第10話『参議院外交防衛委員会参考人招致』

 委員長がレジメをめくりつつ口を開く。

「それでは、参議院外交防衛委員会を開会します。本日は防衛出動の是非を議題とした集中審議となりますのでよろしくお願いします。……それでは通告順に質問を許します──佐川吉久君!」


【 自主憲政党 佐川さがわ 吉久よしひさ 】


 口髭をたくわえた初老の議員が起立すると同時に白字のテロップが表示された。与党議員であるので自主憲政党と公民党の席から拍手が送られる。


「自主憲政党の佐川吉久です。先日の弾道ミサイル攻撃に始まり、魔族軍の方舟侵攻……わが国と方舟を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。……そこで岸本総理に伺います。わが国の主権、国民の生命、財産、国土を守るため、政府としてどのような策を講じていくか、総理の決意をお聞かせください」


 佐川の質問を受け、委員長が岸本を指名した。

 襟を正し、彼はマイクの前に立つ。

 

【 内閣総理大臣 岸本きしもと 勇雄いさお 】 


「お答えします。えー、委員もご指摘のように、先日、中国軍事基地からの弾道ミサイル攻撃、そして他国軍の方舟侵攻が発生しました。詳細は特定秘密保護法により公開を差し控えますが、日方条約により異世界当局との連絡を密とし、共同で事態対処にあたることにより、わが国の安全を守り抜く所存です」

 

 岸本が自席に戻り、委員長に指された佐川が再び起立する。


「ありがとうございます。与党自主憲政党、公民党一丸となり政府に協力することを申し上げて、質疑を終わらせていただきます」


 拍手の中、佐川は一礼し、着席した。

 それを見届け、委員長が議事を進行する。


「……続きまして、西田君の質疑に移ります」


【 民衆党 西田にしだ 克行かつゆき 】


 手強い野党議員として知られる西田の登場。

 岸本たち閣僚、そして美咲は身構える。


 目をヘの字にして西田が質問に立つ。

「民衆党の西田克行です。さっそく荒垣防衛大臣にお聞きします。方舟にはどのような根拠で自衛隊を派遣したのでしょうか。また、なぜ事前に国会に報告をしなかったか。簡潔にお答えください」


 荒垣が挙手し、マイクの前に歩み出る。


【 防衛大臣 兼 内閣府特命担当大臣(異世界・特定事案対策統括) 荒垣あらがき たける 】


「……先般、方舟に対する武力攻撃が発生いたしました。弾道ミサイル攻撃ならびに魔族軍の攻撃が発生しましたから、国家安全保障会議にて武力攻撃事態対策本部の設置を決定。事態は急を要するため、国会の承認を事後に回し、防衛出動を閣議決定。海上自衛隊護衛艦を当該海域に派遣したものであります」 


 西田が薄ら笑いを浮かべ、挙手する。原稿を携えながら立ち上がった。

「これはですね! 国会への報告をおざなりにするとは、文民統制への重大な挑戦ですよ! ……それに、何ですか? 民間人である西村美咲氏を軍艦に乗せて歌わせたそうじゃないですか! これについて岸本総理と参考人西村氏の答弁を求めます!」

 唾を撒き散らしながら弁を振るう西田。


 きた、と美咲は息を呑んだ。


 岸本が挙手し、起立する。

「お答えいたします。西村美咲氏の歌声には精霊魔法を増幅させる効果が確認されましたから、内閣官房参与になっていただき、方舟の魔力を高めるべく動いていただいています」


 西田が腰に手を当て立ち上がる……

「西村さん! 本当にいいんですか!? 戦場の真ん中であんなパフォーマンスまがいのことして、あなた政府に利用されてるんじゃないですか?!」


 美咲が眉をひそめ、挙手した。

「委員長」

「参考人、西村美咲君」


【 内閣官房参与 西村にしむら 美咲みさき 】


「……西田議員。そのような言い方は心外です。確かに総理から要請を受けたのは事実ですが、歌うことを決定したのは私の意思です。『パフォーマンスまがい』などという議員のおっしゃりようは音楽に携わる者として許せません」


 ……西田が腕を組み、顎をかく。

「速記止めてください!」

 委員長が命じ、与野党の理事が委員長席の周りに集まり、協議を始めた……


 NKHアナウンサーが淡々と解説する。

『……現在西田克行議員の質問時間ですが、議事が中断しています』


 ……議事が再開する。


「──速記起こしてください。西田議員に申し上げます。質疑では品位のある言動を心がけるよう注意してください」 

「はい。しかしながら、政府の対応にも問題があることを申し上げ、本委員会での徹底した審議を行うことを委員長にお願いします」

「後日理事会で協議します」

「以上で私の質疑を終わります」


 まばらな拍手の中、西田の質疑は終わった。


「次に、立花康平君の質疑に移ります。立花君!」


【 日本改新党 立花たちばな 康平こうへい 】


「荒垣大臣、今回は本当にお疲れ様です。……荒垣大臣と私は、東京湾巨大生物上陸災害の時、総理大臣と官房長官をやった間柄でして、彼の責任感の強さは誰よりも私が知っています。まあ、あの時は民衆党政権幹部が国外逃亡して大変だったんですが──」


 民衆党議員席からヤジが巻き起こる。

 ……これが立花の持ち味で、民衆党はじめ野党に対し歯に衣着せぬ批判を繰り広げることでネットユーザーを中心に支持を集めていた……

 

 眼鏡を上げ下げしながら弁を振るう立花。

「──と、まあ、そういうことで、防衛出動に関しましても、西村さんの歌に関しましても、政府が最善を尽くした結果だと思います。日本改新党として政府に協力することを申し上げて、私の質疑とさせていただきます。ありがとうございました」


 ため息をもらし、椅子にもたれる美咲。

 政治の煩わしさに疲弊した様子だった。


 ……参議院外交防衛委員会はこれをもって終了。

 委員会の採決により与党自主憲政党、公民党、そして日本改新党の賛成により、防衛出動の承認決議案が参議院本会議に送られた……

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