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『ユーリの残留思念を消し去り、神子を穢れから解放する!』
そう目標を言葉にするのは簡単だが……実際にはどうしたら良いのだろうか?
神出鬼没の残留思念を
私は両腕を組みながらムムッと首を傾げた。
その為には餌が必要になる。
ユーリと同じ立場である神子のミーシャ姫も餌になりそうではあるが……個人的にミーシャ姫を巻き込みたくない。
そんな事をするぐらいなら私が変身して囮になる!!
……って、私、変身出来るっけ?
【万能の力】がどこまで万能か分からないけど――チートだもの。
ふと、顔を上げるとルーチェと目が合った。
相変わらず私の心が読めているルーチェは、慈愛に満ちた眼差しを浮かべながら、うんうんと首を縦に振った。
――へ、変身出来るんだ!? 凄いな! 万能の力!
コクン。
――本当に?
コクン。
――嘘ついたら針千本飲ますよ?
コクコクコクコク。
――じゃあ……元の姿にも戻れる?
コクンと頷きかけたルーチェは首を横に振った。
「……ごめん。あくまでも似た姿にはなれるだろうけど、君の身体は既に溶けて聖獣と混じってしまったから、何度も言ったけど……元には戻れない。ごめん。……本当にごめん」
ルーチェは悲しそうに眉間にシワを寄せながら何度も頭を下げてくる。
――そっか。
ルーチェの謝罪がストンと心に落ちた。
正しくは……もう諦めたが正解かもしれない。
今までずっと諦められなかったくせに、今頃こんなにもアッサリと諦められたのは……ユーリの存在が大きかった。
どうにもならない事をくよくよと悩んでいるのが馬鹿らしくなった。
確かに私は自分の本来の身体と生まれた場所や家族を失った……。
最初は『どうして私が……?』って思った。……でも、それは当たり前の感情だよね?きっと誰だってそう思うはずだ。
私は……理不尽な状況を簡単に受け入れられる女神の様な聖女じゃない。
私はそんな完璧な存在にはなれない。泣き言だって言うし、不満も溢す。落ち込みもするし、自分の気持ちから逃げたりもする。そんな生々しい人間の心を持っているのが私だから。
だから、私は『聖獣』になったのだと思う……。
私は生きているし、チートがあるからこの世界での生活にも困らない。
お酒も食べ物も美味しいし、みんな仲良しで幸せ――。
それで良いじゃないか。と腑に落ちたのだ。
望めばケモ耳の可愛い女の子にだってなれるのだもの!
という事で……ミーシャ姫の代わりに私が囮になるのは決定!!
偽ミーシャ姫で釣られてくれれば良いが……念のためにもう一つぐらい確実な餌が欲しい。
……何かないかな。ふむー……。
「ママ。本はー?」
「……へ?」
ポカンとする私の前にルーカが本を差し出した。
それは、先程まで読んでいたユーリの本だ。
「そ、それだ!!」
私はルーカを思い切り抱き締めた。
うちの子は最高!!天才!!モフモフが素敵!!
「……あの子の本が餌になるの?」
「はい!これでユーリは絶対に来ます!」
私はルーチェに向かってニヤリと笑った。
―――作戦決行は明日の夜!
***
「……で、どうして帰らないんですか?」
「えー?たまには良くない?」
ルーチェは私の大きなベッドに寝そべりながら、スヤスヤと寝息を立てているルーカの頭を撫でた。
何を考えたのか……ルーチェは、今晩ここに泊まると急に言い出したのだ。
クイーンサイズのベッドには、私とルーカが転がっても充分に空きがある。
しかし……ソレとコレとは話が別だ。
そう。良くない……。絶対に良くない!寧ろ邪魔だし!迷惑!!
「え……そんなに?」
呆然と瞳を丸くするルーチェにジト目を向けた。
「はい。はっきり言って迷惑です!」
「『迷惑』って……二回も言われた……!」
メソメソと泣き出すルーチェ。
ええーい!鬱陶しいわ!
私だって外見はモフモフが素敵な可愛い聖獣姿だが、中身は妙齢の女子だし、神とはいえルーチェは男だ。
顔は格好いいし、こんな一つ屋根の下の同じベットでなんて一緒に寝たら緊張するだろう。ドキドキして朝まで眠れないなんてベタな展開は勘弁して欲しい。
……って、ないな。
中身がコレなルーチェを男とは見れそうにもない。
なーんだ。心配して損した!大丈夫だった!!
「安心してくれて(?)何よりだけど……傷付く……」
「はいはいはい」
「適当!?」
「……これ以上騒ぐなら追い出すけど?」
「黙ります……」
ルーチェは瞳に涙をいっぱい溜めながら、両手で口元を押さえている。
……女子か! 女子力高いな!?
もう……。
ルーカを真ん中に挟むようにして、私もベッドに寝転んだ。
散々イジったが……ルーチェの考えている事は分かっている。
どうして急に泊まりたいと言い出したかも含めて……。
「ユーリの残留思念は綺麗さっぱり消しますよ」
「うん」
「同情はしているけど、手加減はしません」
「うん」
「ユーリのせいで五代目以降の神子は不幸せになった」
「うん……」
「背負わなくても良い業を背負って短命になった」
「……うん。僕のせいだ……」
「いいえ、全てはユーリが引き起こした事。歴代の神子達を苦しめてきたユーリは正しく裁かれなければならない。断罪されるべきです。だからこそ、私は手加減なんて一切しません」
ユーリに同情したら、被害にあった歴代の神子達が可哀想だ……。
「うん。分かった。全て唯に任せるよ」
「だけど……」
「ん?」
「ルーチェは神様だから……全てが終わったら、みんな平等に……悲しんであげて下さい」
私の言葉に瞳を数回瞬かせたルーチェは、柔らかく瞳を細めた。
「……ありがとう」
「べ、別に?ルーチェの為なんかじゃないんですからね!?」
「うん。ありがとう」
そんな風に素直に感謝されたら、段々恥ずかしくなってきたじゃないか!
私の中でツンデレモードが発動した。
「さあ、明日に備えて寝ますよ!?朝、起きなかったら殴りますからね?」
「ふふふっ。おやすみ。唯」
にゃーーーー!
余裕げなルーチェが腹立たしい!!
……が、私は黙って眠る事にした。
これ以上起きているともっと墓穴を掘ってしまいそうだからだ――――!
ルーカを抱き締めながら顔を伏せると……直ぐに眠気がやって来た。
思ったより疲れていたのだろう。
ウトウトとする意識の中で、ルーチェが何かを呟いた気がしたが……既に眠りの世界に片足を突っ込んでいた私には聞こえなかった。
『君に、こんな業を背負わせて……ごめんね』
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