第4話 開かずの間(4)

「うわっ!」


 陸の悲鳴が響き渡った。しかし、それは陸ではなく、陸と同じ声の持ち主、海のあげた悲鳴だった。


 海は石を手に荒い息で立っていた。足元に歪んだ南京錠が転がっていた。


「空!」


 石を投げ出し、海は空を強く抱き留めた。


 ひ弱だとばかり思っていた海の腕はたくましく、空を驚かせた。


「海、どうして私たちがここにいるってわかったの?」


「空のスマホが地下倉庫の入り口のあった場所に落ちていた。それで、もしかしたら開かずの間の殺人が計画されているんじゃないかと思ったんだ。さ、急ごう。犯人が戻ってくるかもしれないから」


 再会を喜ぶ暇もなく、海は空を陸にたくし、先に立って歩き始めた。開かずの間を脱出できたとはいえ、そこはまだ暗闇に包まれた空間だった。


「海、一体、ここはどこ?」


 生きた心地を取り戻しつつあった空は逆に恐怖を感じはじめていた。


「まだ地下だ。しばらく行くと地上に出られる」


「海は出口を知ってるんだ?」


「ああ、そこからここまで来たから」


 懐中電灯の心もとない明かりを頼りに海は先を急いだ。闇は深い。今にも犯人がやってくるかもしれない恐怖が三人の足を速めていた。


 やがて、円形の広間のような場所に行き当たった。その先に進むべき道はなかった。精神的、肉体的疲労とが重なって、空はその場にしゃがみこんでしまった。


「海、行きどまりだぜ」


 空の手前、冷静でいようとする陸だが、その声が震えていた。


「陸、これから僕が言うことをちゃんと聞いて、その通りにしてくれ」


 海は陸に向き直った。


「僕はこれから助けを呼んでくる。いいね、それまで二人とも、ここにいてくれ。何があっても、ここを動くんじゃない。いいな、陸」


 そう言うなり、海は来た道を引き返していこうとした。


「待って、海! そっちへいけば外へ出られるのなら、私たちも一緒に連れていって!」


 空の必死の形相に、海は悲し気に首を振った。


「空、いいから僕の言う通りにして。必ず助けを呼んで戻ってくるから」


「海!」


 不安気な空を残し、海は身を翻して暗闇に消えていった。


 それから助けがくるまでの時間は数時間もかかったように感じられた。実際には、地下倉庫に閉じ込められてから一時間と経っていなかったのに、まるで何日も地下に閉じ込められていたような疲労感があった。


 約束通り、海は佳苗や幸子、救急隊員を伴って空たちを助けに現れた。


 天井の暗闇が丸く切り取られ、外の世界の明かりが飛び込んできた瞬間、空はその場で泣き崩れてしまった。


 空と陸とがいたのは旧校舎の外れにある古い井戸の底だった。

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