2,この世界の理
20XX年。
人口の爆発により我が国の借金はついに一つの国として成り立たなくなるレベルまでに落ちぶれた。
そこで政府がとった政策はなんの利益を持たない一般市民からランダムで数名を1日ごとに処刑するというやり方、当然当初は反対派が多く過激派ともなれば国会にまで乗り込む者もいたらしい。
そこで政府は処刑対象者にある項目を加えたのである。
その条件が「過去に犯罪歴のある者、またその家族」である。
犯罪者なら、また犯罪者予備軍ならば殺されても構わないだろう?と言う国の暴論。
当然ながら反対者が現れるかと思えばそんなことはなかった。
所詮人間というのは我が身が可愛いもので犯罪者がいなくなるのならいいのではないだろうか、自分が少しでも危険にならないのなら、と。
一般人に犯罪者というタグが着いただけで誰もそれを除外することに反対しない。
それに関わったというだけの一般人までもがひとくくりで犯罪者だとして切り捨てるのが所詮はこの世の中なのである。
犯罪者が定期的にこの世から、この世界から、日常から、消去されて行くのが当たり前になったのこの世界での犯罪率の少なさは圧倒的で、この星で一番安全な国と言われるほどにもなりその政策は世界的に評価され多額な資金を得ることになった国の経済は上を向き始めた。
だがやはり人口の量はとんでもなく借金の返済にはとてもじゃなく時間が必要であいも変わらずそんな非道とも取れる政策をこの国は続けている。
まぁそもそも僕は、そんなことをして何になる、だとかそんなの非道だと思わないのか、なんて正義ヅラするつもりなんてもっとうないのだけれど。
第一、ひどいと思わないのか?だとか悪であることの理由を肯定を誰かに聞いてしまうあたり結局そんなのは正義だなんて言えない。自分で責任が取れないことというのは正義だなんて言えないのだ。そんなもの自分の自己満足を押し付けただけだ。
ただの自己中だ。
腐った世の中だな、なんて呟いて外を見れば真っ黒な軍服のような警察の服のようなきっかりした服を着た集団が先ほど死んだ人間の元に近寄って囲む。
その集団のリーダーだろうか、胸元に一際輝くバッチをつけた男がさらにその遺体へと歩いて行く。これもいつも通りの光景。
男が何やら呟いて手をかざすと見るも無残だったその死体は周りにいた男たちが運んでいく。普通の人間だったらもっと現場検証やらなんやらしないのか、とかそんな風に思うだろう。疑問を抱くだろう。でもこの世界ではそれが当たり前なのだ。ただ当たり前なのだ。なんの説明をすることだってできない。当たり前だ。そうとしか言いようがないのだ。先ほどの彼らのような「帝国騎士団」と呼ばれるところに属しているエリートである。彼らは武術から頭脳といったものまでたけたものたちで、この世界の治安を守っている。あっさり消えた死体のあった場所を見つめる。そこにあるのは虚無だが。こんなもんだ人の一生なんて。
死んだらそれで終わりなのだ。
生命を終了したその瞬間に自分の意思で何かを選択することはできなくなる。
ご飯を食べるとか、叫ぶとか逃げるとかそんな当たり前であるはずの行動が死んだその瞬間にできなくなるのだ。
彼も同じだ。過去に犯した、たった一回の間違いで先ほど処刑され弁明も何もいう猶予なんてなくこの世から跡形もなく消されたのだ。戸籍も何もかもだ。彼がこの世の中に存在していたという証拠なんて今この瞬間あの男が手をかざした瞬間に消え去ったのだ。
そんなもんなのだこの世界で人の死というのは。
誰かがこの世で死んだところで知り合いじゃなければあっという間に消されてしまうのがこの世の理のようなものなのだ。
なんて考えていれば学校へと着いていた。
私立幾何咲高校。この辺ではそれなりに有名な高校である。
昔有名人が卒業しただとか何とか言っていた気がするレベルの場所だ。
僕にとってはそんな学校の歴史なんてどうでもいいことなのだが。
今朝僕がのっていた電車や停車駅はこの学校ではそれなりに利用率の高い場所であるため当然あの出来事を目撃した人間はこの中にたくさんいるはずなのだ。
通常の反応ならば、あちらこちらから今朝の事件についての話題が挙げられているはずなのだけれどもどうだろうか。
あぁ、、御察しの通りだが当然のように誰も何も言っていない。
どうでもいいのだそんなこと。関係なんかないのだ。
自分は生きているからそれでいい、それしか考えてなどいないのである。
自分のしたことを恨め。自分の生まれた家系を罪を犯した親戚を、恨めと切り捨てる。だって自分は生きているから。
不意に手元にあった携帯が震える。
パスワードを解除してそこに流れる言葉を見つめる。
先ほど僕自身が呟いた言葉への返信の羅列だ。
『わかりますそれ』
『黒猫さんのいうことにはいつも考えさせられます』
『さすが黒猫さんいうことが違う』
『今朝の死人について黒猫さんはどう思いますか』
黒猫、というのはSNSでの僕のハンドルネームだ。
昔は独り言のように誰に向けてでもないただ自論を淡々と呟くだけだったのだがいつの間にか信者とも呼べる存在達ができてファンとも取れる彼らは僕の言葉の一つ一つを持ち上げる。いわゆるネットの世界の有名人。ネット界の正体不明の吟遊詩人。
なんて二つ名がつくところまで上り詰めていた。誰も僕の本当の姿なんて知らない。
僕のことを知っているのは、僕の本当の姿を知っているのは僕だけでいい。
本当の僕なんてバレてしまったらその時が破滅の時なんだから。
次々となる通知音に呆れたように通知を切ろうとした瞬間だった。
煩いな、誰かがどこかで呟いた。
その言葉の拡散は早く、あっという間に広がった。
まるでその意見に同意しないのが異端であるかのように同意しなければ弾かれる。
くすくすと笑うクラスメイトに呆れながら通知の音を消して席に着く。
ネット界の正体不明の吟遊詩人、黒猫は狐影春翔というなのごく普通の高校生。
すなわち僕である。
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