第三章【皇国篇】
第9話『天皇と女王の会談・さだめの二人』
日本国憲法において、天皇は、国政に関与することのない日本国の象徴であり日本国民統合の象徴と定められている。
戦前は神格化されていた天皇。
しかしながら、この国の歴史を振り返えれば、天皇が実権を握った期間の方が少ない。
天皇は常に、民の苦しみ、悲しみに寄り添い、神に祈り、喜びを共に分かちあってきた。
方舟の王族、重臣らは、そのような日本の国柄に興味を持った。
精霊に敬意を払い、精霊の恵みに感謝する祭祠王──共通する点に、ミュラは感慨を覚えた。
黒塗りのセダンが皇居に進入する。
皇宮警察官の手により門が開かれ、セダンがハンドルを切る。数台の車列が後に続く。
ミュラは緊張した面持ちで車窓を眺めていた。
「女王陛下?」
「だ、大丈夫よ」
平静を取り繕い、ミュラは岸本の問いかけに応じる。
天皇との謁見。国交を結んで以来ニ度目のはずであるが、ミュラは身構えていた。
デューゴス、もといカグツチを退ける手掛かりが皇室にある可能性が高いからだ。
皇居宮殿、
ミュラは深紅の装束──天皇と謁見するための最上級の礼装を正し、入口に入った……
天皇との謁見。
過去、天皇との会談内容を明かした大臣は辞任に追い込まれている……
決して明かされることのない会談が今、始まる──
* *
夕陽がビルを染め上げる……高天ヶ原メディカルセンター屋上。
柵にもたれかかる美咲。傍らでは洋祐も柵に背を預ける。
「参考人招致か」
洋祐が呟く。
「うへ~……もうやだ」
美咲が目を瞑り、猫のように上体を伸ばす。
事前または事後に国会の承認を必要とする防衛出動。その審議のため、美咲は政府関係者として参考人招致を受けていた。当然、政府与党は渋ったが、民衆党はじめ野党の強い要望で、数日後に審議を控えていた。
「……まあでも、総理も荒垣大臣もかばってくれるんだろ?」
「そんな他人事みたいに」
膨れっ面になる美咲。洋祐はそんな彼女の頭を撫でてやる。
「民衆党からはあのクイズ王が出るらしいぞ」
いたずらっぽく洋祐が笑うと、美咲は変な声を上げてへたりこんだ。
笑っていた洋祐だったが、ふと顔つきを変え、つぶやく。
「……俺も見ちまったんだよな、カグツチの幻」
美咲が頭を上げ彼を見やった。
「──洋祐君! 美咲さん!」
──振り向くと、高原が駆け寄ってきた。
「終わったんですか? 天皇陛下との謁見」
「うん。そのことでふたりに話があるんだ」
「?」
……階下へ降りると、高原の執務室に通される。
ソファーを勧められ、ふたりは着席。高原が対面に座った。
「太陽因子について新たな発見があった……因子を宿す方が新たに見つかったんだ」
高原が切り出した。
「宿す方……それってまさか!?」
「天皇陛下だ」
高原は語る……
簡易検査で天皇に太陽因子が見つかったこと──すなわち、太陽神天照大御神を皇祖とする日本神話の裏付けに繋がること。
そして、方舟の精霊魔法と美咲の歌の相乗効果で太陽因子を宿す日本人が増加しつつあること──
「……で、一昨日、洋祐君に血液検査をしただろ?」
「ええ……ってまさか……!?」
「ああ、洋祐君の体内からも太陽因子が見つかった」
目をむいて驚く洋祐。
高原は顎に手を当てて考え込む。
「これは仮説に過ぎないが……太陽因子を宿す美咲さんのそばにいて影響を受けたのだと考える」
洋祐と美咲が顔を見合わせ、しばし沈黙する……
「あ、陛下と洋祐君含めて太陽因子を宿す日本人が増えつつあることは秘密にしておくらしい。荒垣大臣からの指示だ」
「わかりました……」
* *
【 国 会 中 継 】
【 参議院外交防衛委員会より中継 】
NKH──日本公共放送による、参議院外交防衛委員会の中継が始まった。
この審議はNKHのみならず、動画サイト、匿名掲示板、その他メディアで取り上げられ、国民の関心を集めていた。
無論、方舟のミュラ、バシス、そして重臣らも首相官邸で中継を見守っていた。
……バシスには当事者として出席する意思があったが、これはあくまで日本国内の問題であるとして岸本たちから断られていた……
『国会中継です。本日は、緊急事態につき政府が国会の承認を事後に回した防衛出動の審議が予定されています。岸本総理大臣、阿部副総理兼外務大臣、荒垣防衛大臣が出席しての集中審議となります』
テレビ画面には、ダークグレーのスーツを身に纏った岸本、濃紺のスーツの阿部、そして黒のスーツの荒垣が閣僚席につき、原稿を読む様子が映し出される。
『与野党幹事長・書記局長会談により、内閣官房参与、西村美咲氏の参考人招致が決定されました。野党側は厳しく追及する構えです──』
片隅の席に緊張で固まる美咲が映る。
リクルートスーツに首からは政府関係者IDを下げている。
日方条約締結後の政府の対応を追及する、国会の論戦が始まった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます