現場力 その2

 日曜日に会社の同僚(と言っても出先の会社の人)が、ざわざわ自宅がある近隣の市から、僕の住んでいる市の小学校の体育館を借りてバスケットボールをするというので、それなら途中にある小屋に寄ってもらって、食べきれない葡萄を持って行ってもらおうと言うことに。


 そんな段取りをしてたら


『猫のおじさん、小屋で焼肉食べたいです』


と言いやがる。


 時間的に同僚が小屋に来てから、やれ椅子だテーブルだタープだ炭だ火起こしだ・・・とやっていると、準備しているうちに体育館への移動時間が来てしまうので難しいかなぁ~なんて考えてたら、その同僚の向かい側に座る同僚の後輩の若い子(男の子ね)と目が合い


『君の住んでるとこって小屋から近かったよね?』

『はい!』

『それなら送り迎え付き、さらにウチで余ってるビールも持って行ってあげるから、手伝いに来ない?』

『ぜひ、行きたいです!』


 そんなわけで、準備は2人居れば何とかなりそうだったので、急きょ焼肉もすることになりました。参加者は同僚と同僚のお子さん(小2男子)、同僚の後輩君なので合計で大人3人お子さん1人の予定だったけど、土曜の夜に同僚からLINEがあり


『すいません、長女(中2)と二女(小6)も参加でお願いします(笑)』


 と・・・いや、良いんだけどさ、あんまりお子さん多くても、子供に慣れてないからこっちが緊張するな、などど・・・。


 当日、日曜の朝、おにぎりとかサンマとか焼肉のタレとかを買って、さらに途中に車にガソリンを入れ、さぁあとは後輩君の家に迎えに行って、お肉を買うだけだと走り始めたら後輩君からLINEが


『急ですいません、おじいちゃんの具合が良くないようなので、地元に戻ることになりました。申し訳ありませんが今日は行けなくなりました。』


 うん、そう言うこともあるさ、ウチも母親の病院からいつ電話来てもおかしくない状態だしね、うんうん、そういうことなら遠慮しないで地元に帰りなさい。



 さ て 、 こ ま っ た ぞ (笑)



 予定のお肉屋さんは小屋に行く途中にあり、お肉屋から小屋までは車で約15分、開店時間は10時である。本来ならそのお肉屋さんを通り越して、先に後輩君を迎えに行き、その足でお肉屋さんに戻ると丁度開店時間くらいで、お肉を入手して小屋に着くのが10時半くらい、そこから2人で用意すれば11時には焼肉の準備が出来てるだろうという予定。

 そして、LINEを貰ったのが9時ちょっとすぎで、途中のお肉屋さんの駐車場の着いたのが9時15分・・・


 ここで、先に小屋に行って準備をしてから、またここまで戻ってくると、お肉屋さんの開店時間を考えると、小屋を9時45分には出ないとならない。ということは、このまま小屋に向って準備するのに15分しかない計算になるわけで、どう考えてもどこかで時間をロスするはず。

 流石にテーブル・椅子・炭起こし、そして一番の問題は3m×3mとタープを1人で組み立てれるか?いや、15分じゃ絶対無理(笑)。

 しかも、天気予報は晴れなのに、今にも雨が降り出しそうな空模様で、なんなら車で悩んでるうちに小雨が降ってきましたよ?

 雨雲レーダーでは11時ころから快晴となっているけど、炭が完全に起きる前に放置して肉を買いに戻ってる間に、雨が降ってきたら試合終了・・・


 とりあえず状況を同僚にLINEする。


『・・・まぁこんな状況だし、天気もイマイチだから今日はキャンセルでもOKだよ?』


 既読になりません(笑)。


 このまま時間が過ぎても何の解決にもならないので、お肉屋さんではなく同じ敷地にあるイオン系のスーパーで、適当にお肉を買って小屋に向う決心をし買い物を済ます。この時点でここまでの顛末を妻にLINEで入れる。


 既読になりません(笑)。


 買うもの買ったし、とりあえず小屋に向おうと走り始めたら同僚から着信


『もしもし、LINE見た?とりあえず肉は買ったけど天気も怪しいんだよね。そっちの天気はどう?』(ハンズフリーです)

『こっちも悪くて、小雨振ってます』

『だろ?こっちも今にも降り出しそうなんだけど』

『でも、天気予報は晴れなんで、取りあえず向かってます』

『あぁ、そう・・・気を付けて来てね・・・』


 小屋に着いて、いっそいで準備を始めます。まず、コンテナと簡易トイレの鍵を開けて、小屋の中からタープを取り出しフレームを広げます。

 簡単とはいえ、本来なら大きさ的に1人で組み立てるのは結構大変なので助っ人を呼んだのですが、こうなったら文句言っても始まりません。

 フレームの四隅に移動しながら少しづつ広げて行き、何とか展開は出来たので、残るは天幕です。

 天気は良く無いものの風は余り無くて、天幕もなんとか設置完了、また四隅を回って今度は足を上してタープの完成です。


 屋根が出来たので、椅子やテーブルをコンテナから出して組み立ててると


バラ・・・バラ・・・バラバラバラ・・・


 とうとう小雨が降り出しました。でも屋根が出来てるので、グリルや炭を出してきて着火。今年は何だかんだで一度も小屋で炭を使ってなくて、およそ1年振りの炭起こしですが、まぁ体に染み込んでるので1発で着火出来ました。

 本来なら炭を一気に大きくするため、妻が昔使ってたクルクルドライヤーの本体部分が小屋に準備されているのですが、慌ててタープを立てたため位置的に電源が届かなかったので、自然に任せることになりましたが、まぁ何とかなるでしょう。


 やっとColemanのチェアーに腰を掛け、炭火の成長具合を見守るところまで来たので、一服していると妻からLINEでは無く電話が


『もしもし、大変だね?手伝いに行こうか?』

『いや、何とか準備出来て、いま一服出してるとこ』

『そう、それより天気悪くない?』

『うん、小雨振ってきた(笑)』

『こっちも降ってるから、まだ結構雨続くんじゃない?』

(ちなみに自宅の方が小屋の西側なので、雲の流れてくる方向です)

『向こう(同僚の住んでるところ)も雨降ってるってさ』

『そんな天気でもやるの?』

『うん、雨でもやる気みたいだよ』

『いや、準備までさせちゃったから引くに引けなくなっちゃってるんじゃない?子供もいるし寒いかも知れないから、今日はキャンセルしても良いって言ってあげた方が良いよ』

『それじゃ、もう1回LINEしてみるわ』


 当然だが夫婦なのだから妻にも子供が居ないのは当たり前なのに、この辺の気遣いというか配慮はいつも感心するばかり。

 さっそくLINEを入れてみる


『こっちも結構雨降ってきたし、雨降りなら葡萄狩りも出来ないし、お子さんたちも楽しく無いだろうから、今日は無理しなくて良いんだよ?』


 暫くして返信が


『いえ、子供たちが凄く楽しみにしてて、ここで中止にしたら逆に怒られるの行きます(笑)』


 まぁ、そちらが良いのなら断る理由は無いんだけどね・・・


 そうこうしてるうちに同僚が到着、車から元気なお子さんたちがワァーって降りてくる。雨は相変わらず降っているので、雨が掛からないようにタープ下の椅子に座ってもらう。


『天気イマイチになっちゃったね?』

『大丈夫です!このくらいだったら全然問題無いです』

『お父さんは良いとして、君たちは寒くないかい?』

『全然大丈夫でーす!』


 子供って元気な生き物だと再認識しますね(笑)。

 ギリギリ炭も起きたし、準備は全て終わっているのであとは肉を焼くだけですが、ここからは同僚にやってもらいました。肉焼くだけですけど。


 お肉を焼き始めてから30分くらいすると、雲が薄くなり雨もやみ、あっという間に青空が広がってきました。

 子供たちもひとしきり食べてお腹いっぱいになったようなので、とうきびを3本もいできて半分に折って、すぐにお湯を沸かして茹でて食べさせると


『甘くて美味しい!』

『うまーい!』

『こんなの初めて食べた~』


 まぁ収穫から15分後には食べてるわけですから、自宅で作って無ければこの時間的なものは真似出来ないでしょうね。でも、とうきびは自分で作ったわけではないので、アライグマと戦いながら作り上げた義父ちゃんに聞かせてあげたい言葉ですね。


 とうきびを食べ終え、いよいよ最後の葡萄狩り。

 房を切る前に、自分で食べてみて美味しいのだけ選んで小さめの段ボール2つ分山盛りをお持ち帰りいただきました。


 夏草や兵どもが夢の跡


 さっきまで賑やかだった小屋も、いまや鈴虫の鳴き声が包み、秋晴れとなった空の下、1人椅子に腰かけ残った炭が燃えて行くのをボーっと見て久しぶりの小屋焼肉の余韻に浸っていました(笑)。

 

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