神はインターネットで見た

きり

画面端の軍神

「きたぁ軍神!マルスの先読みからの猛攻!コンボが決まったぁー!」

 ミコミコ動画の格ゲー大会動画をみて一人で勝手に盛り上がる俺は丘本 勇樹16歳、一般的なゲーム好きの高校生だ。ダイアグラム相性不利とされている、弱いキャラクターですら強烈な攻めで逆転勝ちしてしまうセンスのあるとあるプレイヤーに俺は釘付けになっていた。本名は知らないけど、動画で"マルス"と呼ばれていた彼だ。出てきたのは割と最近だが、その強さは世界レベルだと思った。

「猶予2F(1/30秒)であの技を繰り出す判断力はさすがですね」

 解説が詳しくその凄さを述べる。うんうんと頷く俺。俺だったら超必殺技をぶっ放しちゃうし、逆に硬直したところをボコボコにされて終わりだもんなあ。

「優勝はマルス、軍神はやっぱり強かった」

 マルスの強さに感動、否洗脳されている俺。マジ神。あと金髪に緑目で外国人みたいな顔立ちだから、いつも着ている迷彩服が様になってるのが悔しい。多分この人ユニ○ロの変な服着てもイケメンに映るタイプだ。

「絶対負けるけど一度戦ってみたいなあ」

 最新の大会動画を見終わり、マルスのトイッターに移動する俺。ゲームの解説をよくしているので、参考にフォローしているのだ。

「今度は万神のゲーセンに遊びにいくぞ、優勝は俺が持ってくからな」

 6分前のトイート。万神って俺の住んでるところじゃん。マジかよ。思わず地元のゲーセンの大会予定をネットで確認した。

「明後日……?そういえば、最近家庭機でばっかり練習してたけどあったなあ大会」

 引きこもり一歩手前の俺を呼び起こすいい機会だ。俺は生マルスを拝む準備をした。俺も外野じゃなくて、エントリーする予定だけど。幸い学校は定期テスト期間で、早く帰れる。テストなんて知ったことか。とっとと終わらせてゲーセンに向かうぞ!俺は奮起していた。


「今回はわざわざマルス先輩が来てくれたぞ!」

 大会当日、盛り上がる店内。そりゃそうだ。伝説のゲーマーがやってきたんだから。マルスは思った以上にカリスマがあった。男の俺が言うのもアレだけどイケメンだし、なんか腕っぷしもやばそう。台バンとかしたら逆に殴られそう。それと、威厳も感じられる。伊達に軍神のHNハンドルネーム名乗ってないな、と思った。

「さぁ、軍神に立ち向かう挑戦者たちよ、奮い立てぇ~!」

 実況にも熱が入っていた。


 俺の番が来たので、早速キャラを選ぶ。愛用しているいつものキャラで、生マルス拝めた興奮を抑えながら着実に攻防を繰り出した。今日は調子がいいのか、準決勝まであっさりと勝ち進んでしまった。

「勇樹くん、順調だね」

 顔見知りの店員さんに褒められえへへ、と返す俺。多分、マルスとガチで戦ってみたいのかもしれない。そしてマルスもまた準決勝まであっさりと進んでいた。決着が早すぎる。そして、運が良いのか悪いのか次の俺の対戦相手になっていた。

「準決勝、マルスVSユーキ!勝敗はどちらだーっ!」

 テンションの高い実況。俺も興奮を隠せないでいた。

「よろしくな」

「よろしくおねがいします!」

 アーケードの席に座るマルスは、やっぱりカリスマが溢れていた。夢のようだった。周りもざわつく中、俺はいつも通りを心がけて着実に攻める戦術を取った。深呼吸、キャラ選択。相手はこのゲームでは中堅の強さを持つキャラ。ちょっとだけ俺の方がダイアグラム上は有利だ。

「ん……マルスが押されている?」

 確かに彼は猛攻が売りなので、俺の着実な戦法と相性が悪いのか?HPゲージはマルスのキャラの方が低い。このまま超必殺技で押し切れるか。マルス側も超必殺技のゲージを残しているのに一握の不安を感じながら、俺はコマンドを打ち込んだ。

「決まっ……かわしたぁっ!?」

 油断した。とどめを刺そうとしたのが裏目に出る。攻撃をかわされたので、超必殺技のゲージが空になってしまった。ピンチだと思う暇もなく、マルスの反撃が始まった。着実で逃げられないコンボからの超必殺技。逆転負け。あまりにも華麗だった。

「超必で返したマルス、華麗なる逆転劇ーっ!」

 一気に盛り上がる店内。向かい側でプレイしている音ゲーマーから苦情が来そう、とどうでもいいことを思いつつ俺はひたすら感動した。負けて悔しいという気持ちはなかった。これは、本当に、神だ!

「途中まで良い攻めだった。最後までスタイルを崩さないことが大事だ」

 神からの直々のアドバイスを、ありがたく受け取る俺であった。


 結局、優勝したのはマルスだった。納得するしかなかった。大会の帰りに、俺は気になっていたことをぶっちゃけてしまった。

「あの、マルスさんってその髪の毛、染めてるんですか?」

 日本人には真似できなさそうな綺麗なブロンドだったので、つい聞いてしまったのだ。

「あ?地毛だよ地毛。俺は日本人じゃないし、そもそも人じゃない」

 何か変なことが聞こえたので、思わず聞き返す俺。

「人じゃない?確かに腕前は神ですけど」

「そりゃ俺は神だしな」

 面白い冗談だなあと、俺は笑った。

「信じてないのか?」

 怪訝な顔をするマルス。まさかこの人って若干電波なのかと嫌な予感がするが、俺は容赦なく尋ねる。

「え、マルスってHNですよね」

「マルスは本名だぞ」

「外国の方なんですか」

 マルスの表情が、すこし不機嫌になった。やばいこと言っちゃったかな。ため息をひとつつくと、彼は言い直す。

「……調和せし神々ディー・コンセンテスのマールスだ。意味はわかるか。」

「なんすかそれ」

「要するに俺はローマ神話の軍神、マルスそのものだ」

 え?と思わず言葉を失った。周りもなんか妙な空気になっている気がする。これ、ガチの危ない人じゃん。いや格ゲーの腕前は危ないぐらい凄いけど。とりあえず冷静になれ俺。相手に質問をしてみる。

「じゃあ、なんで神様がこんなゲーセンに来たんですか?」

 率直な問い。俺はゲーム大好きDKだから、一応本物だった場合も考えたいのだ。

「……言わせるな、信仰者集めだ。実際の戦争に介入するより、仮想空間で戦った方が都合がいいからな。」

 なるほど。何故かわからないけど、彼のカリスマ性と相まって妙に納得する俺。でもなんか照れくさそうだ。周りも彼をじろじろ見てる。

「なんでそんなことを?マルスって有名だからそんなことしなくても拝められているんじゃ……」

「最近は神に対する感心が薄れてきて、自分がいなくなっちゃわないか不安になったんだよ。」

 俯くマルス。なるほど、事情は察した。誰にも拝まれない神は滅びるもんなあ。ちょっとかわいそうになった。

「こ、この、なんか恥ずかしいことになったじゃないか!ユーキ、責任取るためにお前も付き合え!」

「は?」

 声を荒げたマルス。こわい。やっぱり本物かもしれない。こんなに俗っぽいとは思わなかったけど。

「お前も俺の信仰者を集めて、安心して神話の世界に戻らせてくれ!」

 ……なんか面倒くさいことになりそうなんだけど。


 偉大なる神話、伝説。俺の持っていた神聖な印象が崩れ去る、奇妙な日々が始まろうとしていた。

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