4.悪の処刑
「何してるの」
不意に教室に響き渡ったその凜とした声。
この学校に通うものならみんな知っているであろう声だ。
「志賀咲生徒会長、、、」
「その呼び方はやめてと言ったでしょハル」
「そっちこそハル呼びはやめてって言ってるよね。志賀咲生徒会長。」
「ハルがなかなかその呼び方を変えないからでしょう」
なんて言って少しだけ不機嫌そうに頬を膨らませたこの少女こそ、志賀咲 華。
この学校の生徒会長サマである。親が政治家だとかなんとかで教師も頭の上がらないのだと前に誰かが噂していたのを耳にしたことがある。当然僕自身も彼女のことは知っている。いや、知らないわけがなかった。
だって彼女は僕の幼馴染なのだから。
いや、腐れ縁、そう言ったほうが正しいだろうか。
所詮僕と彼女はそのレベルの関係である。それ以上でもそれ以下でもない。ただ単に家が近くて昔はよく遊んでいた。それだけである。
「また怪我を増やしたの?」
「僕の意思じゃない。あいつらが勝手にやっただけだ」
「そう、、、それよりも外が騒がしいわね。何かあったの?」
「、、例の制度だよ。今回処刑されたのは佐々木涼介。僕のクラスメイトで、僕をいじめてたグループのリーダーさ」
それを聞くと志賀咲生徒会長もとい華は驚いたようにこちらを見る。
「まさかハルが、、!ぐへっ」
「そんなわけないだろ。あいつが落ちた時僕はここにいた。窓から下を覗き込んでいたから下にいた誰かは僕のことを見ているはずだ。それなのに僕があいつを突き落とすなんてできないよ。それにサイレンがなっている。どう考えてもいつものだろ。」
全く何を言い出すのだ。思わず反射で頭を叩いてしまったじゃないか。こんなところ誰かに見られでもしたら明日からの僕へのいじめが悪化することが目に見えている。
志賀咲生徒会長様に暴力を振るった最低な男っていうありもしないデタラメの噂とともに、だ。
しばらく頭を抑えていた華だったがすぐに復活すればこちらを見て文句を言いはじめる。それを適当にやり過ごしていれば、不意に教室の扉の開く音がする。
思わず華も手を止めそちらを見ゆる。
「あらら、そっちの少年に用があったのだけれどもお邪魔しちゃったかな」
くすくすと笑う男はそんな風にチャチャを入れるとこちらへと歩み寄ってくる。通常ならば僕のような男はとっさに華を庇うように立ち「何者だっ!!」だなんて正義感たっぷりに叫ぶのが定番で、そんな僕の姿を見て華がキュンとときめき恋が始まる。
そして目の前の男が襲いかかってきて僕はそれを華麗に倒し華を守り抜き「君のことを一生守るから」だなんて告白に似た言葉をいう。
そんな流れが普通で当たり前で、、。
だがまぁ僕がそんなことをするわけもなく。まさに敵前逃亡。回れ右で逃げ出そうとするもすぐにその手を掴まれる。
「助けて華」なんて言おうとした瞬間だった。ぐいっと掴まれた手を引き寄せられる。自然と体は男の方に引き寄せられる。
逃げようともがくのになぜだか引き離せない。なるほどこれが陽キャの力か。それともこの人は男が好きだとかそう言った部類の人なんだろうか。いや別に軽蔑などをするわけではないのだけれども。それにしても普段から外でナンパでもしてそうな見た目なだけあって(失礼)この男は、所詮家でネットしかやっていない僕なんかよりは力がある。
顔をあげさせられ強制的にそちらを向かされる。
何もかもを見透かしていそうなその瞳に自分を写すのが嫌で目線をそらそうとするが掴まれた手がそれを許してなどくれなかった。
「なんですか」
「いえ、いじめの主犯が死んだというのに随分と君は冷静なんだなと思ってね」
「、、別に。それがこの世界の普通でしょう?」
そう。
これが。この反応が。
『あぁ死んだんだ』レベルの反応がこの世界の常識。
少なくとも一人ではなくなったその瞬間に僕はその演技はできていたはずなのに。
なぜこの男はそれを問い詰めるんだろうか。
「君はきっと大切な人間が死んでもなんとも思わないんだろうね」
急に失礼だな。
そもそも僕にとって大切な人間なんているだろうか。
隣で困ったようにこちらをみてる志賀咲、、、、いやないか。
ただの腐れ縁だしね。彼女が死んだところで僕へのダメージなんてせいぜい夕飯で食べればいいかととっておいた別に好きでも嫌いでもない残飯が誰かに食べられていたレベルのショック度だろう。
「わぁ、、、本当にひどいね君は」
まずい、声に出てただろうか。流石にこれを華に聞かれていたらまずい。
それを周りに言いふらされて変な噂が立つのはごめんだ。極力目立ちたくないのだ。ただでさえいじめで目立っているのだから。いじめ以外のところでは平穏に暮らしたい。華にそれを親に告げられたらと思うと身の毛がよだつ。それこそ僕の人生の終了だ。焦ったように振り返り華の方を見るも彼女は怒った様子も悲しんだ様子も特になく不安げにこちらをみている。なんなら大丈夫?とすぐにでも問いかけてきそうな勢いだ。まぁ、実際大丈夫ではあるのだけれども聞かれていなかったのは良かった。
「てかお前誰なんだよ。いきなり現れてさ。少し失礼だよ。」
「そんなに焦らないでよ。別に俺が誰であろうと君には関係ないだろう?」
そもそも、君はそこまで他人である俺に興味なんてないはずだ。
まるで僕のことを分かりきったかのような口調。
確かに最初はかけらも興味は湧かなかった。やはり僕は他人への興味というものが通常の人間よりかは退化しているようで、あまり興味を示さない。
だが今は違う。
この男に。奇妙すぎる素性のわからないこの男に、ほんの少し興味ある。
この男が何なのか。何者なのか。こんな学生がこの学校にいたのなら少なくとも僕が見逃すわけがないのに、今日初めてこの男のことを認識した。
それなのにこの男はさも当然のようにここにいた。現れた。
「いや、少し君に興味を持ってさ、」
だって君は初めて僕の仮面の奥に気づきかけた人間だからね
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