第五章【決戦篇】

第15話『内閣総理大臣緊急記者会見』

 東京、首相官邸──


 真紅のカーテンが引かれた舞台に、机が置かれ、マイクがセットされる。

 内閣総理大臣緊急記者会見の時間が迫っていた。

 マスコミ各社、記者らは岸本きしもと内閣総理大臣の登場を今か今かと待ち構えていた。

 

 内閣官房長官、副長官が舞台袖に着席する。

 そして岸本が登壇し、国旗に一礼。ざわめく記者らを進行官が制し、開会を告げる。


「ただいまより、内閣総理大臣による緊急記者会見を始めます。冒頭、総理より発言がございます。質疑応答はその後となりますのでよろしくお願いします──それでは総理、よろしくお願いいたします」


 岸本が頷き、口を開く──


「……国民の皆様がご存知のように、我々は安全保障上の重大な危機に直面しています。かつて異世界方舟を滅ぼした神デューゴスにカグツチが憑依し、中国人民解放軍を掌握。日本国と方舟に武力攻撃を行っています──」


 記者らが岸本の一挙手一投足に固唾を呑み、聞き逃すまいとパソコンに原稿を打ち込む。


「──しかしながら、私はこの場で国民の皆様に申し上げたい! 方舟と自衛隊が団結し、共同作戦を開始しています。そして内閣官房参与、西村美咲にしむらみさき氏が、まさに戦場の歌姫として、精霊魔法の効力を高めるべく命懸けで歌っています」


 首相の熱弁に呑まれはじめる記者たち。

 岸本は続ける──


「我が国はこれまで、幾度となく滅亡の危機に直面してきました。数え切れない犠牲者を出した、二度に渡る世界大戦。テロリズム。阪神淡路大震災、東京湾巨大生物上陸災害をはじめとするあまたの危機。しかし、そのたびに我が国は立ち向かい、試練を乗り越えてきたのです! 危機に立ち向かう国民の絆、向上心、一歩一歩築かれた科学の進歩、戦争までもを糧にして、今の私たちがあります。私たちはこれまで、多くの悲しみや苦しみを経てきました。しかし、それでも変わらずに心の中にあるものが私たちを振るい立たせ、困難に立ち向かう力を与えてきました。それは──『勇気』です!」


 岸本は会見場を見渡す。

 多くの者が握り拳を作っていた。

 涙を流す者もいた。


「……国民の皆様、この危機に立ち向かう有志を見守り、共に支えようではありませんか。方舟軍と自衛隊の幸運を祈ります──」


     *    *


 朝日を背に海原を進撃する日方連合艦隊。

 護衛艦やまとを前衛に、こんごう、あきづきが続き、陣形中心の護衛艦いずもとスマーケンを取り囲む。


 護衛艦やまと後甲板にて、SH60Jヘリコプターのブレードが高速回転する。離陸寸前だ。

 黒の戦闘服を身に纏った東城洋祐とうじょうようすけ三等海尉がバシスと作戦の最終確認を行っていた。彼は突入隊指揮官となる。

「ヘリはやまとを発艦したのち、超低空飛行、遠回りして空母遼寧に強襲します。その後、アリサが発する魔力をもとにバシス大公に案内していただき、彼女を奪還します」

「了解した。任せろ」

「はい。──全員ヘリに搭乗!」

 ブレードの回転数を上げ、ヘリコプターは発進した。


 こんごう艦内のFIC──旗艦戦闘指揮所に報告が入る。

『突入隊、発進しました!』

『敵空母より攻撃機さらに発進!』

「了解──いずもに第二次攻撃隊発艦を指示」

 司令鈴村が応じた。



 護衛艦いずもの艦内からプラットホームが上昇し、F35戦闘機を甲板に運ぶ。

 それを管制室から見届けた浅間一等空佐がリーダー機に呼びかける。

『航空団司令よりストライカー1へ! ストライカー隊は敵攻撃機の排除にあたれ』

『ストライカー1、了解』

 発艦許可を受け、ストライカー隊は飛びたつ──


     *    *


 ……雲海が眼下に広がる、高度数千メートルの高空。


 ──警報音と共にレーダー画面が光り、敵の来襲を告げる。


『敵機ミサイル発射! フレア発射! 回避──』

 F35が火の玉を吐く。熱で敵誘導兵器を惑わす装備、フレアだ。

 ミサイルがフレアに惹かれ、F35は機首を垂直に向け、高空へと急上昇し、回避する。

『──各機回避後、ミサイル発射!』

 F35は宙返りし、敵攻撃機──ジェンシー20を捕捉する。

『発射!』

 機体胴体から空対空ミサイルが放たれ、白煙を残し突っ走る。


 ──命中!


 空を残骸の煙が黒く汚し、破片が墜落していった……


     *    *


 空母遼寧に迂回して迫るSH60Jヘリコプターから旗艦こんごうに通信が入る。

『こんごう、こちら突入隊。バシス大公によれば、方舟要人は遼寧艦内奥深くに囚われている模様。敵空母兵装から応撃の可能性あり』

『こちらこんごう、了解。遼寧甲板上を掃討する』

 FICの鈴村がやまとに回線を繋ぐ。

『こんごうよりやまとへ! 敵空母艦橋および甲板をクラスター弾で掃討せよ』

『やまと、了解。射撃する──』


 護衛艦やまとの第一主砲塔が動き、砲身が起き上がる。

 クラスター弾が装填される。


『──撃ち方始め!』


 爆炎を吹く主砲。

 弾体が弧を描き、目標へと向かう。

 ──弾体が弾けた!

 無数の小型弾子が遼寧甲板に降り注ぐ……


 小型弾子は甲板上の艦載機、設備を破壊し、艦橋のマスト、窓ガラスを割る。


 ……遼寧の戦闘機能は完全に奪われた……



「今だ!強襲する」

 SH60ヘリが天空を駆け、空母遼寧に迫る。


 ──突入作戦が開始された!

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