野菜救出作戦

 ウチの畑で採れるものの最後の方は根菜類が多くなり、じゃが芋、大根、にんじんの他、南瓜かぼちゃなどが最終収穫物になります。炊事担当のエッセイですが、とある題材を書く前に、その経緯を書いときたいなと思い、今回はその様子を書いてみます。


 小屋を建てる前は、そこに妻の実家が建っていて、台所の床下にはむろがありました。ところで皆さんは「むろ」って分かりますかね?

 Wikipediaで調べてもらえば分かるかなと思って、自分で調べてみたんですが詳しいページは作られていなくて、「しつ」の説明の下の方に、「むろ」と読む概要のところに「保存・断熱・育成などの目的で作られた部屋」とあるだけで、なぜか「氷室ひむろ」(BOOWYじゃないよ)は詳細べーじがありました。

 妻の実家にあったむろは、台所の床に扉があって開けると床下なんですが、かなり古い(妻が生まれてすぐに建てられた)家だったので、いわゆるべた基礎じゃなく地面が直接見えるタイプで、家を解体するときに確認したら布基礎と塚基礎のミックスでした。

 要は床下が殆ど土なわけですが、その土をさらに掘って小型の冷蔵庫を横にしたくらいの大きさの穴があり、ネズミ防止の蓋が付いてる程度の保存庫のような物と思ってもらえればほぼ正解です。床下の土の中に作られたむろは、外気温がどんなに寒くても地中の温度はさほど変化が無いため、ほぼ一定の温度で保たれ、さらに土中からの水分なのか、乾燥することも無くみずみずしいまま野菜が保存できるのです。


 小屋を建ててから5年ほど経ちますが、この根菜類や南瓜など保存はむろが無くなったため、小屋の中に蓋つきの発泡スチロールの容器置いて、その中に野菜を入れ、さらに毛布などを何枚も重ねて凍らないようにして何年か試してみましたが、結果はどれも正月明けには凍ってしまって、さらに真冬でも暖かい日はあるわけで、その暖機で解凍され、また凍って・・・を繰り返し、どんな保温をしたとしても痛んでしまうことが決定的になりました。

 でも、収穫物をすべて実家と我が家の冷蔵庫に入れれるわけもなく、今年も義父とうちゃんがせっせと例年より厳重に毛布を巻き付け、小屋の片隅に置いてありました。

 一応小屋とは言ってますが(登記上はなぜか事務所)、簡素な作りではあるものの、北海道ですから断熱材は全面かなり入っているのですが、なんせ人が常駐してるわけでも無く、冬の場合3週間以上も誰も行かない日もあるので、小屋の中の温度も最終的には外気温と同じくらいまで下がることになります。室内に設置した温度計の最高最低気温のメモリー機能では、少なくても小屋の中は氷点下になります(笑)。


 当然妻もそのことを知ってるわけで、毎年少なからず凍ってしまい、勿体ないオバケ信者の年代ですから、なんとか野菜をダメにすることなく保存したいと思っていました。天気予報で数日後には大寒波が来て、最高気温が氷点下になる真冬日になると予報で聞いてからは


『小屋の野菜、ウチのマンションのベランダに置いたらどうだろう?』

『お兄さんの部屋は普段使ってなくてドアも閉めてるから、腐らないで保存できないかな?』

『地下のトランクルームに・・・』


 とにかく何とかしたい気持ちは伝わってくるのですが、昔の室のような環境は何一つないことを説明すると、もどかしそうにしてました。


 いよいよ今夜から冷え込みが激しくなると言われてる日の出勤途中の社内で


『今日帰りに小屋へ寄って野菜を取ってくる!』


 と言い出しました。

 どのみち痛むのなら、手元にあった方がマシという理論だと思われます。


 2人とも仕事を終え、まっすぐ小屋に向って着いたのが19時くらいで、小屋の中の気温は辛うじてプラス気温、スリッパが無いので少しすると足が寒さでジンジンするくらいの温度。正確には0.5℃(笑)。

 とりあえずどのくらい野菜が有るかを確認するために、毛布や布団でグルグル巻きにされた発泡スチロールの容器を開けて確認。

 小屋になってから毎年越冬に失敗していることもあってか、例年よりは少なめでしたが、南瓜、人参、じゃが芋で大きな容器3個分、そのうち2つの容器が南瓜でした。まぁ南瓜自体が丸いので、無駄なスペースが出来て嵩張ってるって感じですね。

 妻の作戦はこう、どこに置くかは後で考えるとして、すべての容器を自宅マンションに持って帰る!でした。

 それでも、何とか南瓜を入れ替えて容器2つにならないかパズルを始めて数分、僕は恐らく年末に正月飾りを付けに来るか、年が明けた1月もしくは2月に屋根の雪を下ろしに来るまで小屋には来ないので、冷蔵庫にジュースとかBBQで使った調味料とか無いか確認してました。


『ダメだ・・・』


 難解パズルに音を上げた妻が落胆の声を発したので、ちょっと確認しておきたいことが


『ねぇお姉さん、この冷蔵庫に入ってる飲み物(お茶とか缶コーヒーとかジュースとか)、この先春までに飲んだりする?』

『雪下ろしのときは汗かくから飲むくらいで、それ以外は飲まないと思う』

『確かに僕も喉渇くから飲み物は欲しいけど、それって小屋に来るときに買ってきても良くない?』

『そうだね、もし冷えてなくても雪下ろし中に雪の中に埋めといたら冷えるしね』

『ならさ、冷蔵庫に入ってるものって飲み物ばかりだから全部出して空にして、そこに入る分だけ南瓜入れたら?』

『えーでも、結局小屋の中は冷えるからダメじゃない?あっ!』

『ね?北海道の冷蔵庫は保温庫でもあるわけだから、凍り付きはしないと思うよ』

『そうか!その手があったか!』

『でも小さな冷蔵庫だから、全部は入らないけどね(笑)』


 妻はせっせと冷蔵庫の中身を出して、横に置いている食品用ストッカーに移していき、また南瓜パズルの始まりです。

 何とか発泡スチロールの容器1つ分の南瓜を冷蔵庫に詰め込むことに成功し、さらに地震などで勝手に扉が開かないようにテープで止めておきました。(実際に胆振中部地震では、この冷蔵庫も倒れて扉全開でした)


 最終的に南瓜が3つと入った容器と、あとはじゃが芋と人参が入った容器の2つになり、これを家に持って帰り・・・やっぱり僕の部屋に置かれることになりました。

 筋トレ道具は僕の部屋にあるので、筋トレ毎にこの容器を一時的に廊下に出す作業が増えました(笑)。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る