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『君にお願いがあるんだ』

そう言ったルーチェの願い事なんて改めて言われなくても気付いている。


だってそんなの考えなくてもこの展開から分かっちゃうよね?

まさかこの展開から『結婚して欲しい』とか『モフモフさせて欲しい』なーんて言われるわけがない。


後者なら考えてやっても良いが、前者ならばお断りだ!!

誰がお前と結婚なんかするか!!


「ええと……冗談ですよ?」

本気だけど。


「どうしてそんな泣きそうな顔をしているのですか?」

プププッ。


「ママ……。ルーチェ様は繊細だからー」

からかって遊んでいたらルーカに窘められた。


「ははは。すみません。なんかつい」

「つい!?」

涙目のルーチェが頬を膨らませて必死に涙を堪えている。

やばい……。新たな扉を開いてしまいそうな気分だ。


そんな事を思うと、ルーチェの身体がビクリと跳ねた。


……うーん。こっちの感情がルーチェに繋がっているのが分かっているから、それを逆手に取って遊んでいたけど……この何でもかんでも筒抜けの状況はそろそろ面白くない。


四代目神子に通信が遮断出来たのであれば、聖獣の私にだって出来るんじゃないかな?


「ええと……話を続けても良いかな?」

「駄目!!」

「……分かったよ」

私に即否定されたルーチェがシュンと肩を落とした。

そんなルーチェを優しくルーカが宥めている。


私のルーカはなんて良い子なのだろう!!

ちょ!?何勝手に撫でてるの!? ルーカのモフモフは私の……! 


って、落ち着け私。

……ええと、何だっけ?

ああ、そうだ。ルーチェに思考を読まれないようにしたいんだった。


私の推測からして……神であるルーチェは、民達の声に耳を傾ける為に常に回線をオープンにしているのだろう。

つまりはいつでもどんな感情でもルーチェの中に流れ込んでいる状態なわけで……そんな状態なのにも拘わらず……コレか。

……神って凄いんだな。私は改めてそう思った。

沢山の感情を受け止めていたら、常人ならばその重さに耐えきれずに精神を病んでしまうだろう。


「……君が思うほどにって凄くないんだよ」

いつの間にか静かにこちらを見ていたルーチェがボソッと呟いた。


「どうしてですか?」

「僕は受け身でしかいられないから」

「そんな事はないでしょう?」

「いや、僕がある特定の何か為に動くという事は『特別な事』になってしまうんだ。それは公平や中立な立場にいなければならない神がしてはいけない事なんだ」


確かに、今まで神様との面識も無く、いるかどうかも分からないと思って生きていた一般人から言わせれば……そんなをする神様なんて嫌だ。

信じられない。

それが仮に誰かを思いやっての行為であっても、その陰で泣かない人がいるかもしれない。理不尽だと憤る人がいるかもしれない。そのせいで死んでしまう人がいるかもしれない。


そんな事を考えていたら何も行動になんか起こせない。

そう。以前の私の様な一般人ならばそれで構わない。

だけど……神は?

神が何かに干渉するという事は多くの代償を抱える事になりかねない。

そして、その代償を払うのは……一般の民だ。


だったら……

「聖獣は違うのですか?」

「ん?」

は民に干渉して良いのですか?」

神が駄目なのに近い存在の聖獣は良いの?

理屈的にはどっちも駄目だと思うのだが…………。


「聖獣は良いんだ。聖獣は民に寄り添い、願いを叶えるものだから」

しかし、ルーチェは首を横に振りながら答えた。


……ああ。

私はなんていう生き物と混じり合ってしまったのだろうか。


私という人間は俗物で、自分勝手な生き物であるというのに……。


「良いんだ。……君は今のままで良い。悩んで傷付きながらも前を向いて歩ける強さがある。知らない相手を思いやれる優しさと思いやりがある。一度懐に入れた者に対しては何処までも寛大で寛容。裏切らない、傷付けない。愛情深い人だから」


…………。

目の前のイケメンな神がこんな事をサラリと言うんですよー。

なあーにー?やっちまったな!


いやー……褒められると茶化したくなるよね。


「私……そんな善人じゃないですよ?」

もうね……私は聖人君子か!って位に褒められすぎて、自分の事じゃないみたいだよ!?


「謙虚なところも素敵なところだよね」

「……そろそろ褒めるの止めません?」

どんな顔をしていたら良いか分からなくなるじゃないか!!


「本当の事しか言っていないのに」

そう言いながら微笑むルーチェの顔は――――神様だった。


はいー! 心のツッコミを頂きました!


そう!ルーチェは神です!最初からまごう事無く神様です!


いやー……神様っぽくないから忘れちゃうんだよね。


『寛大にして寛容』

それはまさにルーチェの事だ。


神のルールである【不干渉】を侵してまでルーチェがしたい事は……。


「四代目神子の残留思念を消滅させる事ですね」

私の言葉に一瞬だけ目を見張ったルーチェは、スッと表情を消して頷いた。


「僕の決断の甘さが歴代の神子達を苦しめる原因になった。僕は君の力を借りて今その楔を解き放ちたいんだ」


これが神様であるルーチェの願い事。


民の為に存在するのが聖獣の役目であるのなら――――

私が叶えないという選択肢はない。


だって、そもそもこの件をどうにかしたいと思って今まで動いて来たのだ。


私は今代神子のミーシャ姫を救いたい。

私に優しくしてくれたこの国の人々を幸せにしたい。


いつやるの!? 今でしょ!

……って、古いか。あははっ。



「その願い。叶えましょう」

「ありがとう!! 唯!」

「で、対価ですが……」

「対価!? あれー!? 今までの流れでこうなる!?」


だって、『みんなの為に!』って格好付けるのはちょっと恥ずかしいのだ。


「僕に出来る事なら……」

「言いましたね?よっしゃー!言質取ったり!!」


この方が私らしいよね?

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