第二章 処刑開始
3.神様を信じるか?
あなたは神様を信じますか?
神という存在を。
そう呼ばれる神話の中の存在を。
よく聞くのは宗教だとかそういったものだけれど、僕はくだらないと一蹴できる。
神なんてものはいない。
神様なんて存在しない。
だってそうだろう?神頼みだとかなんだとか。
そんなものにすがるけど本当に欲しかったことを教えてくれたことが一度でもあるか?
本当に心から知りたいことを神様が教えてくれたことがあったか?
結局のところ人間というのは心の中に神様というものを住まわせていて心から知りたいと思ってるつもりの質問は心の奥底の深いところ自分でも気づいていないいわゆる深層心理と呼ばれるところで答えを出しているのである。
だから神様に聞けばなんでも教えてくれるなんて馬鹿な考えにたどり着くのである。
だから本当に心から問いかけたい問いは誰からも答えがもらえないのだ。
それは自分でも、深層心理でもわからないことだからだ。
まぁなんでこんなことを急にいうかというと現在僕が神様に問いかけたくて仕方がないからである。
僕の人生というのはお世辞にも幸せと言えるようなものではなかった。
僕が幼い頃に兄が自殺。それに病んで母親も自殺。
残された父親は酒とギャンブルに明け暮れ僕へ毎日性的虐待や暴力を振る毎日。
そんな父親が急性アルコール中毒でこの世をさったのはもう一年ほど前になる。
孤児となった僕を預かってくれている親戚は当然おらず孤児院で暮らすこととなったのだがこの孤児院がまた最悪だった。本当に。
院長の機嫌で1日のスケジュールは一変する。
ひどい時なんて一日中暴力を振るわれるのだから。たまったもんじゃない。
それどころか自分で稼いで親の残した多額の借金を返さなくてはならないというのに院長は僕が働くのを許してなどくれなかった。
そのためヤクザや親戚などから命を狙われる日々。最近は内緒で働くことにしたが見つかったらたまったもんじゃない。それこそ殺されてしまう。
やっとの思いで学校へ通えるようになったと思ったら今度は生い立ちをいいように作り変えられ有る事無い事勝手に広げられあっという間にいじめの対象に成り下がった。本当に何がどうなったらこんな波乱万丈な生活になるのだろう。
何をしたというわけでもなかった。特別悪さをしたことなんて生まれてこのかた一度もなかった。できるわけがなかった。なんで毎日命を狙われなきゃならないのか
なぜ普通に生きてきただけの僕がこんな思いをしなくてはならないのか。
神様がいるのならば教えて欲しい。
まぁ、そんなネガティブな思考になるのは現在進行形でクラスメイトに絡まれているからだけれども。
「狐影くんてなんか臭うよね」
「獣臭じゃない?狐影だし」
「狐だしねwww」
なんてケラケラと笑っている女子の集団を軽くにらめば
「こっち見たきもーい」なんてケラケラと笑われる。
頭がいたい。
うるさい。
もう一度上を向こうとした瞬間に激痛が腹部に走る。
殴られた。そう理解するよりも早く次の攻撃が同じところに入り思わず膝をつく。
また一発。一発。一発。
右から左から。休むことなどなく浴びせられる蹴りと殴打に治りかけていた傷口がまた広がっていく。青いアザは更に酷く広いものになり口が切れたのか血の塊が殴られるたびに口から吐き出される。
あぁ神様もしもこの世に存在しているのなら教えてください。
僕が何かしましたか。
あなたを怒らせるようなことでもしましたか。
したならば謝ります。
僕に平穏を日常をください。
なんの変哲も無い平穏な日々をください。
、、、、なんて馬鹿らしい。
神なんていない。
救いなんて無い。
終わりは来ない。
人間生まれて死ぬまで決められた運命の言いなりなのだから。
やっと解放されたのは小一時間ほどたった頃だろうか。
教室に荷物を取りに行きとっとと帰ろうとしたそのとき。
聞き慣れたチャイムが鳴り響く。
怪異だとか、そんなんでは無い。
『本日の犠牲者は 佐々木涼介さんです』
その名前は聞き間違えるわけがなかった。
先ほどまで僕に暴力を振るっていたグループの奥で楽しげに笑っていたこのクラスのいじめの首謀者。
リーダー。
中心人物。
今日の処刑は彼、だというのか。
散々僕をいじめてきた集団のトップが。
ふつふつと沸き起こるなんとも言い表せぬこの感情に思わず拳を握りしめる。
それは歓喜なのだろうか。
嬉しくてたまらないという、、喜びなのだろうか。
人が。クラスメイトが死ぬというのに。喜んでいる自分は異常なのだろうか。
しかし彼は自分をいじめていた人間である。
いなくなることを喜ぶ権利は僕にはあるのではないだろうか。
なんて結論の出ない自問自答を脳内で繰り返していれば不意に背後に視線を感じる。
一瞬の出来事なのにそれはとても長い時間だったかのように感じた。
教室の窓の向こうで真下に落ちていく彼が驚くほどゆっくりに見えた。きっと感じた時間よりもはるかに一瞬のことだったのだろうけれど。こちらを恨めしそうに睨むかのように見つめた彼と喜びと混乱の混じった僕の目がかち合う。
その瞬間その場の時が止まったかのように錯覚するほどだった。
重力に乗っ取って僕が目があったと思った瞬間には彼はもうその視線の先にはいなくなっていたというのに妙にリアルだったその数秒間の気持ち悪さと気味の悪さに冷や汗が吹き出す。
ふいに戻ってきた息を吸い込み大きく深呼吸をすれば窓に近寄る。手が震えてうまく窓の鍵が開かない。自分の体のはずなのにまるでいうことを聞かない。
震える指先でなんとか鍵を開ければ思い切り窓を開く。
入り込んでくる空気はこの季節とは思えないくらい生暖かくねっとりと肌を撫でる。
その感覚の気持ち悪さに身を引きたくなるが全身に力を入れ身を乗り出す。
確かめなくてはならない気がした。
あの数秒間のような一瞬。目線がかち合ったあの瞬間のなんとも言えない気味の悪さをぬぐいたくて、また、彼が落下した時に抱いた僕自身の感情がどんなものだったのかが知りたくて、その先に踏み出さなければいけないような、真実をしっかりと目に焼き付けなければいけないような。
反面、その真実を知ってはいけないような。気が付いてはいけないような。
そんななんとも言えない感覚に襲われて。
身を乗り出して彼が落ちたであろうそこを目視する。
ぐちゃぐちゃになった遺体は、とてもじゃないが数時間前まで自分が暴行を受けるのを愉快そうに笑いながら見ていた人間とは思えなかった。
両手足は変な方向へと曲がり、頭部の半分がへしゃげており片方の目玉は取れ転がっている。はらわたが飛び出てそこら中に臓器が散乱している。全身の血が飛び出たのではないだろうかというほどまでのおびただしい量の血はあたりを真っ赤に染め上げていた。
目玉が取れ何もなくなった虚空の眼球があった場所と不意に目があったかのような感覚に襲われる。いや、実際は目玉がないので目が合うなんてことは物理的に不可能なのだけれども。反射的に仰け反り窓を閉め距離を取る。
恨めしそうに憎らしげに。落ちる際も、そして先ほども。
彼と目があうたびに感じるとてつもない不快感。
嗚咽がこみ上げて言い表せぬような吐き気が胃の中を駆け巡った。
駆け上がってくる吐き気をなんとか抑えれば深呼吸を繰り返す。
まるで、次はお前だ、とでも言いたげな。
僕の未来を見透かしたかのようなその視線の気持ちの悪さを思い出して身震いする。
そんな僕をあざ笑うかのように二度目のサイレンがなる。
それは完全に彼、佐々木涼介が死んだことを告げるものだった。
あの男は死ぬその瞬間までいじめっ子だった。
僕という人間を苦しめた。
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