キュウリの手づかみ

 前回の思いでの味を書いていて、ふと思い出したのが子供のころ手づかみして獲ったキュウリ。

 キュウリなんて手で掴むに決まってるでしょ?って思いますよね。

 このキュウリ、野菜のキュウリではなく魚の”キュウリウオ”のことです。たぶん、北海道の人でも、それほど知っている人は居ないかもしれませんね。似てる魚としては、チカとか似てると思います。

 この魚、日本では北海道にしかいないそうで、いるのはオホーツク海と太平洋らしいです。

 たまーに、ほんと極稀に、スーパーの鮮魚コーナーで売られているのを見たことはありますが、普通の人は見たことも聞いたことも無い魚ですから、あまり売れているのを見たことがありません。1パック5尾くらい入って100円程度で、安すぎて怖いというのもあるのかもしれませんが(笑)。


 なぜ僕が、このキュウリのことを知っているかというと、このキュウリウオの産卵は、鮭と同じで海から川を遡上して産卵するのですが、内浦湾(噴火湾)で遡上する川は限られていて、国縫~八雲の間の川だけらしいく、国縫に近い長万部に親戚が居たことと、遡上の時期が4月下旬から5月上旬なので、ちょうどゴールデンウィークということで、泊りがけで遊びに行って、ついでにキュウリ獲りにも行ってたからです。ん~、恐らく幼稚園~小学4年生くらいまで、毎年行ってた記憶が残ってます。


 産卵のための遡上は夜(暗い間)で、しかも満潮の時間に合わせて遡上が始まります。毎年ゴールデンウォークということもあり、決まって朝方まだ暗いうちに行ってた記憶が。

 このキュウリ、ちょっと変わってて、うろこが無いんですよ(記憶が正しければ)。一般的な魚のようにヌルヌルすることもなく、素手で握ってもギュッと滑らず握れて、子供でも獲まえやすいのですが、とはいえ未明の川ですから、やはり子供だった僕は水に入れず。

 でも心配ありません、なぜなら当時はさほど幅が無い川の水が、すべてキュウリで埋め尽くされるくらい遡上するので、当然勢い余って河原に打ちあがるキュウリもたくさん居て、子供だった僕はそれをせっせと拾い集めてました。


 さてこのキュウリ、なぜこんな名前が付いているかというと、匂いがキュウリそっくりだからです。それも生きてるときより死んでからの方が、その独特の匂いが増します。

 当時、キュウリが採れる川を跨ぐ国道5号線は、今と違い夜中は殆ど車の通りが無いのですが、たまにパック旅行の夜行バスなどが走ってると、大勢の人たちが川のそばに車を停め河原で大騒ぎしてるものですから、何事かと思った運転手さんがバスを停め、ついでにお客さんも降りてくることがありました。

 事故ではなく皆魚を獲ってることが分かると、手持ちのビニール袋にキュウリを詰めバスに戻っていくのですが・・・そのあとのバスの車内のことは子供だった僕にも想像できました。ご愁傷様です。


 朝というか夜中に起きて、子供ながらに大人の祭りに参加したような感じで、ちょっと興奮して帰ってくると、さっそく獲れたキュウリを塩焼きで食べるのが毎年恒例のでした。

 自分で獲った魚であることと新鮮であることで、当時はそれなりに美味しく感じましたが、冷静に見るとスーパーでの販売価格が物語っていますね(笑)。

 白身で淡白ですが小骨も多く、あまり人気が無いのも頷けます。


 その親戚の家では、大きな漬け物用の容器2つくらいはキュウリを獲ってるくるのですが、そのキュウリは昆布巻きの中身になるそうで、保存食として当時は重宝されてたようです(僕は食べたことが無いですが)。

 ネットの情報でですが、あれから50年近く経ちましたが、キュウリは今も遡上しているみたいで、昔と違いテントを張りキャンプしながら遡上の様子を見る人が増えてるようです。きっと食用に獲る人はもう少ないものと思われます。


 もし、ゴールデンウィーク期間に北海道道南地区へ遊びに来られる方は、時間が合えばキュウリの遡上を見てみるのはいかがでしょう?なかなか食べられる魚の遡上は見ることが出来ないと思うので、いい経験になると思いますよ。


 ちなみに、スーパーでキュウリを見かけたとき、妻に食べてみるか聞いたことがあります。


『おー!懐かしい!キュウリなんて売ってることあるんだ』

『なに?その魚?』

『キュウリウオっていって、昔は毎年自分で獲って食べたんだよ』

『そんな魚いるんだ』

『白身だけど少し小骨が多くて、生の状態だと野菜のキュウリと同じ匂いがするんだよ』

『へ~』

『食べてみる?』


 口角が下がり、眉毛がハの字になった顔を見て、妻の気持ちは察しました(笑)

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