第5話『武力攻撃事態・火之神の挑戦再び』
曇天にそびえる禍々しい造形の宮殿……その大広間。火炎に照らされる玉座に座るはカグツチだ。
彼はひとりの大男を見下ろしていた。
青き肌に短く刈り上げられた銀髪。左目には傷痕の残る隻眼の男……ローブ越しにも鍛え上げられた肉体がわかる魔族の大男だった。
「──方舟侵攻は任せたぞ。大都督」
「御意に」
魔方陣が展開し、大都督なる魔族は去った……
……大海原。見渡す限りのパノラマが広がる。
漆黒の軍艦が波をかき分け、吐き出される煙が蒼穹を黒く汚す。数は五隻。
その軍艦の中に彼はいた……
「大都督! 飛竜が間もなく発艦できます!」
鎧をつけた軍官が報告した。
大都督はフと笑う。
「出撃させろ」
「はっ!」
飛竜が翼を振り下ろし、軍艦を飛び立つ。
火炎を吐き空を舞う。
背に乗る兵士が手綱を引き、攻撃目標へと向かった……
* *
事態は方舟当局にも伝えられた。
「──襲撃!?」
「はい。すでに戦艦『ウォーリア』と『スマーケン』を出港させています」
椅子から立ち上がったバシスに、軍務卿を兼ねるローデウスが告げた。
「日本国政府への連絡は?」
「すでにイナバ殿が官邸に伝えました。荒垣大臣と連絡がついたと! 護衛艦やまとを向かわせたとのことです──」
……海原を全速力で航行する護衛艦やまと。
艦内、CIC──戦闘指揮所に艦長が詰め、艦は戦闘態勢に移行した。
照明が落とされた指揮所にはモニターの光のみが照り、戦闘の緊迫感を漂わせる。
洋祐は砲術長として艦の兵装を担当していた。
「飛竜と思われる対空目標探知。数十一。まっすぐ方舟に飛翔しつつある」
「引き続き、対空見張りを厳となせ」
艦長の命令に洋祐は身を引き締めた。
* *
海上自衛隊自衛艦隊司令部。
統合任務部隊司令部が置かれる作戦センターでは、東城宏一自衛艦隊司令官が現地部隊の指揮を執っていた。
司令部要員がデスクに並ぶ。
デジタル迷彩模様の青い戦闘服を身に纏い、手を組む宏一。
「司令官、やまとからの中継映像です」
中央スクリーンが切り替わる。固唾を呑む一同。
現れたのは、異形の存在──
数隻の軍艦だった。
周囲には紫の光を放つ魔方陣が回り、漆黒の船体に血管を思わせる紅蓮の禍々しい塗装が施されている。
突如、軍艦の舳先が光った!
一瞬遅れ、方舟の軍艦が発火し、黒煙を上げて爆発する……弾薬に引火したようだ。
「一隻撃沈されました! 所属不明艦が方舟海軍に攻撃を開始したとのことです」
宏一が顔をしかめ、拳を握りしめた……制帽を深く被り、俯く。
幕僚たちが宏一を見つめる。
「東城海将……」
「──官邸に連絡だ!」
* *
首相官邸には官邸連絡室が設置。内閣危機管理監を室長とし、関係各省庁局長級職員が集められていた。
「竜だと!?」
問いただす危機管理監。
「はい。方舟は『ワイバーン』と呼称しています……方舟とは別世界の魔界の生物、とのことです」
「──先ほど、方舟近海に軍用艦艇の展開を確認!」
「状況が不可測だ。万が一に備え、連絡室を官邸対策室に改組する!」
「危機管理監! 方舟の軍艦が一隻、撃沈されました!」
衝撃の一報が飛び込み、ざわめく官僚たち。その中、荒垣が入室する。
「防衛大臣……」
「今、武力攻撃事態対策本部の設置を総理に打診したところです」
荒垣が告げた。
「……もはや、内閣危機管理監の私の手には負えないかもしれません──」
……内閣危機管理監はあくまでも内政上の危機管理を担当する役職でしかない。
防衛上の危機には国家安全保障局長が担当。さらに内閣総理大臣を本部長とする武力攻撃事態対策本部を設置すると定められている……
魔軍による武力攻撃事態。
日本国と方舟両国に、かつてない危機が迫っていた──
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