第二章【魔界篇】
第6話『国家安全保障会議・戦場の歌姫』
西ノ島──方舟に現れた飛竜。
日本国政府は内閣危機管理監を室長とする官邸対策室を設置したが、事態はその範疇を越えていた……
単なる生物の出現にとどまらず、魔界より現れし軍船は方舟に対する攻撃を開始した。
……内閣危機管理監はあくまで内政の危機に対処する役職であって、防衛上の問題に対処するには、内閣総理大臣を本部長とする武力攻撃事態対策本部の設置が必要なのだ……
国家安全保障会議・緊急事態大臣会合が開かれる。
武力攻撃事態に際しての基本的対処方針は、ここ国家安全保障会議で決められることとなっている。
「総理入ります」
岸本内閣総理大臣が会議室に入る。
阿部副総理兼外務大臣、荒垣防衛大臣兼内閣府特命担当大臣、ほか主要閣僚が着席していた。
「では防衛大臣。状況の説明をお願いします」
「はい。方舟からの連絡によれば、魔族軍の軍艦五隻と飛竜十数騎が方舟に侵攻。方舟海軍戦艦『ウォーリア』が撃沈されました。現地には今、護衛艦やまとが調査名目で航行しています」
荒垣の報告に続いて、阿部が挙手する。
「先ほどジョーカー大統領から支援の申し出がありました。第七艦隊は準備態勢を整えていると」
「総理。緊急事態につき国会の承認を事後に回す必要がありますが、防衛出動の下命を」
荒垣が進言する。
「ええ、電話閣議の後に直ちに承認します」
非常事態で閣僚を招集する暇がないため、電話連絡で閣僚の承認を取りつける方法とした。
「では、武力攻撃事態対処法に基づき、武力攻撃事態対策本部を設置します」
岸本が会議を終えようとした時──
「……総理、ぜひお耳に入れたいことが」
「?」
荒垣が小声で岸本に話しかける。
「数週間前、中国吉林省の弾道ミサイル基地に動きがあってから、軍の動きが沈静化しています」
「嵐の前の静けさ、ですか」
岸本は腕を組み、唸った。
* *
海原を大きな影がかすめる。
飛竜が咆哮を上げ、翼を振り下ろす。
目指すは護衛艦やまと──
──その戦闘指揮所では敵の接近を捉えていた。
インカムを押さえつつ
「飛竜と思われる目標群α、右舷より接近! 続いて目標群β、後方より接近」
「了解──艦長、攻撃します」
「了解」
船務士からの報告に攻撃指揮官が応じ、艦長が許可を下す。
「右対空戦闘! 近づく目標! 副砲攻撃始め!」
「トラックナンバー一六二八から一六三〇、後甲板副砲撃ち方始め──」
攻撃指揮官の命を受け、砲術長たる洋祐が射撃号令をかける。
前方、後方に設置してある一二七ミリ単装速射砲のうち、後方の砲が動き出し、右舷を指向する。
砲身が角度を微調整し──火炎を吹いた!
突如、三騎の飛竜が爆発、四散した。
やまとの甲板が光り、瞬間遅れての出来事だった。
飛竜に跨がる兵士は恐怖を覚えた。
「目標群α、β、さらに接近!」
「──CIWS起動! 撃ち方始め!」
艦上各部に設置されている二〇ミリガトリング砲のうちの二基が起動し、自動制御で照準する。
──発砲!
毎秒三〇〇〇発もの鉄の暴風が飛竜を襲う。
あっという間に飛竜は兵士もろとも血飛沫と化し、海の藻屑となった……
「全目標撃墜……近づく目標なし」
船務士の報告に洋祐が胸を撫で下ろす。
「東城三尉、よくやった」
砲雷長が洋祐をねぎらう。
「……彼女さんの方も、うまくいくといいな」
「ええ──」
* *
護衛艦やまとが飛竜を撃退する一方、方舟海軍は出撃の用意を整えつつあった。
水夫が帆を張り、縄を解き、旗艦『スマーケン』の出港作業を行う。
桟橋に軍官の一団が現れる。
「大公殿下、ご乗艦!」
バシスが王族用の軍服姿で梯子を昇る。
そして後に続く若い女……西村美咲だ。
段差につまずきそうになる美咲をバシスが支え、彼女は照れつつ礼を言う。
「……初めての試みとなるな」
「お気遣いありがとうございます殿下。でも大丈夫です」
美咲は平静を装い、バシスに答えた。
汽笛が鳴る。
波をかき分け、
……海原を進む旗艦スマーケン。
「間もなく自衛艦隊との合流海域です」
艦長がバシスに報告する。
「よし──『戦場の歌姫作戦』開始」
護衛艦やまとを筆頭とする自衛艦隊がスマーケンを取り囲むように護衛する。
スマーケンが魔方陣を展開。ブルーの輪が艦隊を包み込む。
……一体何が始まるのか。
音響機器、配線、楽器が配置された甲板……そこに美咲が現れる……その身には華美な衣装を纏う。
「美咲殿……頼んだぞ」
「はい!」
美咲の周囲に魔方陣が展開。輪が足元から頭上へと回りながら美咲を包む。
音楽が鳴り響く。
荘厳な旋律に続き、徐々に高まるリズム。
美咲が透明感のある声色で歌い出す。
サビに入るとアップテンポになり、美咲の声が弾ける。
……十数年前流行った、日本神話とギリシャ神話を題材にしたアニメーションの主題歌だった……
その様子は護衛艦やまと戦闘指揮所でもモニターされていた。
「やるな……」
洋祐がこぼす。
「──敵艦隊、動き出しました!」
船務士の報告に洋祐は我に返る。
眼前のディスプレイには禍々しい魔界の軍船が迫っていた──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます