第四章【炎上篇】

第12話『日米電話会談・統合任務部隊編成』

 アメリカ合衆国──ワシントンDC。


 宵闇にヘッドライトの光が照る。

 青と赤のパトランプを光らせたパトカーが先導し、車列が交通規制の敷かれた市街地を走り抜ける。

 その中央の大型リムジン『ビースト』は「窓つきの戦車」と呼ばれる重装備の車両で、軍事大国の国家元首に与えられた権威の象徴である──


 ──その車内の人物こそ、アメリカ合衆国大統領『ロナルド・ジョーカー』だ。

 

 ジョーカーはスマートフォンで話す。

「プライムミニスター・キシモト。もう知っていると思うが、駆逐艦デューイが沈没した。攻撃は中国戦略ミサイル軍基地からだ。こちらの見立てでは中国人民解放軍一部勢力との予想だ」

 相手は日本国内閣総理大臣、岸本勇雄きしもといさおであった。

『その通りです。プレジデント・ジョーカー。国家安全保障会議と特事対でも同様の結論が出されました。……貴国は動くのですか?』

「わが軍に死傷者が出ている。すでにグアムにB2戦略爆撃機を待機させている……だがキシモト。連中は異世界の技術を取り込んでいる。対処はあなた方日本と異世界『方舟』に任せるしかない」

『わかりました。最善を尽くします』


     *    *


 岸本は荒垣防衛大臣に対し、陸海空自衛隊統合任務部隊の編成を指示した。

 それを受け、防衛省統合幕僚監部は東城宏一とうじょうこういち自衛艦隊司令官を指揮官とする統合任務部隊編成を決定した。


 統合任務部隊とは、単一の司令部のもとに陸海空自衛隊全戦力を結集し、統合運用する方式である。



 ……横須賀、海上自衛隊自衛艦隊司令部。


 会議室には陸、海、空の迷彩服を身に着けた幹部自衛官が並ぶ。彼らは陸海空自衛隊統合任務部隊司令部の中枢を成す幕僚たちだ。


 会議室の扉が開かれる。

「統合任務部隊指揮官、東城海将入られます」

 一同が一斉に起立し、敬礼する。

 東城も一同を見回し、答礼。制帽を机の上に置き、着席した。

 皆も席につく。

「情報官。敵の戦力規模を確認したい」

 東城が切り出す。

「空母『遼寧りょうねい』を含む中国海軍一個艦隊が日本海に展開。同時に、吉林省通化基地を始め複数の基地に動きがあります」

 防衛省情報本部から出向する幹部自衛官が答えた。

「護衛艦隊司令官、対応策はどうなっとる?」

 護衛艦隊とは、自衛艦隊の傘下部隊である。

「現在、護衛艦『やまと』ならびに第五護衛隊を派遣しております」

「指揮は鈴村一佐か……彼女ならうまくやってくれるだろう」

「東城司令官」

 護衛艦隊司令官が向き直る。

「……現場には敵空母艦隊が近づきつつあります。航空優勢を確保する意味で、護衛艦『いずも』を投入する許可を願います」


 ……護衛艦いずもは近年改装され、F35戦闘機を搭載する事実上の航空母艦として機能していた。

 いずもを拠点とする第九二航空団の司令は浅間一成あさまかずなり一等空佐であり、二〇一一年の巨大生物上陸にて日本を救った英雄として名を馳せていた……


「よかろう。直ちに手配を」

「はっ!」

「皆『海原の嵐作戦』に向け、陸海空の垣根を越え団結して対処してほしい」

 

 海原の嵐作戦──統合任務部隊指揮官・東城の命を受け、空母航空団をも巻き込む一大作戦が始まる──


     *    *


 米海軍駆逐艦の沈没の報は日本国政府から方舟当局にもたらされ、方舟は戦時体制に移行していた。

 女王ミュラに代わり、バシス大公は旗艦スマーケンに座乗し出撃準備を整えつつあった。



 一方、諜報尚書ちょうほうしょうしょイナバは、女王の命を受け、王立図書館にて資料収集にあたっていた。


 アリサが扉を開ける。

「ただいまイナバ」

「アリサ……何かあったのかい?」

「バシスと……ちょっとね」

 アリサは適当な席に座る。

 彼女をイナバは見やり、思い巡らした……


 方舟臣民であれば誰しも、アリサの前世──アリスが一命に変えてこの世界を守り抜いたことを知っている……そして前世の記憶に目覚めた彼女。

 己が己でなくなる感覚。

 彼女の心情は察するに余りある。


 イナバが声をかけようとした、その時──


 扉が勢いよく開かれた。

 現れたのは黒衣の兵団だ。

 イナバが怪しく思い、兵団に対峙する。

「何ですかあなた方……ここは王立図書館です。武具の類いは下ろしていただけますか?」

 すると、兵団の中央をかき分け、ひとりの老爺が現れた。その男は、誰が見まがえよう──


 ──デューゴスだった!


「ふむ……ここに来たのは何年ぶりだったか」

 デューゴスは顎に手をやり、感慨深そうに呟く。


 兵団が剣を構え、じりじりと近づいてくる。

 目的はアリサだと直感で分かり、危険を感じるイナバ。彼は文官であり戦闘向きではないからだ。

 それでも、彼女を守らねばならない。

 ──イナバは覚悟を決めた。

 アリサを抱き抱え、彼は跳び跳ねた!

 弧を描き、アリサは悲鳴をあげる。

「ちょ、イナバ!」

 弧は終わり──兵の頭にイナバの足が直撃する。兵の首はへし折れた。

「……アリサを渡すものか!」

 舌打ちするデューゴス。

「者ども、ぶちのめせ!」

 双方が身構えた、その時──


「──いいわ。乗ってあげる」


 アリサの宣言に双方が驚く。

「……で、どこに行けばいいの? 人さらいロリコンのデューゴスさん?」

 半ば挑発するような口調でアリサはたずねる。


 デューゴスは笑い、魔方陣を展開。禍々しい紅蓮の輪が彼、兵団、そしてアリサを包み込む。


「アリサ!」


 ……イナバの叫びも虚しく宙に消え、彼らは姿を消した……

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