』

『しらなーい。買うんだから出来るんじゃない?』


 こういう娘である。義父ちゃん泣くなよ、まぁ知ってるとは思うけど(笑)。

 それよりも驚きなのは、あの義父ちゃんが魚の煮付けを作るということ・・・。

 僕と妻の父親、母親同士は偶然同い年、なのでその関係性はかなり似てるところがあって、良くも悪くも亭主関白なところがあるのです。

 ですから、妻が結婚当初目指した(けど無理だった)、旦那を台所に入れない昭和初期の女性感覚があり、旦那は仕事に一生懸命で家のことは任せてるみたいな感じ。

 まぁ漬物に関してだけは義父ちゃんと義母ちゃんの競い合いがあるけど、義父が率先して台所に立つ姿は見たことはありませんでした。

 それでも義母ちゃんの認知症が進んで、義父ちゃんが付くらざるを得ない状況になってることは良く知ってますが、魚の煮付けまでするとは・・・。

 しかも、頭付きの生魚ですよ?どうせならお店の人に頼んで、頭と内臓でも出してもらえば良いものを・・・。ま、カレイの内臓なんてたいした量じゃないし、普通の三徳包丁でも頭は落とせますが、あの父ちゃんがねぇ(汗)。


 さて、予定外に手に入った黒ガレイですが、なんせ生魚を保冷なしで持って帰ってきてるので、いまさら冷蔵保管は危ないと思い、さっそく調理してしまうことにしました。

 幸い半分にした生姜は冷凍保存してるので材料は足りてますし、こういうのはさっさと調理してしまうに限ります。

 頭を落として内臓を出して、三角コーナーに・・・と思ったけど、きっと三角コーナーに魚の内臓と頭が入っていると、ごみ袋に移すときに妻の悲鳴が聞こえてくるので、事前にごみ袋に入れて口を閉じときました。

 持ち手がグラグラしてきて早く買い換えたい雪平なべに、身を半分に切ったカレイの身を4つ放り込んで、いつものように二段仕込み(笑)。

 いつも粗熱を取った料理は、妻が容器に移して冷蔵庫に入れるのですが、ソファーで爆睡してたので、冷蔵庫に入れてこの日は終了。


 翌日の夕ご飯時、おなか減ったけど何食べよう?というので、カレイの煮付けあるよと。僕は前日食べ残したジンギスカンがあったので、そちらを食べることにして着席。すると


『あれ?このカレイ、頭付いてなかったっけ?』

『付いてたけど、当然落としたよ』

『そっか(笑)』

『それにしても、義父ちゃんが魚の煮付け作るのに台所に立ってる姿、想像できないな』

『自分で食べたかったんじゃないの?』

『いや、そうかも知れないけど、義母ちゃんに食べさせたいんじゃないのかな?』

『どうして?』

『歳とると、ほら僕が作るような昭和チックな惣菜だけでもご飯済んじゃうじゃん?』

『そうだね』

『でも歳をとったからこそ、タンパク質が必要なんだよ、筋肉落ちちゃうから』

『でも、肉は2人ともあまり食べないよ?』

『だから魚なんでしょ?』

『あっ、そうか』

『まぁ、タンパク質なら豆でも卵でも何でも良いけど、やっぱり色んなものを食べるのが良いからね』

『そうだね』

『また今度、サバを焼いて持って行ってあげなよ』

『うん、サバ焼くくらいなら私でも出来るしね(笑)』


 僕は若いころの一人暮らしの時から炊事してたので、今の状況は特別なものだとは思っていませんが、今まで家事を奥さんにしてもらってた人にとっては、きっととても大変なことだと思います。

 僕の場合だと逆に考えれば同じことです(笑)。


『もし、僕が義母ちゃんや、僕の母ちゃんみたいに認知症になって、ご飯作れなくなったらどうする?』

『それは、まずいね』

『義父ちゃんみたくご飯作れる?』

『無理だから、お兄さんを施設に入れて、私はサ高住に入るよ(笑)』


 サ高住に入れるお金があるかは別ですが、まぁこの辺が現実的な回答ですね(汗)。

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