第16話『強襲・女王の決意と天皇の祈り』

 ──SH60Jヘリコプターが着陸態勢に入る。


 遼寧の艦内から数名の歩兵が飛び出し、小銃でヘリを銃撃する。

 機体が銃撃を受け、火花を散らす。

「敵兵の展開を確認──ドアガン! 敵兵を黙らせろ!」

 洋祐の命令で、ヘリのドアガン射手が機関銃を動かし、敵兵に照準──発砲した!


 敵兵が次々と七・六二ミリ機関銃でなぎ倒される。


 その隙を突き、ヘリは遼寧後部甲板に着陸した。


「……アリサはここにいる!」

 バシスが艦内図を指し示す。

「了解、第三甲板か……皆ついてこい!」

 身をかがめ、バシス、洋祐を先頭に隊員らが続く。

 先のやまとの砲撃で荒れ果てた甲板をあとに、突入隊は艦内に進入した……


     *    *


 火之神──カグツチ。それは望まれぬ神の誕生。

 イザナギにより弑逆されし過去……

「(こんなにも……こんなにも彼は……)」


 ……目を覚ましたアリサ。

 赤い輪で手足を縛られた彼女に、カグツチが歩み寄る。

「どうだ? アリサ、私に協力する気になったか?」


 アリサはうつむき……やがて口を開いた──


「……あなたの過去を、視てきた……」

 眉をぴくりと動かすカグツチ。

「とても……とても辛い思いをしてきたのね」

「……やめろ」

「私、気づいてあげられなかった」

「……やめろ!」

「私のことはどうしたっていい! だから、もうこんなことはやめて──」



 ──その時、光と共に人影が現れた。



 現れたのはミュラ、イナバ、ロストだ。

「……やっとここが特定できました」

 イナバが肩で息を切らしながら言った。

「貴様ら……」

「魔法を使えるのはお前だけじゃない」

 ロストが言い放つ。

 くっ、とカグツチは歯ぎしりした。


「アリサは先王陛下じゃない! ……確かに姿は陛下に似ているけれど……彼女は他の誰でもないんだ!」

「あらイナバいいこと言うじゃない」

 ミュラも一歩前に出る。

「私、『箱庭』が滅び『方舟』になってから、ずっとアリスに会いたいと思っていた……でも気づいたの。私は過去に囚われたままだって。アリスに会えないのは寂しいけど──私は今を生きたいから!」

「ミュラ……」


 アリサを縛る光の輪にノイズが走る。その隙をミュラは逃さなかった。

 ──剣の一撃をカグツチに浴びせる!


 光の輪は消え、ミュラは懐にアリサを抱えた。

「……だからアリサ……アリスになりたいなんてそんな悲しいこと、言わないでよ……」

「ミュラ……」

 ふたりは透明な涙を流し、抱きあった。


 ……カグツチは苦しみ、喘ぎながら立ち上がる。

「おのれ……」

 光の粒子から剣を造成し──カグツチはミュラに斬りかかる!

 彼女は短く呪文を唱え、剣で一撃を受け止める。

 と、次の瞬間──


 ──銃声が響いた!


「!?」

 カグツチが胸を押さえる……振り返ると、洋祐が銃口から硝煙の上がる拳銃を構え立っていた。

「……これまでだ。カグツチ」


 剣を構えたミュラとバシスが叫びながらカグツチに斬りかかる──


 ……カグツチは膝をつき、床に倒れた。


     *    *

 

 血を流し地に伏せるカグツチ。

 それを見るミュラ、バシス、アリサ、ロスト、イナバ、そして洋祐たち……

 ……それをカグツチは空中から視ていた。

 意識が薄れ、天へと導かれる……


「(いよいよ私も最後か……ここは……?)」


 辺りを見回すカグツチに、声をかける者がいた。

「(……カグツチよ)」

「(まさか、あなたは……ふっ……イザナギとイザナミの子孫であるあなたに導かれるとは)」

「(私の役目はただ祈ることでしかない……だからこそ、あなたの魂は、私が連れて行く……!)」


 

 天上の世界──高天ヶ原たかまがはらが見えていた……



 おーい、おーいと迎える声。

「……!」

 カグツチは涙した。


「(天津神よ……国津神よ。願わくば、彼に許しがあらんことを──)」



 …………………………



 古い神殿は年月を経て風格を増したように思える。

 ……白の装束を身に纏った天皇が階段を下りる。

「終わったのですか?」

 皇太子の問いに、天皇は頷いた。

「私の持てる力全てで、高天ヶ原に彼を送り届けました……」

 天皇は自身の手を見やる。

「もう私には天皇としての力は残っていません……だから……」


 皇太子は頷き、天皇と共に空を見上げた……



 ──西暦二〇二二年。

 この年は年号が改元された年だった──


     *    *


 夕陽に照らされ、漆黒の爆撃機が空を飛ぶ──


 米国空軍B2爆撃機、第五〇九爆撃航空団だ。

『ジョーカー大統領から攻撃許可は出ている。リョウネイを処分する』

『──ファイア……レディ、ナウ!』

 機体爆弾倉から爆弾がドロップアウトし、空母遼寧に吸い込まれる……

『……安らかに眠れ』


 爆炎が天を焦がした。



 ……護衛艦やまと甲板にて、その光景を眺めるふたり。

「終わったな」

 美咲を左腕で抱き寄せ、洋祐は呟いた。

「長かった、ね」

 海面がオレンジ色に光り、ふたりを包み込む……

 空のコントラストの美しさに美咲は見いっていた。

「美咲」

「ん?」



「──結婚、してほしい」


 

 一瞬、繋いだ手が緩み……再び美咲は手を握った。


「……ばか」


 夕陽はいつまでも輝いていた……


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