その日は、ある日は突然に
結婚して3年目。
妻が一目ぼれをして購入した、新築の分譲マンションに引っ越ししました。
まぁ色々事情があり、子供を作れないのをキチンとプロポーズする前に本人から聞いていたので、基本2人で暮らして行く場所なんですが、4LDK、35年ローン、大きな買い物でした。
新築祝いが終わり数日たった日曜日のお昼ころ、妻がいきなりこう言ってきた。
「何か食べたいものある?」
きっと僕の目は、あまりの驚きから相当大きく見開かれていたと思います。
理由は分かりませんが、念願のマンション購入で、きっと超ご機嫌だったんでしょう。
それまで何を作るかは、ずっと妻が決めてきて、あの事件以来僕は手伝う感じ。
主に、”焼くか炒めるか”だけでしたが。
(せっかく妻が初めて何を作るかという権利を自分に託したわけだし、ここで遠慮して「カレーでいいよ」とか気を回しすぎると、かえって険悪なムードになりかねないんで)
「うーん、それじゃ、ほら、俺って港町育ちで魚が好きなんだけど、何か煮魚・・・ホッケでもカレイでも何でも良いから、魚の煮つけが食べたいな」
「魚かぁ・・・」
妻が一瞬眉間にシワを寄せたのを見逃しませんでしたが、それでもかなり機嫌が良かったのか
「うん、やってみる!」
これはもう明らかに、妻に経験の無いことだと、表情と言葉から察したが、僕は気がつかない振りをしました。
新品に近い料理本をめくり、どうやらカレイの煮つけを”作ってみる”ようでした。
本人がやる気を出しているのに、あまり手を出すと機嫌を損ねそうだったので、テレビを見ながら”ソレ”が完成するのを待っていました。
完成間際、リビングに漂う匂いは、まぎれも無く煮魚の匂いだったので、僕は久しぶりの煮魚にワクテカしてたのは言うまでもありません。
「できたよー」
テーブルの上に並んでいる、”自称”カレイの煮つけは、まさに料理本の調理例の写真のような出来栄えでした。
「いただきまーす!」
カレイの煮つけに箸を伸ばす。
身をほぐそうと箸を入れるのだが、煮魚にあるまじき弾力、というか固い・・・
何とか身を外し、さっそく口に運ぶ。
!!!
(しょっぱ!そして、なんでこんなに固い!?)
いや、当然口には出しませんでしたけどね。
生まれて初めて作ったであろうカレイの煮つけを食べる旦那を、じっと見つめる妻の視線。
極力露骨に表情を変えず、モグモグしながらも、何がどうなっているのかを解き明かすため、冷静にカレイを観察しました。
煮汁がしょっぱいわけじゃない・・・ということは、、、、カレイ?
いや、この煮つけられたカレイの見た目は、至って普通に見えるけど?
「おや?」
僕は気を付けないと見落としそうな、ほんの小さな異変に気がつき、思わず声が出てしまった。
「どう?美味しくない?」
不安でいっぱいな表情で聞いてくる妻に、さっき口に入れたのをまだモグモグしながら、にこやかにこう聞いてみた。
「えっと、このカレイの尻尾の辺りに小さな穴が開いてるけど、これって”一夜干し”って書いてなかった?」
「えっ?わかんない。頭が付いてないカレイはそれしかなかったから・・・」
「うん、普通は干した魚は煮つけには”あまり”向いてないんだよねぇ」
「・・・・」
僕は努めて明るい表情でこう切り出した。
「ねぇ、俺は料理するの嫌いじゃないし、一人暮らしも長かったから、これからは料理担当するから、その代わり他のこと、ほら洗濯とか掃除とか苦手だから、そう言う風に担当分けない?」
「お願いします!」
という訳で、今に至ります。
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