第14話『空母航空団出撃・アリサを奪還せよ』

 日も暮れ、オレンジと紺のコントラストが空を彩る。夕陽に照らされ輝く海面を護衛艦『いずも』が進んでいた。


 甲板を慌ただしく整備員が行き交う。

 F35戦闘機が機首を振り、整備員の誘導で前輪を回し、発進位置につく。

 それを管制室から見届けた航空団司令、浅間一成一等空佐がヘッドセットを操作し、回線を繋ぐ。

『──団司令よりポリプテルスフライトへ! 本作戦の目的は方舟要人の奪還にある。吉報を待つ』

『ポリプテルス1、了解』


 F35機体中央のリフトファンが回転し、艦上の最低限の滑走距離で離陸するための揚力を稼ぐ。

 整備員が手を空に指し、F35はジャンプ台に向け滑走──発艦した。


 ──作戦の開始だ!


 ポリプテルスフライトはレーダー探知を防ぐため、海面上十数メートルと超低空飛行を維持し、空母遼寧に向け突っ走る。


 遼寧に迫ったところで、レーダー画面に反応が出る。

『ポリプテルス1より各機! 敵空母より迎撃隊が発艦した!』

 ポリプテルスフライトリーダー、早蕨さわらび三等空佐が告げる──


『オールウエポンズ・フリー! 各機交戦せよ!』


     *    *


 制空権を確保すべく、上空にて蝶舞蜂刺の空中戦が繰り広げられる。


 一方、自衛艦隊は海原を進撃していた。

『浅間団司令より連絡──『ポリプテルスフライト交戦を開始』』

 FIC──旗艦戦闘指揮所にて鈴村が命じる。

「対艦誘導弾! 目標敵駆逐艦!」

『ハープーン攻撃始め! 発射弾数五発!』

『ハープーン発射始め!』


 ミサイル発射筒の蓋を炎が破り、中から対艦ミサイル──ハープーンが発射!

 護衛艦やまと、こんごう、あきづきから発射されたハープーンは白煙を残し、夜空に舞い上がる。


『ハープーン発射、正常飛行』

 ミサイルを示すアイコンが目標へと進み……

 ──到達!

『ターゲットキル! 敵駆逐艦撃沈!』

『敵空母より、さらに艦載機発艦! 識別──ジェンシー20! 本艦隊への攻撃機の模様!』

「了解。護衛艦やまとに通信、『射程に入り次第レールガン攻撃を開始』──」


 艦隊はスマーケンを囲み、輪形陣となる。

 やまとの主砲ターレットが旋回する……第一主砲塔が左、続いて第二主砲塔が右を向く。


『主砲攻撃始め! 目標敵攻撃機、クラスター弾装填』

『撃ち方始め──』

 ヘッドセットを押さえ、砲術長たる洋祐が指示を下す。

 射撃レーダーが目標を捉えた。

『──撃てえっ!』


 雷鳴のような砲声が轟き、砲口が爆炎を吹いた!


 砲弾は超音速で飛翔し、敵編隊に突っ込む。

 弾体が炸裂し、無数の小型弾が弾けた。小型弾のシャワーが敵攻撃機、殲20を呑み込む。

 穴だらけになった機体は、燃料、弾薬に引火し、墜落した……


『ターゲットキル! 目標撃墜』

 船務士オペレーターが告げる。

『了解──本艦は引き続き、艦隊前衛でスマーケンを護衛する』

 長瀬が命じた。


     *    *


 方舟旗艦スマーケン──

 スポットライトが次々と点灯し、甲板を照らす。

 照らし出されたのは、華美な衣装に身を包んだ美咲の姿だった。

 音響機器が唸る。

 イントロの荘厳な旋律は、海と大地の恵みに感謝する讃美歌のようだ。

 方舟に伝わる精霊魔法の讃美歌を美咲がアレンジした曲だった。

 ドラムと弦楽器のテンポが弾け、美咲がマイクを持つ。

 美咲はバシスとのやり取りを思い出していた……

 

 ──カグツチの力を弱めるには、太陽因子を宿す歌で、アリサをこちらと共鳴させるしかない──


 演奏が中盤に差し掛かった、その時だった。

 かすかだが、美咲の耳に歌声が聞こえてきた。

「……もしかして……バシス大公!」

 美咲の呼びかけに、バシスは傍らの魔導士を見やる。魔導士は頷いた。

「ああ、アリサの歌声だ!」

 確信したバシスは船首へと歩み、仁王立ちになる。


「聞こえるかアリサ! 俺の声が! 彼女の歌が!」


 空母遼寧に向けバシスは叫んだ。

 魔導士が首を横に振る……

「駄目です殿下、もっと接近しなければ。カグツチの魔術には対抗できません」

 バシスは顔をしかめ、無線機をとる。自衛隊から操作方法を習ったものだ。

 護衛艦こんごう司令部に繋がる。

「鈴村司令、今、美咲殿の歌声がカグツチに拮抗し始めているが、奴に勝つには艦隊をもっと遼寧に接近させなければならない」

『わかっています。現在、護衛艦やまとから突入隊を組織、要人救出に向け準備しています』

「了解した。俺も同行しよう」

『大公、危険ですよ?』

「俺は精霊族だ。危険だと思えばすぐに魔法で離脱できる……それに、アリサをさらったカグツチをこの手で倒したいんだ」

 鈴村は笑みをこぼした。


「了解しました。──これよりアリサ救出作戦を開始する!」


 了解、と艦隊各艦が応じる。

 海原に波飛沫を上げ、各艦が機関を全開にする。


 日本・方舟連合艦隊が最大戦速で空母遼寧に向け進撃を開始した──

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