第17話『終戦・未来へのパラダイムシフト』
横須賀にて、日本国、方舟、アメリカ合衆国、中華人民共和国による終戦調印式が行われていた。
紺色のテーブルクロスが敷かれた記帳台にて、ミュラと岸本が証書にサインし、秘書官が証書を交換する。
中国国家主席とジョーカー大統領にも証書が渡され、ふたりは署名する。
ここに、中国人民解放軍と日方米の終戦協定が締結されたのだった。
東京、首相官邸──
青色のカーテンをバックに、黒ファイルを携えた内閣官房長官が登壇し、国旗に一礼する。
彼の名は
爽やかで切れ味鋭い演説でその名を馳せる若手議員であり、内閣官房長官に抜擢された国民からの人気も高い政治家である。
岸本が調印式の最中であるため、代わりに大泉が会見することとなった。
進行官に促され、大泉は口を開く──
『日本国、アメリカ合衆国政府および方舟政府は先ほど、中華人民共和国政府と終戦協定を締結しました。総理からは防衛出動を解除する旨、防衛大臣に指示がありました。この後、臨時閣議にて補正予算案と異世界関連法案提出を閣議決定いたします』
ファイルを閉じ、大泉は進行官を見やる。
進行官が記者を指名した。
『NKHの宮津です。今後衆議院解散総選挙は行われるのでしょうか? もしも行われるとしたならばいつ頃となるのでしょうか?』
『総理からは全閣僚に対し、戦後処理を終えた後、すみやかに衆議院を解散する旨、指示がありました』
あっさりと答えた大泉に、記者らが驚く。
と、甲高い音と共に白字のテロップが映る。
【 NKHニュース速報:岸本首相衆議院解散の意向 】
* *
東京、市ヶ谷──防衛省。
ふたりの男が役目を終え、退任しようとしていた。
儀丈隊が銃を掲げ、
防衛省ロビーでは大勢の背広組、幹部自衛官がふたりを取り囲んでいた。
「……本当に行ってしまわれるんですね」
花束を携えた幹部のひとりが荒垣に声をかける。
「もう俺の役目は終わったよ。後を頼む」
荒垣は気丈に振る舞うが、やはりその目には涙が浮かぶ。
花束を渡しながら涙をこらえ、最後の礼をする幹部たち。
「「荒垣大臣! 東城海将! お疲れ様でした!」」
荒垣と東城は見事な答礼を返した。
ふたりは黒塗りのセダンに乗り込み、防衛省をあとにした……
* *
私室にてアリサが机に向かう。日記帳にペンを走らせる彼女……
ノックの音が鳴る。
「アリサちゃん。時間だよ」
ロストがドア越しに声をかけた。
「はーい」
軍楽隊によって盛大に国歌が演奏され、城壁のもとに集った臣民が歓声を上げる。
『ミュラ女王陛下! バシス大公殿下! ご入来!』
城壁に、深紅の軍服を身に纏ったミュラと、濃紺の軍服のバシスがマントを翻しながら姿を現した。
ミュラが幾千もの臣民を見渡し、口を開く──
『親愛なる方舟臣民諸君! ついに我々はカグツチ・デューゴスを退けることができた。私は知っている──この勝利は、皆の忠誠心と勇気の賜物であると!』
女王陛下万歳! と臣民が熱狂する。
『……今こそ私は『バシス・ドクトリン』の成功を宣言しよう! 天皇陛下をはじめ日本国の人々がもたらした太陽因子により、方舟の精霊魔法は復活しつつある! そして新たな政策──『ミュラ・ドクトリン』の開始を!』
傍らのアリサをミュラが平手で演台に促し、アリサが登壇する。
臣民はアリサの名を呼び、その様子を見守る……
……そよ風がカーテンを揺らす。
アリサの私室……机に置かれた日記帳には、このような言葉が綴られていた……
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……あの戦いから数週間が経った。
いまだにミュラたちは私をアリスと呼び間違える。
ミュラからは「精霊族になる?」と提案されたけど断った。
人生は限られているから面白いんだ。そう言うとミュラは「アリサらしい」と笑った。
私がこの世界で生きていられるのは、あと一〇〇年ぐらいだと言う。精霊族にとっては短いだろうけど、私にはとても長い。お爺様は六〇で亡くなったのだし。
これから何をしようか?
私の世界を広げてくれた方舟に、心からの感謝を送ります。
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