第3話 呪いの謎解き(3)
「海くん、あなたは犯人ではないのにどうしてそんなことがわかるの?」
希美が不審がるのも無理はない。犯人でしか知り得ない情報を海が断定してみせるので、誰しもが薄気味悪く感じ始めていた。二十年前の出来事だから、まだ生まれてもいない海が犯人であるはずはないのだが。
「美術室の石膏像が動いたから、わかったんです、白石先生」
「なんの話だ?」
素っ頓狂な声をあげたのは安達だった。
「学園に伝わる美術室の動く石膏像の怪談です」
「まーた怪談か」
安達は部屋中に響き渡るほどの舌打ちをした。
「美術室の動く石膏像の怪談、市川先生はご存知ですよね」
彫刻刀を手に戻ってきたばかりの市川に海が尋ねた。話ののみこめない市川は肩で息をしながらきょとんとしていた。
「動く石膏像の怪談? ああ、そんな話があるねえ」
「二十年前、石膏像は本当に動いたんです。その話は?」
「そう言われてみれば、生徒たちがそんな話をしていたかな? 僕が学園に赴任してくる少し前の話らしいね。前任の先生が急死されたとかで僕が学園に来たばかりの頃に、美術室の石膏像が動き回ったなんて話を生徒たちがしていたっけか」
「その二十年前の出来事がもとで、美術室の動く石膏像の怪談が出来たんです」
「怪談の正体なんてそんなものだろうね」
市川から手渡された彫刻刀を使って安達は石膏を割り始めた。
カツンカツン――刃が石膏を削る音があたりに響きわたる。石膏の欠片がまるで雪のように静かに舞い散っている。
「海、美術室の動く石膏像の怪談と、死体が石膏で固められたこととどんな関係があるんだ」
全員が石膏像に集中する中、陸が話をむしかえした。
「石膏像が動くわけはない。にもかかわらず、動いたと主張した生徒がいたということは、石膏像は実際に動いたんだ。ただし、自分勝手にではなく、誰かが動かしたということだけど」
「誰かが美術室に入った――石膏を盗むために」
「そういうことだ、陸」
その瞬間だった。石膏の塊が落ちたけたたましい音とともに、ひっという叫び声があがった。「考える人」の手のあたり、石膏が大きく欠け落ちた部分に細長いものが見えていた。周囲の石膏とは明らかに質感の異なる白さ、指の骨だ。
八角の間に戻るなり、安達はケータイを取り出した。死体が発見されたので応援を呼んでいるのだろう。
「海くん、海くんの言った通り、開かずの間に死体があったわ。死体が石膏で固められていることも知っていた。ねえ、正直に言ってちょうだい。あなたは犯人から死体のある場所を聞いたのじゃないの?――犯人を知っているのじゃないの?」
希美は探るような視線を海にむけていた。希美だけではない、ケータイで話をしている安達以外の全員が海に注目していた。
「犯人から聞いたわけではありません。聞きたくても、僕が笹木弘明くんの事件のことを知った時、犯人はすでに亡くなっていましたから」
「亡くなっていたって……でも誰が犯人なのかは知っているのよね?」
「はい、白石先生。笹木弘明くんを殺したのは津田沼校長です」
えっと声をあげて驚いたのは空と陸だけで、むしろ二人が驚いたことには富岡や希美たち、奈穂や幸子たちは大して驚いていなかった。
「なぜ、津田沼校長はその生徒を手にかけたのかしら」
ひそめた眉根に、佳苗の校長に対する嫌悪感が見て取れた。
「笹木弘明くんは、見てはならないもの、津田沼校長が人を殺しているところを目撃したため、殺されたんです」
「何だって? まだ別に殺人事件があるのか?!」
ケータイを切ったばかりの安達が大声をあげた。
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